船を作る?

 卵と乳をシルク婦人さんに渡し、籠を持って食料庫に向かう。

 頼まれていたものを持って、中央の部屋食堂に戻ると、ジン君を体に巻き付けたイメルダちゃんが困った顔で立っていた。

 その頭の上には、黒バラちゃんがくっ付いて、何やら、イヤイヤと言っている子供のように泣いている。

「え?

 どうしたの?」

と訊ねると、イメルダちゃんが苦笑する。

「わたし、妖精ちゃん達の声が聞け無くなっちゃったみたい」

「え!?

 どうして!?」

「分からないわ。

 朝起きたら、全然聞こえないのよ。

 多分、あの白い玉の効果が切れちゃったんでしょうね」

「そうなんだぁ~」

 まあ、聞こえるようになったのがあの玉の効果なら、いつまでも続くって考える方が、無理があるかな?

「そのことを、黒バラちゃんに話したら、それが嫌らしく、ずっとこの調子なのよ」

「あらら……」

と思いつつ、視線を黒バラちゃんに向けると、黒髪の妖精メイドちゃんは号泣しつつ、その顔をイメルダちゃんの頭に擦り付けていた。

 いや、イメルダちゃんの頭が涙でべちゃべちゃになるから、そろそろ、止めて上げて?

 そんな事を考えていると、妖精メイドのスイレンちゃんを始めとする何人かの妖精メイドちゃんが飛んできて、宥めつつも、黒バラちゃんを回収していった。



 イメルダちゃんの頭をハンカチで拭いて上げた後、パンを作る。


 テーブルを拭いているイメルダちゃんが訊ねてくる。

「今日はどうするの?」

「ん?

 今日は川に行ってくるよ。

 シルク婦人さんに頼まれていた雷魚君を獲ってきたいしね」

 そう答えると、イメルダちゃんは少し考えるそぶりを見せつつ、こんなことを言う。

「ねえ、川辺に小粒の石とか無いかしら?」

「ん?

 多分あると思うけど」

「ため池なんだけど、やっぱり濁っているの。

 小さい石を敷き詰めれば、多少落ち着くんじゃないかしら?」

「ああ、なるほど。

 じゃあ、いくらか拾ってくるよ」

「お願いね」

 そんな事を話していると、ゴロゴロルームから「おはよう」という声が聞こえてきた。

 視線を向けると、ヴェロニカお母さんで、スリッパを履くとこちらに近づいてくる。

「おはよう」

「おはようございます」

とわたしとイメルダちゃんがそれに返すと、ヴェロニカお母さんはニッコリ微笑みながら、イメルダちゃんの側に近寄る。

 そして、「おはよう、ジン君」と優しく声をかけた。

 それに対してジン君は、警戒するようにヴェロニカお母さんを見つめつつ、左頬を困った顔をするイメルダちゃんの、その腕にくっ付けている。

 そんな様子に、ヴェロニカお母さんは「ふふふ」と何やら楽しそうに微笑むと、静かに離れた。

 わたしが「しばらくは懐いてはくれないんじゃない?」と声をかけるとヴェロニカお母さんは何やら得意げな表情で「続ける事が大切なのよ」と言っている。


 さようですか。



 朝ご飯を食べた後、洗濯物等の雑事を終えて、出かける準備をする。

 外に出ると、わたしとのお出かけが嬉しいのか、ケルちゃんが三首して、興奮するように首を振ったりしている。

 もう、落ち着いて!

 首筋を撫でた後、物作り妖精のおじいちゃん達が持ってきてくれたケルちゃん用の荷車を取り付ける。

 この荷車は、いつものとは違い、ケルちゃんが引くためように作られている。

 いつのも荷車よりは一回りぐらい小さいけど、ケルちゃんから脱着するのが簡単に出来るようになっているため、戦闘になった場合、すぐに外す事が出来る優れものだ。

 もっとも、レフちゃんの能力があれば、よほどの事が無い限り、不要な事かもしれないけどね。

 最初、石は籠に入れて持って帰れば良いかな? って思っていたけど、物作り妖精のおじいちゃんが試運転がてら持って行けって身振り手振りで言うので、持っていく事にする。


 さてと、準備も出来たし行きますか。


 ケルちゃんの背に跨がる。

 すると、ケルちゃんの首筋辺りに物作り妖精のおじいちゃんが近衛兵士妖精の黒風こくふう君に連れられやってきた。


 ん?

 どうしたの?

 え?

 付いていく?

 おじいちゃんも行くの?

 いや、別に構わないけど、拡張工事の準備は?

 え?

 他の物作り妖精ちゃんがやるから大丈夫?

 そうなの?


 視線を向けると、近寄ってきた他の物作り妖精の皆が、問題ないというように身振り手振りをしている。

 さらに、物作り妖精のおじいちゃんが、さっさと行くぞ! という様に急かしてくる。


 え~!

 行くのは構わないけど、何の用があるの?

 え?

 良いから早く?

 はぁ。


 まあ、物作り妖精のおじいちゃん一人ぐらい連れて行った所で、問題ないのでそのまま向かう事にする。

 近衛兵士妖精の黒風こくふう君もおじいちゃんの護衛に付いて来るみたいだしね。

「じゃあ、ケルちゃん、行こうか!」

と声をかけると、ケルちゃんは元気よく「がう!」「がう!」「がう!」と吠えた。



「ここら辺で良いかな?」とケルちゃんから下りる。

 前来た場所から、川沿いを下流に向かってそこそこ進んだ場所だ。

 前の所より、幾分流れが穏やかに見える。

 足下の小石を拾ってみる。

 砂とまでは行かないまでも、それなりに小さい。

 前世の神社に敷いてある、玉砂利たまじゃり? だっけ?

 それぐらいのサイズだ。

 ここまで来る途中で、よく考えたら、そこら辺の岩を砕けば良かったかも? なんて思ったけど……。

 こうやって触ってみると、尖った箇所のない丸い石の方が良い気がしてきた。

「ねえ、おじいちゃん。

 この石で良いかな?」

とケルちゃんの背に視線を向けるも、物作り妖精のおじいちゃんの姿がない。

 え?

 どこ?

 辺りを見渡すと、近衛兵士妖精の黒風こくふう君に両脇に手を入れられ運ばれていく、おじいちゃんの姿が見えた。

「え?

 どこ行くの?」

と駆け寄ると、物作り妖精のおじいちゃんは何やら大河の方を指さし、身振り手振りをしている。


 え?

 川を進むの?

 え?

 あ、船?

 船を作るつもり?

 ここは流れが緩やかだから、手始めにちょうど良い?

 はあ、さようですか。

 え?

 わたしも手伝う?

 えぇ~!

 なんだか、面倒くさい事になりそうなんだけど?

 え?

 約束した?

 ああ、お礼の事ね……。


 色々、作って貰っている物作り妖精のおじいちゃんには、何かお礼をしようと思ってはいたんだけど……。

 なんだか、激しく面倒くさい事になりそうな予感がしてきた。



 物作り妖精のおじいちゃんの指示の元、砂利や小石を袋に詰め、荷車に置いた。

 その後、川底の深さが知りたいという、おじいちゃんのために、白いモクモクで確認する。

 手前側はともかく、少し川の中に進むと、結構深くなっている様子だった。

 物作り妖精のおじいちゃんとしては都合が良いらしく、満足そうに頷いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る