17、ニコ、再び捕まる

「えっ、ジュキ? キサマがなんでここに!?」


 武器庫に忍び込んでいたのは、思った通りのヤツだった。


「それはこっちのセリフだよ、ニコ。また得意の土魔法で脱獄か?」


「キサマに答える義理はねえよ。聞け、土の精センティ・ゲーノモス――」


 ちんたら呪文を唱え始める姿も含めて予想通り。


「水よ、かの者包みててつきたまえ」


 カチコチーン


「く、くそーっ! なんでだよう!」


 毎度のことながら、あっけない。だがこいつがいるってことは――


「イーヴォはどこだ?」 


「お、お前になんか言うもんか」


 首から下を氷におおわれて、寒さに歯をガチガチ言わせながらニコは強がった。


 だがそのとき――


「うぅ、助けて……」


 部屋のすみから女性の声が聞こえてきた。


光明ルーチェ


 暗い室内に明かりをともし、俺は暗がりへ走り寄った。作業台と思われる無骨な木製テーブルの足に、ローズ色の髪の女性と白いひげをたくわえた男が縛られている。侍女が話していたドワーフの父娘おやこだろう。父親の方は気絶しているようだ。


 女性が涙のたまった目で俺を見上げた。


「あの卑怯者にいきなり背後から攻撃されたんだ。そこに石が落ちてるだろ?」


 彼女の視線の先に転がっているのは、石と言うより岩。


「そいつが父ちゃんの頭を直撃して―― 父ちゃん、目を覚まさないんだ」


「大丈夫。俺の旅の仲間は偉大な聖女の力を持っているから。どんな怪我でも治してくれる」


 俺は女性の前に片ひざをついて、泣いている彼女を元気づけた。


「あんたは強いだけじゃなくて優しいんだな」


 女性は涙にぬれた目を細めて、少しだけほほ笑んでくれた。ひざまずいた俺は、作業台の下に穴があいていることに気付いた。ニコのやつ、ここから出てきたんだろう。


「聖魔法の出番かしら?」


 明るい声に振り返るとレモネッラ嬢が立っている。


「レモ、近くにイーヴォがいるはずだから気を付けて」


「よしっ、居場所を吐かせましょう!」


 さっそくニコに向かうレモ。


「ごーもん、ごーもん」


 踊りながらやってきたユリアが一発、


 ごすっ


「ぅ」


 小さくうめいてニコは動かなくなった。


「ええっ!?」


 予想外の展開に驚愕の声をあげる俺。


「だめじゃない、ユリア! 手加減しなくちゃ! じわじわ痛めつけてこその拷問なのよ!?」


「わ~、またやりすぎちゃいましたぁ」


「ジュキにはまだ言ってなかったわね。ユリアのギフトは<怪力フォルツァ>なの」


 まじか。それで溺愛ジジイとルーピ伯爵は、婚約者選びに強い男を探しているのか。


 レモがドワーフの親父さんに聖魔法をかけているところに、魔術兵を率いて筋骨隆々とした男が駆け込んできた。


「侵入者はどこだっ!?」


 目の前ででかい声出さないでほしいなあ。俺が無言でニコを指さすと、


「すでに捕らえられ、気絶しているではないか!」


「そうなの! ジュキくんが氷漬けにして、わたしがぶん殴ったの!」


「なんと! 我らが魔術兵より仕事が早いとは! 細っこい少年よ、君は素晴らしい戦士だ!」


 細っこいって――あんたがマッチョなだけな? 大男は俺を見下ろすと、何か思い当たったようだ。


「もしや君が娘をシーサーペントから救ってくれた白き竜人か?」


 娘ってことは、この人がルーピ伯爵か! 俺は右手を胸に当て、左手を広げて礼をする。


「ジュキエーレ・アルジェントと申します」


「じゅ、じゅじゅ!?」


 まさかの娘と同じ反応。


「パパ、ジュキくんだよ! お空飛んで水操って聖獣さんペットにして泥棒さんつかまえて、なんでもできちゃうの!」


 腕にぶら下がってくるユリア嬢がかわいいのだが、なかなか重量がある。背は低くても胸の辺りが豊かだもんな。


「了解、ジュキくんだな!」


 伯爵様までジュキくん呼びですか……


「ジュキくん、自分は魔術兵団の団長にして――」


 同じく屈強な獣人ばかりの兵士たちを振り返り見た。


「ルーピ伯爵家現当主である! 娘の命を救い、シーサーペントをしりぞけ、さらに伯爵邸に入ったコソ泥までひっとらえたこと、感謝するぞ!」


「光栄です、ルーピ伯爵。でもおそらく、このコソ泥――ニコラ・ネーリに命令しているイーヴォ・ロッシっていう赤髪の竜人が近くにいるはずなんです。ニコラ・ネーリは一人で考えて行動できるヤツではないので」


「さすが竜人族同士。詳しいのだな」


 こんな罪人とパーティを組んでいたとも、同郷だとも言いたくない。


「この島に来る前――聖ラピースラ王国でも彼らは罪を犯して投獄されていたのです」


「ほほぅ。軟弱な聖ラピースラから逃げて、屈強な獣人の領土へやって来るとはいい度胸だな! 兵ども、イーヴォ・ロッシという赤髪の竜人がどこかに隠れているかもしれん! 屋敷中くまなく探せっ!!」


 耳がキーンとなるような大声で命じる伯爵。多分その声で逃げてると思うんだわ、イーヴォのヤツ。ルーピ伯爵家は世代が下がるほど頭が残念になっていくのか!?


 聖魔法をかけ終わったレモは伯爵の前へ進み出ると、片足を引いてひざを曲げ、ふわりとあいさつした。


「はじめまして、ルーピ伯爵様。聖ラピースラ王国から参りましたレモネッラですわ」


 立ち上がったドワーフ父娘も元気そうだ。父親のほうですら、女性としてもやや小柄なレモと変わらない身長。娘さんはユリアより小さいかも知れない。だが二人とも立派な筋肉をお持ちである。


「スルマーレ島によくぞいらっしゃった、レモネッラ嬢。魔法学園では娘が世話になっていたようだな」


「そうなの、パパ。レモせんぱいは毎日起こしに来てくれて、寝ているわたしを食堂まで連れて行ってくれて、もぐもぐしているわたしを学園まで引っ張ってくれてたの」


「それで寄宿舎から学園までの道を覚えていなかったのかい、ユリア? 同じ敷地内なんだから、二年間も通っていれば覚えられそうなもんだがな」


 同じ敷地内なのかよ! 帰り道もレモといつも一緒だったのかな……


「レモネッラ嬢、我が伯爵邸に長年仕えてくれているドワーフのヴィーリ氏を治療してくれて助かったぞ」


「じゃあパパ、レモせんぱいに魔法剣マジックソード一本くらいあげてもいいでしょ?」


「もちろんである! レモネッラ嬢、ジュキくん。好きな武器と防具を選びなさい」


「いいんですか!?」


 目を輝かせるレモ。


「え、俺まで?」


「当然ではないか、ジュキくん。君の活躍に対し、父が与えた褒賞は少なすぎる! ここにある武具でいっそう強くなりたまえ!」


 とはゆえ精霊力が大きすぎる俺は、魔法剣マジックソードって使えないんだよなぁ。力を流すと剣が壊れてしまうのだ。だがまあ一応――


「ありがとうございます」


 一礼する俺の背中をバシバシたたいてから、ルーピ伯爵はニコをかついだ魔術兵たちと共に去っていった。


 俺の繊細な背骨が折れるんじゃないかと思ったわ。ケホケホしていると、レモが背中をさすってくれた。


「それじゃあ、お二人さん!」


 父親が元気になって笑顔が戻ったドワーフの娘さんがやってくる。


「二人にぴったりな武器と防具、アタシに見つくろわせておくれ!」




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次回は装備を整えつつ、せっかく武器の専門家がいるので「聖剣アリルミナス」について尋ねます!


ルーピ伯爵みたいな脳筋な父親が欲しいと思ったら、↓ページからどうぞ★をつけておくんなせえ。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649752024100#reviews

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