第27話 友達の資格
「う~、さっむいな! いまは冬か」
「ああ。葉の色が白になってる」
課題を渡されると、俺たちは早々に研究所から追い出された。すでに夕方だ。
研究所の外観を見る。鋼造りのそれなりに大きな建物だ。建物の周りには真っ黒な木が並べられている。
「あの木だけ黒いのはなんでだ?」
「アレは人工的に植えた木ね。魔物避けの“タリスマンツリー”よ」
「道理で、この辺は魔物の気配がねぇわけだな」
「魔物避けか。アレの葉を何枚か持ってたら、魔物が寄ってこないとかないか?」
俺が聞くと、ヴィヴィは「良い案ね」と採用した。
「“タリスマンツリー”の葉は木から離されても30分ぐらいは魔よけの効果があるはず。利用しましょう」
というわけで、俺たちは“タリスマンツリー”から葉を何枚か頂戴した。
「イロハ、次の季節はなにかわかるか?」
「ピンクっぽいから春だな」
「出る時、時計を見たけど5時58分だったから、もうすぐ変わるね」
俺たちは葉の色が変わるのを待つ。
「ねぇ、良かったの?」
「なにが?」
「コノハ先生にホムンクルスのこと、聞かなくて」
「アイツと同じファクトリーになれば聞く機会はいくらでもあるだろ。それに、コノハ先生はあんまり俺と話したくない感じだったからな。せっかく話が運んだのに、水を差したくなかった」
木の葉の色が一斉にピンク色に変わった。
気温が暖かくなる。
それから30分ほどで〈四季森〉を抜けた。来るときに比べてあっさりと踏破できた。“タリスマンツリー”の葉のおかげだな。
「そんでヴィヴィ嬢、“オーロラフルーツの種”とやらは、錬成するのは難しいのか?」
「まだ軽く眺めただけだけど、そう採取が難しい素材は見当たらない。ただ、知らない素材が何個かあったわ。明日、図書館で調べてみるつもり」
「手分けして調べた方がいいよね? みんなで一緒に調べよう!」
俺とジョシュアは頷く。ヴィヴィは多少不満気だが頷いてみせた。
「図書館ってどこにあったっけ?」
フラムの問いに俺が答える。
「たしか一番通りにあったはずだ。ここに来る途中で見かけた」
「ここからも見えるでしょ、あの時計塔。あの時計塔の下が図書館よ」
ヴィヴィが補足する。
「今日はここで解散にしようぜ。オレ、帰りに寄りたいところがあるんだ」
「私も~! 牛乳買いに行かないと!」
満場一致で解散することになった。
「じゃあねみんな! また明日!」
「ヴィヴィ嬢、フラム嬢、夜道には気を付けろよ~」
十字路をジョシュアは西に、フラムは北に、俺とヴィヴィは南に行く。
俺とヴィヴィは2人、帰り道を歩く。
「……」
「……」
ヴィヴィは俺に足並みを合わせて歩いてくれている。
驚いた。てっきりそそくさと先に帰ると思っていた。
なにか話があるのかな……とも思ったのだが、なにも喋らない。
俺から話しかけようとも思ったのだが、ヴィヴィが何度か口をパクパクさせていたので、待ちに徹する。
……だけど結局なにも会話が発生しないまま、ヴィヴィの家の前に着いた。
「じゃあな、ヴィヴィ」
そう言って、立ち去ろうとすると――裾を引っ張られた。
「……どうした?」
振り向くと、ヴィヴィは目を潤ませていた。
「今日は……ありがとう。トレントから、庇ってくれて……」
「気にすんなよ。友達がピンチなら助ける。それは、『人として』当然のことだ」
「友達……私たちって、友達なの?」
「違うのか?」
「……それを決めるのは、私じゃないわ」
「俺でもない。俺たちだ。お前が俺を友達だと思うなら、俺とお前は友達ってことでいいと思うぞ?」
ヴィヴィはわかりやすく戸惑っている。
「わたっ、私は……っ! まだ、あなたを友達だとは、思えない」
「普通にショックな言葉だな……」
「ごめんなさい。でも私に友達は無理よ……私に、友達を作る資格なんてない」
「それは、父親が犯罪者だからか?」
「違うわ」
ヴィヴィは銀色の髪を左右に振った。
「私には、私の罪があるの……」
淀んだ瞳でそう言って、ヴィヴィは駆け足で家に入っていった。
「資格がない……か」
それを言うなら俺の方だよ、ヴィヴィ。
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