第10話 廃工場での戦い
俺達の後ろにスーツの男が端正な顔をニヤニヤしながら立っていた。
「ユナはどうした?」
「彼女なら、別の部屋で寝ていますよ……」と男は笑顔で答える。
「ユナをどうするつもりだ?」と俺は怒りを抑えながら尋ねた。
「それは言えませんね……。あなたの友達を人質にしたおかげで、すんなりと捕まえることが出来ました」と男は笑みを浮かべている。
「くっ……」と俺は悔しくて歯ぎしりする。
「まぁ、良いでしょう……。ところで、そちらの女性はどちら様ですか?」と俺の隣にいるマヤを見ながら尋ねてきた。
「彼女は俺の仲間で、一緒に行動している人だ」
「なるほど……そうなんですか……」と男は納得している様子だった。
(こいつはマヤの事を知らないし、マヤを人間だと思っている。それを利用してユナを助けるチャンスが生まれそうだ……)と俺は考えた。
「おい! お前の目的は何なんだ?」
「目的……。そうですね……あなたには言えませんね……」
「じゃあ、美和を解放しろ!」
「それも出来かねますねぇ……。では、仕方ありませんね……」と言いながら彼は指をパチンッと鳴らした。
すると、美和が突然苦しみ出した。
「うぅ! 苦しい……」美和は苦しみだし悶え始めていた。
「美和!? どうなっているんだ!?」
「ふふ……。どうやら、私の能力で苦しんでいるみたいですねぇ……。このままだと死にますよぉ……」と男は楽しそうに笑いながら言った。
「なんだと……」
(落ち着け……。まだ時間はあるはずだ……。考えれば必ず突破口はあるはず……)と俺は自分に言い聞かせて冷静さを保つ。
「おい! 貴様! 美和を元に戻せ!!」と俺は男を睨みつけて叫んだ。
「お断りします……」
「ならば、力づくでも……」と言って俺は拳を構えようとした時、
「隆司さん……」とマヤが声をかけてきた。
「今は駄目よ……。あの男の能力の詳細が分からない以上迂闊に手出しできないわ……」
「確かにそうかもしれないが……」
「大丈夫……。きっと何とかするから……」とマヤは俺の目を見て言った。
「ああ……。分かった」と俺は覚悟を決めて言った。
「それにしても、美しい女性だ……。あなたは私と一緒に来てくれませんか?」とマヤの方を向いて男が話しかける。
「嫌に決まっているじゃない……」
「それは残念……」と男は苦笑いしていた。
「それより、1つだけ教えてくれない?」
「なんでしょうか?」
「ユナは今どうしているの?」とマヤは真剣な表情で尋ねた。
「彼女は隣の部屋にいますよ」
「そう……。ありがとう……」とマヤは礼を言って、美和の方に向き直った。
そして、マヤは両手を広げながら美和の方へ歩き始めた。
美和の檻の前まで来た所で立ち止まる。
そして、檻の格子越しに彼女の頭を優しく撫でた。
すると、美和の顔色がみるみると良くなっていった。そのまま、美和は眠ってしまった。
「これで良しと……」と言ってマヤは微笑む。
「何! 今のは一体? お前は何者だ!」
「私はユナの姉よ……」とマヤは堂々とした態度で言う。
「ユナの姉!? なるほど……そういう事か……」
「えぇ……。だから、ユナを傷つけたら許さない……。それと貴方の能力は大体把握できたわ……」とマヤは淡々と話す。
「それは、それは……。怖いですね……。それで、どうするつもりですか?」と男は笑っていたが、その顔は引き攣っていた。
「こうするのよ……」
すると、男の身体は氷に包まれていった。
「な、何だこれは!?」と男は叫びながら暴れるが無駄な抵抗であった。
頭部以外、完全に凍ってしまった後、粉々になって崩れ落ちた。
「終わったわ……」とマヤは満足げな表情をしていた。
俺はマヤが戦っている間、何も出来なかった事を悔やんでいた。
そんな俺の様子に気付いたのか「大丈夫よ……。気にしないで……。あなたの力では私達と同じ世界の人間を倒すのは無理だから……」とマヤは俺に気遣ってくれたのだろうが俺の心にグサッと刺さる言葉だった。
「そっか……。ありがとよ……。助かったぜ」と俺は引き攣った笑顔で答えた。
「この人から情報を聞き出そうと思うの……」とマヤは粉々になっていない男の頭部を持ち上げながら言った。
「こいつはもう死んでいるぞ?」
「少しの間なら生き返らせることが出来るわ……」
「マジかよ……。すげーな!」
「じゃあ、早速聞き出してくれ……」と俺は男の頭部に近づいた。
マヤが男の口に口づけをしだした。
「おいおい!何しているんだよ……」と俺は顔を赤くしながら小声で言った。
すると、マヤは唇を離して「キスしているように見えるけど、実際は脳に直接干渉しているから安心して……」
(いや、それでも恥ずかしいだろ……)と俺は思った。しばらくすると、マヤは口を離して男の様子を伺う。
男は何も言わず目を閉じたままだ。
「何か喋ってみて……」
「分かりました……」
「おぉ!生きてたのか……」
「そうみたいね……」とマヤも納得している様子だった。
「お前の目的は何だ?」
「目的は、あの娘を人質にして一族を脅迫し、あの世界を支配することです……」と男は素直に答える。
「脅迫材料として誘拐したという訳か……」
「はい……」
「なるほど……。ところで、お前1人だけで行動している訳ではないよな?」
「いえ、仲間がいます……」
「どんな奴らだ?」
「それは言えません……」と男は即答する。
「この状態でも尋問に耐えているのか?」
「ええ……。そのようね……」
「おい! まだ、俺達の質問に答えていないぞ?」と俺は強めに言ってみる。しかし、男は黙ったままだった。
「これ以上は無駄のようだな……」と俺は諦めて言った。「そうね……」とマヤは同意する。
暫くすると、男の頭部は土気色になり、やがて塵となって消えてしまった。
「どうやら、時間切れのようね……」とマヤが残念そうな顔で言う。
「ああ……。」と俺は呟いて溜息をついた。
その後、俺達は部屋から出て、ユナのいる隣の部屋の前に来た。
「ここか……」と俺は扉を開けながら呟く。
中に入ると、ユナがベッドの上で寝ていた。
「ユナ!」とマヤは叫んでユナに駆け寄る。
ユナはマヤの声に反応し、ゆっくりと目を開ける。
そして、マヤの顔を見ると泣きながら抱きついてきた。
「お姉ちゃん!!」と言ってユナは大きな声を出して泣いた。
マヤはユナの頭を優しく撫でた後、「もう大丈夫だから……」と言ってユナを抱きしめた。
ユナが落ち着くまで俺は二人を見守った。
暫くして、ユナは落ち着いた様子だった。
「それで、これからどうするんだ?」
「とりあえず、ここから脱出しないと……」
「そうだな……」と俺は相槌を打つ。
それから、俺達は廃工場の外を目指した。俺は眠っている美和を担いでいた。
外に出ると、既に日が暮れており、辺りは暗かった。
「ユナが無事だったので私は、ここで別れるわ」
「分かった……」
「また、会えるといいわね……。」とマヤは微笑みながら話す。
ユナも「バイバイ!」と言った。
「ああ……。じゃあ、元気でな!」と俺達は笑顔で手を振って別れた。
そして、マヤは消えていった。
「さて、帰るか……」と俺は独り言のように呟いた。
「うん……」
こうして、俺は家に帰ることが出来たのであった。
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