第十九章

共闘してロック鳥さんを倒そう!1

 門から北東に向かって歩く。


 そういえば、基本、家の周りか、町までの往復するぐらいしかしていないから、全く未知の場所に行くのは久しぶりだ。

 昔は、大きいクー兄ちゃんに乗って、色々見て回ったなぁ。

 ちょっとした冒険をしているみたいで楽しかった。

 ふふふ。

 なんか、その頃の事を思い出して、ちょっと気分が高揚してきた!

 東側には大きな川があったから、様子を見に行くのも悪くない。

 美味しそうな魚とかいれば良いなぁ。


 後ろを振り向き、確認する。

 もう、林に隠れて門も見えない。


 そろそろ、早く走っても良いかな?

 目立たないようにするのも、面倒くさい。

「白雪ちゃん、行くよ」

と胸の中に声をかける。

 近衛騎士妖精の白雪ちゃんが胸元から姿を現し、ニッコリ微笑んでくれた。

 可愛い!


 軽い足取りで一歩、二歩と走り出す。


 林を抜け、草原を駆け、しばらくすると沼がある。

 比較的、乾燥した所や岩の上を選んで移動していると、ヤゴっぽいのが飛びかかってきた。


 邪魔くさい。


 左手で出した白いモクモク盾で弾き飛ばす。

 すると、前世ぶたぐらいの大きさの蠅が十匹ほど突っかかってくる。


 襲いかかってくるのは、せめて美味しそうなのが来て!


 白いモクモク盾を大きくして、振りつつ追い払う。

 着地と同時に、大口を開けた巨大なワニ君が飛びかかってきたので、顎を蹴り上げてやる。

 ワニ肉は美味しいかもしれないけど、せめて、川に到着するまでは荷物を増やしたくない。

 なので、そのまま先に進む。


 結構、魔獣や魔虫がいるなぁ~なんて思っていたけど、しばらくすると、それらが全く出なくなった。


 妙に静かだ。

 水が豊富な沼地で、本来であれば多種様々な動物や魔獣、魔虫、魔鳥がいてもおかしくないはずなのに……。


 ……いやまあ、恐らくは上空の気配の主のせいなんだろうけどね!


 おっ!?

 空から、高速で何かが下りてくる気配を感じる。

 いや、”落ちてくる”かな?

 その到達点と思われる場所に視線を向けると、木々をへし折りながら、白い何かが落ちてきた。

 白い何かというか、白いもふもふな――。


『コ、小さいコル兄ちゃん!?』


 白い毛皮の――小さいコル兄ちゃんはむくりと起き上がると、わたしの方を向いた。

 そして、目を見開き叫ぶ。

『小さい妹!?』


 わぁ~い!

 小さいコル兄ちゃんだ!


小さいコル兄ちゃぁぁん!』

 わたしが両手を広げて小さいコル兄ちゃんに向かって駆けると、『小さい妹ぉぉぉ!』と 小さいコル兄ちゃんも嬉しそうにこちらに向かって駆けてくる。

 って!?


『わっ!』

っとわたしや小さいコル兄ちゃんが飛びのけば、そこに巨大な爪が空を切る。


 相手はロック鳥さん!?


『小さい妹!』

 小さいコル兄ちゃんがわたしの前に向かい駆けてくるので、わたしは、その背に飛び乗り、白い毛をしっかりと掴む。


 強風に背中が押される。


 ロック鳥さんが飛び上がったのだ。

 あの巨体――黄色大蛇だいじゃ君を横取りした、あのロック鳥さんだ!


 ここであったが百年目って奴だ!

 焼き鳥にしてやる!


 なのに、何故か小さいコル兄ちゃんは逃げるように、木々が密集している方に駆ける。


 何故!?


『ちょ!

 お兄ちゃん、狩らないの!?

 襲ってくるな――ハグっ!――ら、ちょうど良いじゃ無い!』

 結構な悪路を走っているからか、舌を噛んじゃった。

 もっとも、今世の舌は丈夫なので、これぐらいでは傷一つ付かない。


 前世の普通の舌だったら、噛み切れてるだろうけどね。


 小さいコル兄ちゃんは木々をすり抜けるように駆けつつ、言う。

『駄目だよ!

 あいつが鳴くと、魔法がかき消えちゃう!』

『え!?

 そうなの!?』

『うん!』

 それだったら、モクモク魔法を多用するわたしはもとより、小さいコル兄ちゃんが編み出した対ロック鳥さん戦術にとっても最悪の相手と言える。


 木々の上から嫌な気配を感じる。


 甲高い声と共に衝撃波がわたし達を襲う。

 ロック鳥さん版、”威嚇の一吠え”か!

 生意気な!

 わたしは小さいコル兄ちゃんの毛をしっかり掴み、顔を上げて吠える。

「わおぉぉぉん!」

 わたしの本気でやった”威嚇の一吠え”により、線上にある木がしなり、へし折れたけど、ロック鳥さんは高く舞い上がった。


 あれ、わたしの一吠えの衝撃波も利用して飛び上がったな!

 むかつくロック鳥さんだ!


 ロック鳥さんはふわりと体を動かし――くちばしを前に急降下をして来る。

 ふん!

 だからなんだ!


 わたしは迎え撃つために左手で白いモクモク盾を張る。

 だけど、小さいコル兄ちゃんが急に加速して、バランスを崩した。


 ちょっと!?


 すると、ロック鳥さんが速度はそのままに、鳴く。


 ひゃ!?


 白いモクモク盾が崩れる様に消え、衝撃波がモロに来た。


 わたし馬鹿だ!

 魔法が崩されるってあらかじめ聞いていたのに!


 慌てて、小さいコル兄ちゃんにしがみ付く。

 枝葉が周りに飛び交い、後ろで破壊音が響いた。

 小さいコル兄ちゃんは体に木々が擦れるのも気にせず、木が密集している方に駆ける。


 わたしって足手まといになってる!?


 小さいコル兄ちゃんだったら、肉弾戦でも行けるけど、体の小さいわたしの場合、その辺りは不得手だ。

 わたしなんて、魔法を小器用に使って、初めて幾らか戦えるレベルなのだ!


小さいコル兄ちゃん、わたし、離れた方が良いかな!?』

 大声で話すと、小さいコル兄ちゃんも声を大きくして答える。

て欲しい!

 小さい妹が背後で牽制してくれるだけで大分助かる!』


 それならいいけど、わたし、攻撃する術が無いんだけど……。


 そんな事を思っていると、胸をペチペチ叩かれる。

 ん?


 視線を向けると、近衛騎士妖精の白雪しらゆきちゃんが身振り手振り何かを言っている。


 え?

 吠える?

 え?

 それはかき消えてない?

 あ、そうか!


小さいコル兄ちゃん、”威嚇の一吠え”なら、かき消えてない!』


 本気版の”威嚇の一吠え”は全身全霊を込めた一撃である。

 その中には魔力も込められている。

 先ほど、放った”威嚇の一吠え”は完全な形で発動していた。

 つまり、消し去る事が出来なかった事になる。

 小さいコル兄ちゃんも納得行ったのか『そういえば、そうだ!』と肯定してくれる。

 そして、お兄ちゃんは続ける。

『――っていうか、小さい妹!

 そこに、誰かいるの!?』

『うん、小さい妖精ちゃん!』

『よ、妖精ちゃん!?』

 いや、そんな説明をしている時間も惜しい。

『多分、ロック鳥さんの”あれ”は、瞬発的に放たれた魔力は防げないと思う!

 あと、魔力は消えても、魔力によって起きた振動とかも防げない!』

『なるほどね!』


 とはいえ、余り良い状況になったとは言えない。

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