屋根裏部屋に行きたい?

 お菓子屋さんに寄った後、冒険者組合に向かう。


 中に入ると、いつもはどことなく陽気で暢気な男性陣が、何やら真剣な表情で話し込んでいた。


 ん?

 何かあったのかな?


 ちょっと気になり、「どうしたの?」と訊ねると、皆、驚いた顔でこちらを見た。

 そして、ぎこちない笑みを浮かべつつ「いや、別に?」とか「やあ、サリーちゃん、元気かい?」とか「お日柄がよろしゅうて」とか言っている。


 いや、露骨に怪しいんだけど?


 だけど、いくら「何かあったの?」と聞いても、引きつった笑顔で「何でもない!」を繰り返すだけだ。


 えぇ~!

 凄く、気になるんだけど!?


 でも、突っ込んでも教えてくれなさそうなので、訝しく思いつつも、カウンターに向かう。

 受付の一つにハルベラさんが座っていて、わたしを見つけると手を振ってくれた。

「ねえねえ、ハルベラさん!

 なんか、皆が怪しいんだけど!?」

「怪しい?」

 不思議そうにしたハルベラさんは、男性陣の方に視線を向ける。

 そして、苦笑を浮かべた。

「どうせ、男達の下世話なあれこれじゃないの?

 気にする必要は無いわ」

「はあ?

 そうかなぁ?」

「そうよ」

とハルベラさんは呆れた感じに断言する。

 そうなのかなぁ~

 あ、いや、そんなことより、やる事をやらねば。

「あと、アーロンさんっている?」

「組合長なら、組合長室にいると思うけど、呼んでくる?」

「うん、お願い」

 そうお願いすると、ハルベラさんは立ち上がり、組合長室まで向かってくれる。

 しばらくすると、戻ってきたハルベラさんに「中で聞くって」と招かれた。



 組合長室に入ると、ちょっと前まで資料やらが雑多に置かれていた机が綺麗に整頓されていた。

 食糧問題も解決し、大分余裕が出来たんだろう。

 執務机に座り、何やら書き物をしているマッチョ系組合長の顔色も大分良くなっていた。

「ちょっと、座って待っていてくれ」

と顔も上げずに言われたので、いつものように来客用の長椅子に座る。

 すると、書き終えたのか、アーロンさんはそれを持って立ち上がると、扉まで歩を進める。

 そして、戸を開けると、外に向かって何やら声をかけた。

 しばらくやり取りを終えると、アーロンさんは両手にコップを持って、こちらに歩いてくる。

 そのうちの一つをわたしに差し出してきた。

「ありがとう」

とわたしが受け取ると、アーロンさんはわたしの正面に座った。

「どうした?

 ワイバーンの次は飛竜でも狩ってきたか?」

「いや、流石にわたしだけで飛竜君は無理だよ」

 苦笑するわたしに対して、アーロンさんは苦い顔をする。

「その言い回しだと、一人でなければやれるって聞こえるんだが……。

 いや、良い!

 で、何かあったのか?」


 なので、冷房の魔道具とガラスを買いたい事を伝える。


 アーロンさんは頷く。

「良いだろう。

 組合の方で買っておく。

 あと、ワイバーンの事もあるからな、これからは手数料は不要だ。

 いつでも、わしに言え」

「いいの?」

 わたしが訊ねると、アーロンさんは苦笑する。

「むしろ、それらの購入分だって不要なぐらいだ。

 だが、それだと変に勘ぐられかねないからな」

 お金は一応あるので、そこまでして貰う必要は無い。

 あ、それより、ワイバーン偽竜君の羽の事を言わないと。

「羽の膜、一枚分、欲しいって人がいるんだけど、良いかな?」

「ん?

 う~ん、いや、こちらは貰う立場だ。

 勿論、問題ない」

と言いつつ、アーロンさんはちょっと残念そうだ。

 だけど、駄目とは言わないので、まあ大丈夫かな?

 コップのお茶を一口飲む。

 これ、麦茶かな?

 さっぱりしていて美味しい!

 これの作り方、誰か教えてくれないかなぁ~


 そこから、受け渡しの手順を確認する。

 流れとしては、以下の通りだ。


 ・早朝、巨大な魔獣が現れたという報告が上がったと、アーロンさんが警告を出す。

 ・城門前の林に、極力人が近寄らないようにする。

 ・わたしが持ってきた、ワイバーン偽竜君を置く。

 ・調査の名目で、赤鷲の団を始めとする冒険者がそちらに向かう。

 ・ワイバーン偽竜君を発見する。


 こんな所だ。

 あと、その日、わたしは町に近づかないように言われた。

 まあ、その方が良いよね。

 時計が無い現状、タイミング良く行くのかな? と思い確認したら、問題ないとの事だった。

「お前がいつも、ここに来るぐらいに置いてくれれば良い。

 あとはこちらが上手い具合調整する」

とアーロンさんは自信ありげに頷いた。

 なら、問題ないかな?

 注意点としては、ワイバーン偽竜君は必ず解凍した状態で持ってくるように言われた。

 まあ、全くその通りなので頷いておいた。



 結界を抜けて、我がに到着!

 したとたん、妖精ちゃん達に囲まれた。

 はいはい、持っていって良いから!

 妖精ちゃん達は、荷車に群がると、お菓子を持って、さっさと家の方に行ってしまう。

 ……もう、何をか言わんや。

 荷車を置いて家に入ると、「お帰りなさ~い!」とシャーロットちゃんが抱きついてくれる。

 可愛い!

「ただいま~!」

とハグし返していると、ケルちゃんも嬉しそうに「がう!」「がうがう!」「がうぅ~!」とやってくる。


 こちらも可愛い。


 モフモフなケルちゃんを「ただいま~!」とハグしていると、イメルダちゃんが「お帰り」と近寄ってきた。

 そして、続ける。

「改築、ほとんど終わっているわよ」

「うん、そのようだね」

 中央の部屋食堂がかなり広くなっている!

 これなら、ケルちゃんもいくらか気楽に動けるね。

 そんな事を考えていると、シャーロットちゃんが、わたしのスカートを引っ張る。

「サリーお姉さま!

 シャーロット、あそこに登ってみたい」

「ん?

 ああ、屋根裏部屋ね」

 元々、物置だった部屋も壁が取っ払われて、屋根裏部屋への入り口とハシゴが露わになっている。

「あの上は、ルルリンや妖精ちゃん達の待機場になっているからなぁ~」

と言いつつ、チラリと妖精メイドのウメちゃんに視線を向けると、赤髪短髪の妖精ちゃんはシャーロットちゃんの背後で”駄目! 駄目!”と険しい表情で身振り手振りをしている。

 ただ、わたしの視線を追うように、シャーロットちゃんが振り向くと、ウメちゃんは何事も無いように、ニッコリ微笑んでいる。


 ……前から思ってたけど、ウメちゃんって、シャーロットちゃんの前では優しい姉ぶるよね。


 とはいえ、そんな事では可愛らしい妹ちゃんから逃れられる訳も無く、「ウメちゃん、上に登って良い?」と期待した目で見られている。

 ウメちゃん、何やら汗をかきつつ、”上はごちゃごちゃしてるしぃ~”と身振り手振りしつつ、こちらに、視線で助けを求めている。


 ……いや、そもそも、わたしの感覚的には、勝手に占領したあげく、家主わたしすら近寄らせないようにしてるんだよねぇ。


 わたしはすーっと視線を避け、「部屋はどうなってるかなぁ~」と旧軽運動室の方に向かうのだった。 

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