1-12:冒険者ギルドと職業について 下
「それでは、冒険者の中の大まかな役割について詳しくお話ししますね。まず、アランさんは基本的に戦闘を請け負うことになると思いますが、非戦闘系も説明しておきます。非戦闘系は大まかにワーカーとクリエイターに分かれます。ワーカーは先ほど言っていたよう、農耕や採掘など、労働力として日雇いの仕事を請け負います。
一方、クリエイターの人は何か物を作成する人のことですね。日用で使える薬品や戦闘用の武器など作るものは様々で、これを冒険者ギルドに卸したり、自分で販売したりしてお金を稼ぎます」
「ふむふむ」
「中には、危険な場所にある素材を集めるクリエイターさんもいますけれど、その場合は戦闘系と兼任することになります。それで次に戦闘系に関してですが、大まかにスペルユーザーとそれ以外に分かれます」
「ちなみに、俺はスペルユーザーにはなれるか?」
「正直、難しい、が結論ですね。人間が扱える術の類は、学院で学べる魔術か教会で学べる神聖魔法か、どちらかです。
学院には勉強すれば入学できますが、学ぶには王都に行かなければなりませんし、幼いころから専門的な教育を受けなければ入学自体が難しいです。神聖魔法に関しては、先ほど言ったように恩寵に恵まれている人でないと使えませんから」
実際、魔法を使うというのには憧れもあったが、確かに現状ではどうすることもできなさそうだ。
「なるほどなぁ。それなら、スペルユーザー以外の戦闘系はどんな感じだ?」
「はい。三通りのポジションがあります。まず、ディフェンダー。これは盾と長剣、ないし長槍を持って敵の進行を止め、スペルユーザーを守るのが役割です。地味と言えば地味ですが、非スペルユーザーの分類の中では一番需要がありますね。次にアタッカー。これは攻めの前衛で、得意の武器を使って敵と戦います」
そこまで聞いて、昨日のことを思い出す。エルは剣で戦っていたし、しかも一人で複数体を相手にしていたのだから、アタッカーという分類で間違いなさそうだ。しかし、詠唱のようなものをしていた気もするが――。
「遮って悪いんだが、アタッカー兼スペルユーザーってのもありうるのか?」
「そうですね、とくに神官職の方は、魔法と武器による攻撃、両方こなすケースもありますし、一部物理攻撃をサポートする魔術もあります。
ただ、神官職の方は多くないですし、魔術師は後衛に専念したほうが火力が出るので、あまり見かけない組み合わせではありますね」
そうなると、エルはそのあまり見かけない組み合わせを持つ一匹狼なのか、それとも別なのか。しかし、この場では答えが分かりそうもない。
「ありがとう、続けてくれ」
「はい、分かりました。それで、アタッカーは二重の意味であまり人気のない役割です。最前列で、人間より遥かに力の勝る敵と打ち合わなければならない危険性から、アタッカーになりたがる人は少ないです。また、魔術師の攻撃魔法との相性も悪いので、パーティーには誘われにくい傾向にあります」
「前に出てると、攻撃呪文に巻き込まれるから?」
「はい、そうなります。冒険者パーティーの基本が、魔術師の呪文での攻撃になるので、自然とディフェンダーと魔術師が組むことが多くなりますね。
ただ、アタッカーが輝く場面もあります。それは、上位魔族と戦う時です。上位魔族は、魔術をディスペルしてくる他、強力な魔術抵抗を持っているケースがあります。そのため、上位魔族を倒すには、物理のスペシャリストに頼る必要がある訳ですね」
「切り札って感じだな」
「そうですね、でも、冒険者の方が上位魔族と戦うケースはほとんどないはずです。最上位の魔族や魔王は勇者様が……」
勇者、という名前を出した瞬間、顔が一瞬陰った気がするが、ソフィアはすぐに続ける。
「……勇者様が戦いますし、その一つ下の上位魔族でも正規軍が相手することが多いです。冒険者の方には基本、下級の魔族の討伐を依頼しますので、そういう意味で冒険者間ではアタッカーは不遇な扱いになってしまいますね」
切り札という感じでアタッカーには憧れるが、一般の冒険者に需要がない理由もよく分かるし、何よりエルと同じくらいの切れ味がないといけないのなら、ひとまずアタッカーなど無理そう、ということもよく分かった。
「それで、最後の一つは?」
「最後は、スカウトですね」
「スカウト?」
普段、あまり聞き馴染みのない職業だったので、つい聞き返してしまう。
「はい。スカウト、歩哨ですね。偵察や罠の設置、解除などがメインの役割です。中には、弓矢や投擲などで戦線を援護するスカウトもいますが、どちらかというとパーティーが健全な状態で戦えるのを維持するのが目的です」
なるほど、シーフとかレンジャーとか、そういうイメージか。こちらが頭の中でスカウトの役割を整理している横で、ソフィアが続ける。
「ただ、スカウトもレヴァルの冒険者の間ではそんなに需要のある役割ではありませんね。スカウトはダンジョンを攻略する際などは重宝されますが、レヴァルでの依頼は基本的に野戦が多いです。
もちろん、スカウトとして活躍されている方もいますが、魔族に感づかれないように敵地を調査する必要があるので、頼りにされるには高等な技術が必要ですし、スカウトで即戦力というのは難しいかなと」
「まぁつまり、俺が冒険者を始めるならディフェンダーほぼ一択ってことだな」
「そうですね。アランさんは適性的に素早さと賢さも高めなので、スカウトも向いていると思いますけど、特殊な訓練が数年は必要です。
対してディフェンダーなら、もちろん武器や盾の扱いなど簡単ではありませんが、ひとまず自分の身を守って敵を後ろに進ませなければ良いので、やることはシンプルです。アランさんは生命力も高いので、ディフェンダーならすぐに活躍できるようになると思いますよ」
まぁ、戦闘中はどこのポジションでも生命力は重宝されますが、と付け足された。ソフィアが話し終わった後、バーンズが髭を撫でながら笑った。
「それに、ディフェンダーは一番多く欠員が出やすいポジションだ。パーティーの穴も空きやすいから、どこかに潜り込みやすいってメリットもあるぜ。まぁ、それもお荷物じゃねぇって証明できれば、の話だがな」
「それ、裏返せば俺も死にやすいってことだろう?」
「はは、ちげぇねぇ!! なるほど坊主、なかなか面白いやつだ」
壮年は大きく笑った後、白い髭を握りながら目を細めた。
「……特に駆け出しが一番死にやすいんだ、注意しな」
「あぁ、ありがとさん」
現状では、偶々かもしれないが、この世界の住民は心が擦れてないのか。良い人ばかりに会っている気がする。バーンズも口は悪いが、根は良い人という印象だった。
さて、今までの話を少し頭の中で整理する。やるなら非スペルユーザーは確定そうだが、ディフェンダーと言われてもピンとは来ない。それでもまぁ、他に道が無いならそれでも仕方ないのだが、一応色々試してみたい。そこまで考えて、杖を抱えてこちらを見ている少女のほうへ振り向いた。
「別に、ポジションってすぐに決めなくてもいいんだよな?」
「はい、問題ありません。兼任する場合だってありますし、転向する方もいます。便宜上、私はコレが得意ですよーと、パーティー内で共有して役割分断しておいたほうがスムーズ、というだけの話ですからね」
「それじゃあ、ディフェンダーメインで考えてみることにするよ」
「はい、それでは……」
「あぁ、ソフィア、世話になった……うん?」
諸々手続きと説明が済んだので、私はここで、と言われると思ったのだが。ソフィアは掲示板の方へ向かって、じぃっと依頼を真剣な表情で吟味し始めた。
「……アランさん、これにしましょう!」
少女が良い笑顔で板から外して掲げた紙には、巨大蜘蛛型魔獣の討伐、報酬五千ゴールドと記載されていた。
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