第3惑星(4)トリッキージャンプ

「なっ、てめえは⁉」


「ただの賞金稼ぎよ……」


「マジかよ⁉」


「仕留める!」


「ヘタカッター!」


「⁉」


 ナスビは頭のヘタを外して投げつける。ヘタは鋭い軌道を描いて飛び、ケイちゃんの持っている銃を切断する。ナスビが戻ってきたヘタを受け取って笑う。


「へ、威嚇射撃なんて余裕かまさず、さっさと撃っちまえば良かったのによ」


「くっ……」


「さて、そちらに武器はなし、これで終わりだ……」


 ナスビ3人が銃を構え、ケイちゃんや俺に銃口を向ける。ケイちゃんが呟く。


「合図を出したら、車に隠れていなさい……」


「え?」


「良いから!」


「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」


「今よ!」


「なっ⁉」


 ナスビたちが発砲するよりわずかに早く、俺は車に身を隠す。振り返って俺は驚いた、ケイちゃんが足から大木を斜め上に生やし、ナスビたちの斜め後ろに一瞬で移動したからである。虚を突かれたナスビたちも驚愕を隠せない。ケイちゃんが叫ぶ。


「これが木星生まれならでは特殊能力よ! そして!」


「うっ⁉」


 矢が刺さり、ナスビの内の1人が崩れ落ちる。ケイちゃんは取り出したものを構えて呟く。


「私の武器はこのボーガンよ……」


「おい、同胞B! ちっ!」


「心配しなくてもすぐ後を追わせてあげるわ……!」


「くっ、おい、同胞C!」


「!」


「むっ⁉」


 ケイちゃんがまた足から斜め上に大木を生やし、ナスビたちの斜め後方に着地してから矢を放とうとするが、それが出来ない。2人のナスビたちはお互いの背を合わせて、ケイちゃんに背中を見せないようにしたのだ。指示を出すナスビが笑う。


「へっ、その大木の生える反動を利用して、相手の死角にジャンプし、後方から矢で射る! それがアンタの戦法なら、こうやって背中を見せなければいい!」


「……初見にしてはよく対応してきたわね」


「これくらいやらなきゃ、この宇宙では生き抜いてこれねえよ! さあどうする⁉ 銃2丁とボーガンじゃ、結果は見えていると思うぜ!」


「ちっ……」


「ハイジャさん! 真上に高く木を生やせ!」


「はっ⁉」


 俺の叫びにケイちゃんが戸惑う。俺が重ねて叫ぶ。


「いいから!」


「! 良いわ、貴方の采配に乗ってあげる!」


 ケイちゃんが足から真上に大木を生やす。真上に飛び上がったようなかたちだ。ケイちゃん本人だけでなく、ナスビたちも一瞬戸惑うが、すぐに気を取り直す。


「斜め上じゃなく、真上かよ! 狙い撃ちしてくれって言っているようなもんだぜ!」


「隙あり!」


「なっ⁉」


 俺は隠れていた車から飛び出し、倒れていたナスビのヘタを取る。


「失礼、拝借するよ! それっ!」


「ん⁉」


 俺の投げたヘタカッターがケイちゃんの大木を切断し、大木は真横、ナスビたちの方に倒れ込む。ナスビたちは慌てる。


「よ、避けろ!」


「むうっ!」


 指示を出したナスビはなんとかかわしたが、もう1人のナスビはかわしきれずに、足を大木に挟まれ、倒れ込んで動けなくなってしまう。


「もらった!」


「ぐっ!」


 ケイちゃんがすかさず矢を放ち、倒れていたナスビを仕留める。


「同胞C! くそ!」


「……これで2対1ね」


 ケイちゃんがボーガンを、俺は戻ってきたヘタカッターを手に受け取って構える。


「ちくしょう!」


「!」


 残ったナスビはやけくそ気味に銃を乱射する。俺とケイちゃんが驚いた隙を突いて、自分たちの車に乗り込み、車を急いで発進させる。


「この借りは返すぜ! 同胞の恨みだ! 孤児院を襲う!」


「し、しまった! こっちも車で!」


「その車では追いつけないわ!」


「じゃあ、どうする⁉」


「テュロン!」


「キュイ?」


 テュロンが車から顔を出す。俺は驚く。


「お、お前、乗っていたのか⁉ ええっ⁉」


 リスほどの大きさだったテュロンがオオカミほどの大きさになったことに俺はまたも驚く。驚くのも束の間、ケイちゃんがその背中に飛び乗って叫ぶ。


「あの車を追うわよ!」


「キュイ‼」


 テュロンは凄まじい速さで車に並びかける。ナスビの驚く声が聞こえる。


「ば、馬鹿な⁉」


「ヤブサメも得意なの!」


「がはっ⁉」


 矢が刺さり、運転の制御を失った車は横転する。ケイちゃんが戻ってきて淡々と呟く。


「さあ、後始末をして、さっさと戻りましょう」


「あ、ああ……」


 後始末を終えると、孤児院に戻る車でケイちゃんがボソッと呟く。


「あのプレゼント代だけど……アイドル活動で得たギャラを充てているから……」


「そ、そうですか……」


「まあ、私の自己満足だけどね……」


「……そういう線引き、案外大事だと思いますけどね」


「ふっ……」


 ケイちゃんは俺の言葉に静かに笑う。その後……。


「皆さん、あらためまして、『ギャラクシーフェアリーズ』のライブにようこそ!」


「わあああ!」


 翌日、金星のあるホールでライブが行われた。観客は満員だ。


「……仕事ってライブのことだったのか。まあ、そりゃそうか……」


 関係者席で呟く俺にミイさんが話しかけてくる。


「今日はお招きありがとうごさいます。子供たちも喜んでいます。こんな良い席まで……」


「いえいえ、お身内なんですから当然ですよ」


「それじゃあ、私のソロナンバーを聴いて下さい! 『ケイのジャンプで、追い詰める!』!」


「うおおおっ!」


 ステージではケイちゃんがラフな衣装を着て、ヒップホップソングをクールに歌っている。トリッキーなジャンプを織り交ぜたダンスに観客は大盛り上がりだ。ミイさんが呟く。


「色々と抱えこんでしまう子ですが……どうか助けになってあげて下さい」


「ええ、それはもちろん、マネージャーですから」


 俺はケイちゃんにつられてクールに答える。美人の前でカッコつけたわけではない。


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