第35話 残党の復讐

 心の中で動揺しながら、必死に抗おうとするが、全く抵抗出来ない。


 そして、勝手に足が動いていく。


 暫く歩いていくと、いつの間にか、俺の住んでいるアパートに辿りついていた。


 俺の身体は階段を上っていく。


「ねえ……。本当に大丈夫なの……?」


 後ろからユナが声をかけてくる。


「ああ……。部屋で少し休めば治るから」


 そう言って、俺の部屋の前に着いて鍵を取り出す。


 そして、ドアを開けると中に入っていった。


 ユナも慌てて入ってきて、俺はベッドに横になった。


「パパ、何か具合悪そうだよ……。病院に行った方がいいんじゃない……」


 ユナが不安げな表情で話しかけてきた。


「そうだな……。明日にでも行ってみるよ……」


「うん……。そうした方が良いよ……」


「おやすみ……」


 そう言って、俺の寝室からユナが居なくなると俺の中に入り込んだ者が語ってきた。


(もうお前の身体は私のものだ……。あの女達を殺すまではな……)


 俺はその言葉を聞いて絶望感に襲われた。


(なんでこんなことに……。一体何が起きているんだ……?)


(我々は反体制派の者だ……。お前の娘の兄が、あの女を殺害したために我々の計画は狂い、この世界まで逃げてきた……。幸い、お前の身近に第2、第3王女がいる。我々の復讐に、お前の身体を使わせてもらうぞ……)


(やめろ……。やめてくれ……。俺はユナやアイカを傷つけることはしたくない……)


 俺は必死に抵抗するが無駄だった。


「ねえ……。さっきから何か変だよ……」


 ユナが部屋に戻ってきた。


「なんでもない……」


 俺でない者がそう答える。


「そう……。なんかおかしいよ……」


 そう言いながら、俺の身体に抱きついてくる。


 抱き着かれた俺の身体はユナに対して恐怖を感じていて、俺でない者の心が平静であろうとするのに精一杯になっている。


 俺でない者は冷や汗を掻いていた。それをユナに悟らせまいと必死になっている。


「ねえ……。やっぱり、どこか調子が悪いんでしょ? 凄く辛そうなんだけど……」


 ユナは心配して俺を見つめていた。


「大丈夫だから……。心配するな……」


「本当……?」


「ああ……。だから1人にしてくれ……」


「わかった……」


 そう言うと、ユナは部屋の外に出ていった。


 俺は、俺の身体に入り込んだ奴に呼びかける。


(おい! いい加減にしろよ! これ以上、俺の身体を使うなら許さないぞ……!)


(お前に何が出来る……。人間である以上、お前は私には何も出来ないのだ……)


(ふざけんな! 出ていけよ! 早く出ていってくれ……!!)


(ふん……。王女たちを殺した後、すぐに殺してやるから安心するがいい……)


 憑りついた者は嘲笑っていた。


(殺すだと!? そんなことは絶対にさせない……!)


(まあ、せいぜい頑張るがいい……。だが、お前がいくら足掻こうとも無駄なことなのだがな……)


 それから、憑りついた者は無言になった。


(ちくしょう!!)


 俺は悔しくて叫んだ。



 ―――数時間が過ぎた。


 気がつくと、いつの間にか眠ってしまっていた。


 まだ夜中のようだ。


 目を覚まし、時計を確認した。すると、時刻はまだ午前0時を回ったばかりだった。


 俺でない者は起き上がると、ソファで寝ているユナを尻目に音を立てずに部屋を出ていきアパートの外に出た。


 空を見ると月が出ていたので周囲は明るい。


 俺でない者はアパートの裏手に回っていった。そこには物置小屋があるのだが、実は裏口から入れるようになっている。


 そして、物置に入ると、隠した武器が保管されている。


 反体制派の残党が、この世界に来た時に持っていた短剣もここにあるはずだ。


 俺は、俺の身体に憑りついた者に語りかけた。


(おい……。どこに行くつもりなんだ……?)


(黙れ……。今からお前の身体を使って、王女たちを殺してくる……)


(馬鹿な真似はやめろ……! やめてくれ……!)


(この短剣は、向こうの世界の人間も殺すことが出来る毒が塗ってある。これで王女たちを殺してやる……!)


(やめろ―――!!!)


 俺の声を無視して、俺の身体は物置から出ていく。


 そして、アパートの表側へと歩いていった。


 アパートの表に出ると、俺の身体は迷うことなく進んでいく。どうやら、俺の記憶は憑りついた奴に筒抜けだった。


 そして、暫く歩くと、アイカの住むマンションが見えてきた。


 俺に憑りついた者は躊躇することなく入口から中に入っていった。



 俺はアイカの部屋の前に立つと、以前アイカから貰った合鍵を使用して中に入る。


 部屋の中は真っ暗であった。玄関にはアイカの靴が置いてあった。


 俺の身体は靴を脱ぐと、寝室へと向かった。


 そして、ゆっくりと扉を開けると、中にはアイカが静かに眠っているのが見えた。


 俺ではない者が近づき、暗闇の中ベッドで眠るアイカの顔を確認する。


 その顔を見て、ニヤリと笑みを浮かべると、俺に話しかけてきた。


(この女が第3王女だな……。よし……。まずはこの女から殺してやろう……)


 その言葉を聞いた俺は焦った。


(やめろ――!!)


(うるさい……。お前はそこで大人しく見ているがいい……)


 そう言って、アイカの胸に短剣を突き立てた。


 俺は目の前の光景に絶望していた。


 しかし、アイカが苦しんでもがく様子が全く見られない。


 俺に憑りついた者は、アイカをよく見てみると本物ではなくダミーであり人形みたいな形状だった。


 本物のアイカが居ないことに気が付き動揺していると部屋の電気がつきアイカと広川が入ってきた。


「私を殺せなかったのは残念ね……。隆司君の身体を操っている、あなたの正体は分かっているわ……」


「何故、ばれた……? 」


「ユナのお陰よ……。妹が私に思念で教えてくれたの……」


「そうか……。ならば、仕方がない……」


「ねえ……。お願いだから、パパの身体を奪うのを止めてよ!」


 俺の後をつけてきたユナが部屋に入ってきて泣きながら懇願する。


「駄目だ……。もう止められない……」


「どうして……?」


「お前たち王族のせいで、我々の計画は台無しになってしまった……。この男の身体を乗っ取り続ければ私に何も出来ないだろう……」


「そんなことない! 私が、きっと何とかしてみせる!」


 ユナは俺の身体に抱き着いてきた。


「無駄だ……。人間に私を追い出す力はない……」


「やってみないと分からないじゃない! パパは絶対あなたに負けない! 絶対に負けないんだから!!」


 そう言うと、俺の身体にしがみついて離れようとしない。


 俺はユナの声を聴いて自身の思いの力が普段より大きくなっていくのを感じていた。


(そうだ……。俺はこんな奴なんかには負けない……!)


(無駄なことを……。私がお前に負けるわけがない……)


(くそっ……。絶対にお前には負けないぞ!)


(ふん……。では、戦いを続けるだけだな……)


 俺でない者と俺との精神上での戦いが始まった。


(俺の身体から離れろ――!!)


(……何だと! この身体にとどまれなくなっている……!?)


 俺の意識が徐々に奴の意識を上回っていくのを感じていた。


 それから、どれくらい時間が経っただろうか? 気が付くと、俺でない者の意識が消えていた。


 俺の意志で自分の身体を動かせるようになっていたのであった。

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