第11話 入学試験
校長を名乗るカボチャ頭。
信じられない……錬金術師の学校の校長だから、白髪でながーい髭のお爺さんを想像していた。断じてこんなカボチャではない。
しかし……そう、錬金術師は
爺さんや俺のことを知っていることから、このカボチャが言っていることが真実である可能性は高い……。
「アンタが校長ってことは、ここは校長室ってことか?」
「その通りだ」
「……もしかして、アンタがヴィヴィが口利きした偉い人なのか?」
「うむ、その通りだ。吾輩が貴殿の入国手続きをしてやった。しかし……養子というわりにはアゲハの若い頃にクリソツだな」
カボチャ校長はどこか嬉しそうだ。
「なんで俺だけこんなとこに呼んだ?」
「一目見ておきたくてな。それに一つ確かめておきたいこともあった」
カボチャ校長は立ち上がり、玉座の側にあるテーブルを俺の前に持ってくる。
テーブルの上には水の入ったコップが7個。
「貴殿はアゲハと同じで色彩能力者なのだろう?」
「ああ、まぁな」
「少し、その色彩判別能力を試させてもらおう。これは入学試験と思ってくれ。この試験で不合格となればこのまま〈リヴィア〉に帰ってもらう」
「……いきなりそりゃないんじゃないか? 校長殿」
「本来、我が学園に入るには入学試験を受けて合格しなければならない。だが貴殿はその試験を受けずにここに居るのだ。これぐらいの無茶は許容してほしい」
残念ながら、この場においてルールはコイツだ。
このカボチャ校長の言うことに逆らう権利も力も俺にはない。
「わかった。試験を受けよう。そもそも拒否権なんてないしな」
「感謝するよ。では、試験内容を説明する。いまここにある水にはそれぞれ絵の具が一滴ずつ垂らされている。絵の具の種類は赤、青、緑、黄色、茶色、紫、ピンクの七色だ。どのコップに何色の絵の具が入っているか当ててくれ。――全部だ」
「……」
「正直、私から見たらどれも変わらず透明な水だがね」
まったく、意地の悪い問題を出すものだ。
「右の端から緑、黄色、茶色、ピンク、紫――黒、白……だろ? 赤と青はない」
俺が言うと、カボチャ校長は「ほう……!」と声を漏らした。
「素晴らしい! ……これほどとはな!!」
カボチャ校長は拍手する。
「またその眼に会えるとは思わなかった! 合格だ!!」
「それなら早く最寄り駅へ運んでくれ。待たせてるやつがいるんだ」
ここで時間を潰すほど、俺を待ってるであろうヴィヴィの機嫌が悪くなっているはずだ。
「ふふっ、すまなかった。つまらない遊びに付き合わせてしまったね。床に合成陣が描いてあるだろう? その上に立ってくれ」
合成陣? この床に描いてある妙な図形のことかな?
図形の上に立つ。カボチャ校長がパチンと指を鳴らすと、図形が光り出した。瞬間、目の前が真っ白になった。
そして――分解が始まる。
「ぬっ、ぐっ――! まったくよ、アンタのせいで一回余計にこの感覚に付き合わされる……!」
「慣れれば心地よくなるさ。では改めて……入学おめでとう。イロハよ」
全身が崩れ去った。
◇◆◇
気が付いたら、石の床の上に居た。
周りに石の支柱が多く見える。窯も例の如く置いてある。制服を着た同世代の人間もいっぱいいる。どうやら今度こそ最寄り駅に着いたようだ。
「どいてどいてどいて~~~!!!」
――真上から声がした。
「え?」
上を見た瞬間、鼻にシャボン玉の膜が当たり、シャボン玉が割れた。
そして顔面に柔らかい感触が激突する。眼前を覆うこの色は……ヴィヴィが履いていたスカートとまったく同じ色だ。
「ぐわっ!!?」
「きゃっ!?」
落下物の体重を支え切れず、俺は倒れ込む。
……後頭部と背中に激痛。
腹に重みを感じ、腹の上を見ると、赤毛の女の子が座っていた。
「ご、ごめんなさい!」
少女は俺から離れる。
ヴィヴィはドレスが似合うであろう貴族的で高貴な美少女だったが、目の前の少女はミトンやエプロンが似合いそうな親しみやすく柔らかい印象の美少女だった。
俺は動揺していた。
彼女のある部分を見て動揺していた。
目ではない。綺麗なレモンイエローの瞳だが、目ではない。
肌でもない。シルクのように滑らかな肌だが、肌ではない。
髪だ。基本は赤毛なのだが、毛先だけ黄色い。その毛先の色は、俺が求めている理想の女性の髪の色だった。ふんわりとした、カナリアイエローだ。
「大丈夫? あ、あの、そこに居ると危ないよ?」
上を見上げるとシャボン玉に包まれた人たちが次々と落下してくる。
「あぶなっ!」
俺は慌ててその場を離れた。
カナリアイエローの少女が、俺の傍まで駆け寄って頭を下げる。
「さ、さっきはごめんなさい! 下敷きにしちゃって!」
「いや、悪いのはあんなとこでボヤッとしていた俺だ」
もっと言えば、あんなとこにいきなり錬成したカボチャ校長が悪い。
「それにしてもお前!」
俺は少女の髪に顔を寄せ、毛先の色を凝視する。
「えっ!? なな、なに!?」
「……その髪、良い色だな~!! 毛先のこの色さ、めちゃくちゃ好みだ!」
心からの称賛を送ると、少女は嬉しそうに毛先を掴んで笑った。
「え、えへへっ……この髪の色、お母さんの遺伝だから、褒められると嬉しいな……」
「これほど綺麗な髪の色はないよ。いやホントに、
なんて愉快に会話していると、
「まったくもって不愉快ね」
好きな色を見つけてご機嫌だった気持ちを、地の底へ落とす女の声が聞こえた。
ゆっくりと右を向く。腕を組み、不満を顔全面に出したヴィヴィ姫が立っていた。
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