考えてはならぬ

かえさん小説堂

考えてはならぬ

 昔、そこにできたとある王国のことです。そこは暑苦しい土地でありました。いつの時期でも太陽がさんさんと照り輝き、水は少なく、植物の種類も限られるほどの気候でございました。人が生きるのにはずいぶんと過酷な土地です。


 しかし、その文化は他の国よりも発展しており、人々は各々で工夫を凝らして、この暑い気候で平和に暮らしをしておりました。


 その国の人々は全体的に賢い者が多いのでした。数学者はもちろんのこと、科学者、哲学者、博士などと呼ばれる者たちは、他の国の者たちよりもずっと賢く、真面目で、探求心がありました。彼らは誰かに言われるでもなく自分の研究を続け、日々学びを求めているのです。それは国の進歩のためというよりも、並々ならぬ好奇心によるものであるようでした。



 ある日のことです。そんな彼らの間で、新たに、有力で興味をそそる学説が、ポンと現れました。

 それは、神についてのことでした。自分たちよりも上の存在の何か、抽象的で、誰もまだ証明したことのないものです。好奇心と知識に飢える学者たちは、その学説に多大な興味を示しました。


「神とは、文字である」


 その学説はそう言っているのでした。


「文字は私たちの理解に及ぶことのできないものである。そして、不滅である。私たちを形作るのは文字であり、私たちの存在を表すのは、文字である。すなわち、神とは文字である」


 学説はそう言いました。

 その学説を唱える人は、こうとも言いました。


「人は忘れられてしまえば、存在しないのと同義である。人は個として成すものではなく、集として存在して初めて存在するのだ。人が個になったとき人は消える。墓石にその者の名を彫るのも、その者を存在させ続けるためである。つまり文字なくして人は存在できず。歴史は文字に残るもののみ受け継がれるものなり。」


 学者たちはこのことを考え続けました。いつもは各々で研究をする連中までも、集まって頭を捻りました。



 しかし、現在では、この学説は考えられていません。それ現代人が考えることもできないほど忙しくなったから、ということもありますが、それだけではありません。


 この有力な学説を唱えた者が、死んでしまったからでした。


 この学説を言った学者もまた頭がよく、いくつもの研究を重ねておりましたが、この学説を唱えた途端に不幸が立て続けに起こり、しまいには、自らの保管する石板たちによって押しつぶされて死んだのでした。石板には、無数もの文字が彫られていたのでした。


 人々は文字について考えるのをやめました。


 しかしこの学説がこうして文字として残っている限り、今もどこかで不幸が起こるのでしょう。

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考えてはならぬ かえさん小説堂 @kaesan-kamosirenai

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