3-17:新兵器 上
「はい、こちらが打杭型吶喊兵器試作一号・狼牙です」
「あ? なんだって?」
クラウが差し出してきた杭のついた手甲に視線を落としながら、思わず聞き返してしまった。
現在、魔王城に向かって行軍中であり、自分たちは准将のお付なので幸いにも馬車での移動になっている。対面にクラウとエル、隣にソフィアという座り順で、丁度目の前にいるクラウから依頼していた武器が差し出された形だ。
「ですから、杭打型吶喊兵器試作一号・狼牙です」
「あれ? クラウさん、さっき打杭って言ってたような……」
言い間違いに対して、速攻でソフィアの素朴な疑問、緑にとっては鋭い突っ込みが入った。クラウの得意げな顔はそのままだが、若干冷や汗が垂れている。
「えと、いや、アラン君が言いやすいように変えてあげたんですよ……言いにくいなら、ウルフファング・プロトとかでもいいですよ?」
「いや、人の武器に勝手に変な名前をつけないでくれるかな?」
「ちっちっち……アラン君、制作物には作った人に命名権があるんです」
「それなのに言い間違えたのか?」
「くっ……うるさいですねー。いいから、使うときは必殺技っぽく叫んでください」
ウルフファング・プロトとか叫びながらこれで敵を撃つシーンを想像してみる――なるほど。
「……アラン、アナタ、悪くないかもとか思ってるでしょう?」
エルがこちらをあきれ顔で見て思考を盗聴してきた。お前はどこぞの女神か。
「ぐっ……いや、お前だってクロイツ……なんちゃらとか、凄くカッコいいのあるだろ、ズルいぞ?」
自分の言葉に、クラウも「そうだーズルいですー」と賛同してくれている。対して、エルは頭痛げに眉間に指をあてた。
「クロイツ・デス・ツヴィリングシュヴァート……ハインライン家に代々伝わる奥義なんだから、ズルくないわ。というか、ズルいって何よ……」
先祖代々伝わる、その重みに電流が走る。それはクラウも同様だったのか、青ざめた顔を近づけてきて小さな声で話しかけてくる。
「……アラン君、ヤバいです、ズルいです……代々伝わる奥義とか、強すぎて勝てる気がしません……!」
「いや、逆に考えるんだ……新しい技術が、古い時代の技術を乗り越えていく……そういう良さだってあるはずなんだ」
「た、確かに……! アラン君の癖に良いこと言うじゃないですか!」
アラン君の癖には余計だが、超えていきたいという心意気は伝わったようだ。
「えと、アランさん、クラウさん、何を勝負しているの……?」
「ダメよソフィア、そちらは理解しなくて良い世界よ」
横で何か言われているが、ひとまず気にせずクラウから制作物を受け取る。
「ありがとうな、クラウ。結構作るの大変だっただろう?」
「えへへ、朝飯前だったとは言えませんけど、良い勉強になりました……ソフィアちゃんも、魔術杖の職人を紹介してくれてありがとうございます」
クラウが頭を下げると、ソフィアは笑顔で小さく首を横に振る。
「うぅん、職人さんも喜んでたよ。いつもと違うのを造れるって……それで、それがアランさんの言ってた新しい武器なんだね」
「あぁ……それでクラウ、最初想定したのと結構違う形になっているが、意味はあるんだよな?」
こちらが依頼した物は、まず右手につける手甲で、もう少し巨大な物を想定していた。機構的には対象を殴ると同時に出っ張りが内側に入り、フリントロックが作動、筒に詰めている火薬がさく裂し、その反動で杭が跳ぶものをと依頼をかけていた。
実際に出てきたのは、まず左手のモノに変わっており、出っ張りの機構が無くシンプルに杭が手甲の上についている形だ。
「はい。まず、アラン君の出してきた案を実践で使ってるところを想像したのですが……投擲が使いにくくなるんじゃないかなと。あんまり機構がゴチャゴチャしてると重くなりますし、特に右手に重みが増えると、投擲の狙いがぶれやすくなると思いました」
「……言われてみれば確かに。全然考えてなかった」
「アラン君の案も、なかなか浪漫が詰まってて良かったですけどね……ただ、普段の立ち回りが弱くなるのはいただけません。フロントは私とエルさんがメインで、これはあくまでもサブプランな訳ですからね」
フロントを女の子に任せるというのもちょっと気が引ける気もするが、実際二人が強いのだから仕方ない。
「それで、これはどうやって作動するんだ?」
「出っ張りの代わりに、指の付け根の部分に小さく握れる筒を着けてます。それが握ってちょうど親指で押せる位置になってるはずです。
そこについているボタンを押すと、中の火打石が動いて炸裂する形になってます。出っ張りで作動しちゃうと、動いている時の誤作動があるかもしれませんし、先ほど言ったように重くなりますから。
あとは大砲と同じ、後装式で杭と火薬を詰めて、蓋を閉めれば使えるって感じです……普段は杭がずり落ちないようにピン止めしているので、使いたいときはそれを抜いてください」
実際に手にはめてみて、機構を確認してみる――確かに、左手を握ると、丁度親指の部分にボタンが来るようになっている。
「分かった、了解だ」
「あと、ベルトに予備の杭を二本と火薬筒も着けてます。再装填には時間が掛かりますから一戦で二発以上は難しいと思いますが、連戦でないなら活用してください」
「うん……なんか想像以上のものが出てきたな。ありがとうクラウ」
「ふふふ、想像以上と言われると、いい気になっちゃいますね、えっへん!」
クラウはそう言いながら豊満な部分を突き出し――いかん、見てると視線でバレる。誤魔化すために、左手を見ながら動かしてみる。多少の重みはあるものの、これなら左手の投擲も問題ないだろう。しかし、どれ程の威力があるのか、一度試してみたい。
「なぁクラウ。使用感を試してみたいんだが」
「……そういうと思ってましたよ」
クラウは良い笑顔をしながら、袖からもう一本の杭を取り出した。
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