第34話 向こうの世界のその後

 エンを見てこの女は誰なんだと云う表情をして、顔を曇らせるアイカと美和。


「あっ! この人は俺の知り合いだから安心してくれ……」


「ふ~ん……。初めまして……。私はカイのパートナーです」


「お兄様の?」


 アイカが訊いてくる。


「そうよ……」


 カイという言葉に反応する者を見て、ニヤリとした表情をするエン。


「あの……あなたはカイのことを知ってるんですか?」


 今度は美和が質問してきた。


「知ってるも何も、私はカイのパートナーだから……」


「えっ!?」「!?」


 美和とアイカは驚きを隠せない様子だ。


「まさか、お兄様と貴方が一緒にいるなんて信じられない……」


「そうなんだ……」


 2人は動揺を隠せていないようだ。


「まあ、そういうことだからよろしくね」


 そう言って、2人に向かってウィンクした。


「お兄様は何処にいるの?」


「さあ……? まだ、向こうの世界から帰ってないけど」


「そう……。もうすぐ帰ってくるかもね……」


「そうかもしれないね……」


「ねえ……。お兄様とはどこで知り合ったの……?」


「カイは私を助けてくれたのよ」


「助けて貰った……!?」


「ええ……」


 アイカはカイのことを聞いて呆然としていた。


 俺達はエンから昔、暗殺者をしていたこと依頼を失敗したとき殺されそうになったこと、その時カイに助けて貰った経緯を聞き出した。


 話し込んでいると、広川が俺に話しかけてきた。


「やあ……神谷君」


「おっ……。久しぶりだな……」


「今日は何をしているんだい……?」


「買い物だよ。これから帰るところだ……」


「そうか……。僕はアイカさんの小間使いをしているよ……」


「ああ……。それが彼女から力を与えられるということだよな……」


「まあね……。それより、君はアイカさんのことが好きなのかい?」


 小声で耳打ちしてくる。


「えっ……?」


 唐突だったので驚いた。


「好きって言われても困るが、嫌いではないよ……」


「そうか……。彼女が君を見る眼がいつもと違うからね……」


「そうなのか……? よく分からないなぁ……」


「鈍感だね……。君らしいといえばそれまでだけど」


「そうか……」


「まあ、頑張ってくれ」


(広川め……。余計なお世話だっての……)


 俺は心の中で呟いた。


「隆司君……? どうかしたの……?」


 アイカに声をかけられる。


「えっ……!? いや、何でもないよ……」


 俺は慌てて答える。


 その時、前からマヤが歩いてくる姿があった。


「あれ……? お姉ちゃん?」


 ユナが声を掛ける。


「あなた達に向こうの世界の現状を伝えに来たの……」


「えっ……!?」


 皆、困惑する。


「彼女は誰なんだい……?」


 広川も疑問を口にする。


「伝えないといけないことって何だ?」


 俺は訊くがエン、広川の顔を一瞥してマヤは警戒しだす。


「私の知らない人達がいるわね……」


「みんな、向こうの世界や君たち異世界人のことを知っているから大丈夫だよ」


 俺はそう言ってエン、広川を紹介した。


「わかった……」


 納得したのか、俺達の方を向いた。


「じゃあ、話すわ……。まず、混乱の元凶である首謀者は倒されたわ……。お兄様によって……」


 その言葉に衝撃を受けた。


「えっ……!?」


「お兄様が倒したからもう心配はないわ……」


「倒したのはお兄様の母のことだよね……?」


 アイカが確認する。


「そうよ……」


「でも、その後、どうなったんだ……?」


 俺は気になって仕方がなかった。


「首謀者は倒され、不満分子達は粛清されていった……。そして反体制派は急速に弱体化していったの……。反乱は鎮静したわ。ただ、お兄様は反乱を企てた相手であっても実の親を殺したので暫く向こうの世界に帰れないわ……」


「そんな……」


 ユナもショックを受けているようだ。


「お兄様は今、何処にいるの……?」


「もう、向こうの世界には居ないみたい……」


「カイは、こっちに帰ってきてるの……?」


 エンはマヤに尋ねていた。


「わからないわ……。後、母を殺害したことによって彼女の一族が魔界側から追っ手を差し向ける可能性があるわ」


「えっ……!?」「嘘……」「まさか……」


「カイの母の一族は魔界での支配者なの……」


「じゃあ、カイは追われることになるのか……?」


「そうかもしれない……」


 俺の言葉にうなずくマヤ。


「カイは無事なの……?」


 エンが不安げな表情をして尋ねる。


「恐らくね……。あの女を始末した後、忽然と姿を消したそうだから」


「お兄様はきっと戻ってくる……。そう信じてる……」


 ユナは切実な想いで語る。


「そうね……。私も信じるしかないと思う……」


 アイカとユナはそう言ってお互いを見つめ合っていた。


 2人はお互いにカイのことを想っているようだ。


「カイは必ず帰ってくるよ……」


 俺はそう言って2人を励ます。


「うん……」「そうね……」


 2人は俺を見て微笑みながら返事をした。


「カイは私が探し出す……。必ず……」


 エンはそう決意して囁いていた。


「もう一つ、悪い知らせがあるわ……」


 マヤは暗い表情をする。


「まだあるの……?」


 ユナが驚いている。


「ええ……。どうやら反体制派の残党がこの世界に逃げて来たらしいの……」


「それは本当か……?」


「確かな情報筋だから間違いないと思う……」


「そうか……。厄介なことになったな……」


 俺達は黙り込んでしまった。


「ねえ……。それって私達に復讐してくるの……?」


 アイカが恐る恐る訊いてくる。


「ええ……。隙があれば襲ってくるでしょうね……」


 マヤはきっぱりと答える。


「怖いね……」


 ユナは悲しい表情で呟く。


「安心しろ……。俺が守るから……」


 俺はそう言って、ユナを慰めた。


「ありがとう……」


 そう言って俺に寄り添って来た。


 その時、広川が口を開く。


「僕も君達に協力するよ……。神谷君……」


「ああ……。頼むよ……」


 俺は広川に頼んだ。


「じゃあ、私はこれで帰るわ……」


 そう言うと、マヤは去っていった。


「これからどうする……?」


 俺は皆に訊いて一緒に歩き出した。


「買い物がまだ途中だったわ……」


「買い物なら付き合うよ……」


 俺はそう言ってアイカについて行くことにした。


 ユナ、美和、エン、広川もついてくる。


 そして、歩いている途中で俺は立ち止まった。


「ん……? どうかしたの……?」


 アイカが不思議そうな顔をしている。


 俺の心に別の他人が入り込んできて、急に身体がゆうことをきかなくなっていた。


(なんだこれ……?)


 俺は困惑していた。


「大丈夫……?」


 心配して近づいてきたアイカが俺の顔を見た瞬間、動きを止める。


(なんだ……?)


 俺は疑問に思った。


 そしてアイカ、ユナを見ると急激に怒りと恐怖が入り交ざった感情が湧いてくる。


 俺の身体に憑りついた者は必死に堪えて平静を装う。


「なんでもない……」


 俺でない者がそう答えた。自分自身の思考は出来るが自分で喋ることが出来ない。


「そう……。顔色が悪いわよ……」


 心配そうに見つめている。


「大丈夫だ……」


「そう……。無理しないでね……」


「わかっているよ……」


 俺はなんとか自分の意思で話そうと頑張ったが駄目だった。


「今日は、ちょっと体調が悪いので先に帰るよ……」


 俺ではない者は皆に、伝えると自分のアパートに向けて帰ろうとした。


「えっ……!? どうしたの……?」


「悪いな……」


 そう言って、去ろうとしてエンを見るとお互いに目で合図をしていた。もちろん俺の意志ではない。


「えっ!?」


 ユナは驚いていた。


 そして俺ではない誰かが勝手に行こうとしている。


「パパ――! 待ってよ――!」


 ユナが咄嗟についてきた。


(どうしたんだ……。俺の身体は?)

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