藤谷江短編集

藤谷江

才能

 わたしには、これといって取柄というものがない。学校のテストはいつも平均点くらいだし、運動神経は人並み程度。絵なんて描いたら子供にだって笑われる。オタクの人のように何かに詳しいわけでもない。本当に、本当に平凡な人間なのだ。そして、わたしはテニス部に所属している。もちろん、エースでも部長でもない、只お気楽にテニスを楽しんでいる普通の部員だ。


 今年のインターハイは、今後、受験を控える二年生にとっては、最後の大会になる。わたしも二年生なので、思い出作りに出場したいという気持ちはあるが、部内のレギュラー選抜戦を勝ち抜く必要があるので、今回も補欠になるだろう。


 同じ部員の梓とは仲が良い。彼女とは高校に入ってから知り合い、彼女の誘いで私はテニス部に入部した。一緒に入部して以来、彼女は凄まじい活躍だった。はじめて部内の全学年を巻き込んだリーグ戦で上級生を負かし、あらゆる大会で優秀な成績を収めるようになった。

 それに、高校を卒業したら、オーストラリアのアカデミーに留学すると言っていた。なんでも、小学一年生の頃からテニスをしているらしい。今までずっと部のレギュラーにしてエースなので、インターハイも当然のように出場するだろう。


 レギュラー選抜戦、三勝六敗で最終戦に挑む。何度か大会を経験している二年生が相手だ。相手にセットを先取された後のインターバルで、梓がわたしのもとへやって来るなり、応援の言葉をかけてくれた。


「ドンマイ、美穂。つぎで取り返せばいいよ」


うん、とわたしは応え、試合を続けた。


 結局、その試合には敗れた。梓は全勝でレギュラーを保守した。


「惜しかったね、美穂。あの子、最近腕を上げたよね。わたし、インターハイ頑張るよ。そうだ、インターハイ終わったら、また一緒にテニスしようよ。受験勉強あるけど、たまにならいいよね」


 正直、少しだけうんざりした。才能に恵まれた彼女が、こんな凡人のわたしを気にかけてくれ、あまつさえ歩調を合わせるように対等に接してくる、それがむしろ屈辱だった。それだけ立派な才能があるのだから、凡人なんて置き去りにして、どこまでも高いところへいけば良いのだ。梓ならきっとできる。


 別れ際に、卒業後はやはり留学するのかと梓に訊いたら、梓は「母子家庭だから留学費用を用意するのが難しくて諦めた」と言った。

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