第25話 刺客との戦い(1)

 俺は目の前に現れた男を観察する。


 身長は高く、年齢は二十代後半といったところだろうか? 髪は赤毛で、肩まで伸びており、顔立ちはかなり整っていて、モデルのようにスタイルが良い。


 しかしよく見ると、その顔には残忍そうな表情を浮かべており眼が赤く染まっている。


 服装も真っ赤に染まったジャケットを着ていた。


「お前が刺客なのか?」


 俺は質問した。


「まぁ、そんなところだ……」


 男は答えると、ニヤリと笑みを浮かべた。


「お前の目的はなんだ!?」


 俺は再度、問いかける。


「それは……、貴様の命を奪う事さ……」


 男は楽しそうに語る。


「そうか……」


 俺は納得すると身構えた。


「ほう……、この状況でも戦うつもりかい?」


 男は感心しながら言うと、こちらに向かって歩いてきた。


 そして、次の瞬間、俺の視界から消えた。


 いや、正確には高速移動したのだ。


「速い……」


 男は美和の後ろに移動すると、整った顔を下卑た表情で笑いながら喋った。


「お前の友達か彼女か知らないが、このままにしておくのかい……」


 そう言いながら、美和に命令した。


「こいつを殺せ……」


「はい……」


 美和が返事をして振り返ると、刃物を構えた。


「待て! 美和!! 正気に戻るんだ!!」


 俺は大声で呼びかけるが、無駄だった。


「無駄だ……。こいつは俺に洗脳されている。お前なら、この女をどうする?」


 男は嘲笑いながら聞いてくる。


「くっ……」


 俺は歯ぎしりした。


 すると、広川が俺の前に立った。


「ここは僕に任せてくれよ」


 彼は真剣な眼差しで言う。


「わかった」


 俺は了承すると後ろに下がった。


「ありがとう」


 広川は微笑むと、美和の前に出た。


「ふふふ……」


 美和は不気味な笑顔を浮かべている。


「黒崎さん。今すぐ正気に戻ってくれ!」


 そう言って、広川は説得を試みたが、美和は首を横に振った。


「嫌……、お前を殺す……」


 彼女は淡々と言いながら、手に持っていた刃物を広川の胸に突き刺す。


「ぐあっ!!」


 広川は崩れ落ちた。


「広川!!」


 俺は叫ぶが、広川は起き上がらない。


「おい! 大丈夫か?」


 俺は慌てて駆け寄る。


 駆け寄ると、それはハリボテだった。広川のような形をしており血は出ていない。


「えっ……」


 俺は驚いて、辺りを見回すと本体は美和の後ろにいた。


「残念だが、偽物だよ」


 広川は、勝ち誇ったような顔で言った。


 そして、後ろから美和の頸動脈に指を添えると一気に絞め上げた。


「うぅ……」


 苦しそうな声を上げると、美和は意識を失ったのか地面に倒れ込む。


「黒崎さんは眠らせておいたよ……」


 広川は安堵した様子で呟く。


「ありがとう……」


 俺は礼を言う。


「いいんだよ。ダミーを作れる能力が役に立ったよ……」


「そうだな……」


 俺は同意した。


「ところで、これからどうするつもりだい?」


 広川に聞かれたので、俺は答えた。


「決まっているだろう。あいつを倒す」


「大丈夫かい?」


「やってみないと判らない……」


「それなら、僕も手伝うよ」


 広川は俺の背中を押してくれた。


「行くぞ!」


 俺は掛け声と共に走り出すと、男に向かって拳を振り上げる。


しかし、簡単に避けられてしまう。


「遅いぜ……」


 男は馬鹿にしたように呟いた。


「今度はこっちからいくぞ……」


 男はそう言うと、目にも止まらぬ速さで蹴りを入れてきた。


 俺は咄嵯にガードしたが、衝撃で吹き飛ばされる。


 壁に激突して、そのまま地面に倒れた。


「ははは……。無様だな……」


 男は嘲笑っている。


「まだまだ……」


 俺は立ち上がると、男に飛びかかる。


「何度やっても同じだ……」


 呆れた口調で話すと、また蹴りで攻撃をしてきた。


 俺は避ける事ができず、まともに喰らってしまう。


「ぐうっ……」


 俺は苦痛の声を上げた。


 その後も、一方的に攻撃される。


「弱いなお前……」


 男は退屈そうにしていた。


 俺は何とか立ち上がったが、既に満身創痍である。


「そろそろ終わりにするかな……」


 男はそう言うと、俺の方へゆっくりと歩いてきた。


「お前には恨みはないが、死んでもらう……」


 男は冷酷な表情を浮かべながら近づいてくる。


 絶体絶命の状況の中で突然、広川が姿を現した。


「僕の事を忘れないでほしいね……」


 そう言いながら、男に立ち向かって行った。


「ふん……、雑魚が……」


 男は広川を睨みつけると回し蹴りをする。


「ぐはぁ……」


 広川は悲鳴を上げて、地面に転がった。


「邪魔だ……」


 男は吐き捨てるように言うと、止めを刺そうとする。


 次の瞬間、地面に転がっている広川の顔を踏みつけた。


「うっ……」


 苦しそうな声が漏れる。


「やめろー!!!」


 俺は叫びながら、必死で男に掴みかかった。


「離せ!」


 そう言って、俺を払いのけようとするが離れない。


 すると、男が俺の顔面を蹴ってきた。


「ぐはっ……」


 強烈な痛みを感じて、思わず手を離してしまう。


「ちっ……。面倒臭い奴だ……」


 男は舌打ちをした。


「おい! 大丈夫か?」


 俺は心配になって広川に近寄った。


「ああ……。僕は平気だよ……」


 しかし、その体は満身創痍でボロボロになっていた。


「もうお前達は用済みだから、ここで死んどけ……」


 男は冷たく言い放つと、こちらへ向かってくる。


「くそっ……」


 俺は焦りを感じた。


 何か策はないのかと必死で考える。


 すると、広川が口を開いた。


「神谷君……、君は逃げるんだ……」


「何を言っているんだ!?」


「いいから、早く……」


 広川は俺に逃げるよう促す。


「嫌だ……」


 俺は拒否した。


「頼むから、言う事を……」


 広川は懇願する。


「断る……」


 俺は首を横に振った。


「どうしてだい?」


「お前を置いて逃げれる訳ないだろう!!」


「気持ちは嬉しいけど、このままじゃ2人とも殺されてしまう……」


 広川は真剣な眼差しで言う。


 確かに彼の言う通りかもしれない。


 2人で戦ったところで勝てる見込みはなかった。


 だが、それでも諦める事はできないのだ。


 俺は覚悟を決めると、男を睨む。


「どうした? 怖くて何も言えないか……」


 男は嘲笑いながら、挑発してくる。


「うるさい! 黙れ!! 」


 俺は怒りを込めて叫んだ。


「威勢だけは良いようだが、所詮は無駄だ。力を与えられた者も人間だ」


 男は冷静に呟く。


 俺は打つ手無しと悟ると、天を仰いだ。


(もう、お終いかも……)


 そう思った時だった。


 突然、男の体が宙を舞って地面に落下した。


「うおっ……」


 男は地面に叩きつけられると、苦しそうな声を上げる。


 俺は驚いて目を見開いた。


「大丈夫?」


 声のした方を見ると、そこにはアイカの姿が見えた。


「何が起きたんだ?」


 俺は驚いていると、彼女は微笑んで答える。


「隆司君も下僕も惨めな状況ね……」


 どうやら広川は名前で呼んでもらえないようだ。


「よくもやってくれたな……」


 男は立ち上がりながら呟いた。


「あら、大したものね……」


 そう言うと、アイカは男の方へ歩き出す。


「待ってくれ……」


 俺は慌てて呼び止めた。


「ん……。どうかしたの?」


 彼女は不思議そうに振り返る。


「危ないから、下がっていてくれ……」


 俺は彼女を庇うように前に出た。


「貴方は引っ込んでなさい……」


 しかし、彼女は冷たい態度で俺を押し退けた。


「邪魔よ……」


 そして、男に向かって歩いていく。


「これはこれは……。お姫様の登場と来たか……」


 男は、薄笑いを浮かべながら喋る。


「そうよ……。そのお姫様が助けに来てあげたわ……」


 アイカは不敵な笑みを浮かべていた。


「俺の相手をしてもらおうか……」


 男も相変わらず薄笑いを続けている。


「後悔させてあげるわ……」


 アイカは余裕の表情で話していた。


「お前みたいな小娘には負けないさ……」


 男は自信満々の様子である。


「どうかしらね……」


 そう言うと、アイカは男の方へ歩いて行く。


「おい! 危ないぞ!!」


 俺は彼女を止めようとした。


「邪魔だと言ったでしょう!!」


 すると、彼女は強い口調で俺を怒鳴った。


「ごめん……」


 俺は素直に引き下がる。


 アイカは立ち止まると、男の方を向く。


「準備はできたのか?」


 男はアイカに尋ねた。


「ええ……。いつでも良いわよ……」

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