17、ニコ、再び捕まる
「えっ、ジュキ? キサマがなんでここに!?」
武器庫に忍び込んでいたのは、思った通りのヤツだった。
「それはこっちのセリフだよ、ニコ。また得意の土魔法で脱獄か?」
「キサマに答える義理はねえよ。
ちんたら呪文を唱え始める姿も含めて予想通り。
「水よ、かの者包みて
カチコチーン
「く、くそーっ! なんでだよう!」
毎度のことながら、あっけない。だがこいつがいるってことは――
「イーヴォはどこだ?」
「お、お前になんか言うもんか」
首から下を氷に
だがそのとき――
「うぅ、助けて……」
部屋のすみから女性の声が聞こえてきた。
「
暗い室内に明かりを
女性が涙のたまった目で俺を見上げた。
「あの卑怯者にいきなり背後から攻撃されたんだ。そこに石が落ちてるだろ?」
彼女の視線の先に転がっているのは、石と言うより岩。
「そいつが父ちゃんの頭を直撃して―― 父ちゃん、目を覚まさないんだ」
「大丈夫。俺の旅の仲間は偉大な聖女の力を持っているから。どんな怪我でも治してくれる」
俺は女性の前に片ひざをついて、泣いている彼女を元気づけた。
「あんたは強いだけじゃなくて優しいんだな」
女性は涙にぬれた目を細めて、少しだけほほ笑んでくれた。ひざまずいた俺は、作業台の下に穴があいていることに気付いた。ニコのやつ、ここから出てきたんだろう。
「聖魔法の出番かしら?」
明るい声に振り返るとレモネッラ嬢が立っている。
「レモ、近くにイーヴォがいるはずだから気を付けて」
「よしっ、居場所を吐かせましょう!」
さっそくニコに向かうレモ。
「ごーもん、ごーもん」
踊りながらやってきたユリアが一発、
ごすっ
「ぅ」
小さくうめいてニコは動かなくなった。
「ええっ!?」
予想外の展開に驚愕の声をあげる俺。
「だめじゃない、ユリア! 手加減しなくちゃ! じわじわ痛めつけてこその拷問なのよ!?」
「わ~、またやりすぎちゃいましたぁ」
「ジュキにはまだ言ってなかったわね。ユリアのギフトは<
まじか。それで溺愛ジジイとルーピ伯爵は、婚約者選びに強い男を探しているのか。
レモがドワーフの親父さんに聖魔法をかけているところに、魔術兵を率いて筋骨隆々とした男が駆け込んできた。
「侵入者はどこだっ!?」
目の前ででかい声出さないでほしいなあ。俺が無言でニコを指さすと、
「すでに捕らえられ、気絶しているではないか!」
「そうなの! ジュキくんが氷漬けにして、わたしがぶん殴ったの!」
「なんと! 我らが魔術兵より仕事が早いとは! 細っこい少年よ、君は素晴らしい戦士だ!」
細っこいって――あんたがマッチョなだけな? 大男は俺を見下ろすと、何か思い当たったようだ。
「もしや君が娘をシーサーペントから救ってくれた白き竜人か?」
娘ってことは、この人がルーピ伯爵か! 俺は右手を胸に当て、左手を広げて礼をする。
「ジュキエーレ・アルジェントと申します」
「じゅ、じゅじゅ!?」
まさかの娘と同じ反応。
「パパ、ジュキくんだよ! お空飛んで水操って聖獣さんペットにして泥棒さんつかまえて、なんでもできちゃうの!」
腕にぶら下がってくるユリア嬢がかわいいのだが、なかなか重量がある。背は低くても胸の辺りが豊かだもんな。
「了解、ジュキくんだな!」
伯爵様までジュキくん呼びですか……
「ジュキくん、自分は魔術兵団の団長にして――」
同じく屈強な獣人ばかりの兵士たちを振り返り見た。
「ルーピ伯爵家現当主である! 娘の命を救い、シーサーペントをしりぞけ、さらに伯爵邸に入ったコソ泥までひっとらえたこと、感謝するぞ!」
「光栄です、ルーピ伯爵。でもおそらく、このコソ泥――ニコラ・ネーリに命令しているイーヴォ・ロッシっていう赤髪の竜人が近くにいるはずなんです。ニコラ・ネーリは一人で考えて行動できるヤツではないので」
「さすが竜人族同士。詳しいのだな」
こんな罪人とパーティを組んでいたとも、同郷だとも言いたくない。
「この島に来る前――聖ラピースラ王国でも彼らは罪を犯して投獄されていたのです」
「ほほぅ。軟弱な聖ラピースラから逃げて、屈強な獣人の領土へやって来るとはいい度胸だな! 兵ども、イーヴォ・ロッシという赤髪の竜人がどこかに隠れているかもしれん! 屋敷中くまなく探せっ!!」
耳がキーンとなるような大声で命じる伯爵。多分その声で逃げてると思うんだわ、イーヴォのヤツ。ルーピ伯爵家は世代が下がるほど頭が残念になっていくのか!?
聖魔法をかけ終わったレモは伯爵の前へ進み出ると、片足を引いてひざを曲げ、ふわりとあいさつした。
「はじめまして、ルーピ伯爵様。聖ラピースラ王国から参りましたレモネッラですわ」
立ち上がったドワーフ父娘も元気そうだ。父親のほうですら、女性としてもやや小柄なレモと変わらない身長。娘さんはユリアより小さいかも知れない。だが二人とも立派な筋肉をお持ちである。
「スルマーレ島によくぞいらっしゃった、レモネッラ嬢。魔法学園では娘が世話になっていたようだな」
「そうなの、パパ。レモせんぱいは毎日起こしに来てくれて、寝ているわたしを食堂まで連れて行ってくれて、もぐもぐしているわたしを学園まで引っ張ってくれてたの」
「それで寄宿舎から学園までの道を覚えていなかったのかい、ユリア? 同じ敷地内なんだから、二年間も通っていれば覚えられそうなもんだがな」
同じ敷地内なのかよ! 帰り道もレモといつも一緒だったのかな……
「レモネッラ嬢、我が伯爵邸に長年仕えてくれているドワーフのヴィーリ氏を治療してくれて助かったぞ」
「じゃあパパ、レモせんぱいに
「もちろんである! レモネッラ嬢、ジュキくん。好きな武器と防具を選びなさい」
「いいんですか!?」
目を輝かせるレモ。
「え、俺まで?」
「当然ではないか、ジュキくん。君の活躍に対し、父が与えた褒賞は少なすぎる! ここにある武具でいっそう強くなりたまえ!」
とはゆえ精霊力が大きすぎる俺は、
「ありがとうございます」
一礼する俺の背中をバシバシたたいてから、ルーピ伯爵はニコをかついだ魔術兵たちと共に去っていった。
俺の繊細な背骨が折れるんじゃないかと思ったわ。ケホケホしていると、レモが背中をさすってくれた。
「それじゃあ、お二人さん!」
父親が元気になって笑顔が戻ったドワーフの娘さんがやってくる。
「二人にぴったりな武器と防具、アタシに見つくろわせておくれ!」
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次回は装備を整えつつ、せっかく武器の専門家がいるので「聖剣アリルミナス」について尋ねます!
ルーピ伯爵みたいな脳筋な父親が欲しいと思ったら、↓ページからどうぞ★をつけておくんなせえ。
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