共闘してロック鳥さんを倒そう!2

 瞬発的に放つ魔法はママが推奨していなかったのでわたしも、小さいコル兄ちゃんも使用してこなかった。


 理由は簡単、制御が難しいのだ。


 水をいっぱいまで入れたペットボトル――その口を掌で押さえながら逆さにする。

 その状態で、手のひらを離し、水滴を一つ床に落とそうとする――そのぐらい困難なのだ。

 なので、わたし達はモクモクをかいして魔法を行使する様になった。


 瞬発的に放つ魔法はわたしと小さいコル兄ちゃん、多分、ケリーお姉ちゃんも本気の”威嚇の一吠え”ぐらいしかやってこなかったし、やれないだろう。

 わたし達兄妹では、唯一、大きいクー兄ちゃんだけはその戦闘スタイルから、多用していた。


 大きいクー兄ちゃんなら、あんなロック鳥さんなんて、簡単にやっつけてくれただろうなぁ。


 いや、ここにいないお兄ちゃんの事をあれこれ考えても、詮無い事か。

 わたしは近衛騎士妖精の白雪ちゃんにお願いする。

「ごめん、白雪ちゃん!

 籠を持って、どこかに待避してて貰えない!?」

 白雪ちゃんは強いけど、わたし以上に魔力攻撃に依存していそうな彼女では、ロック鳥さんへの攻撃手段が限られてしまう。

 それに、これからは小さいコル兄ちゃんも本気を出す事になるので、一緒に戦い慣れているわたしならともかく、初対面の白雪ちゃんだと怪我をさせてしまう可能性だってある。

 その辺りが分かっているのだろう、白雪ちゃんは、心配そうな顔をしながらもコクコクと頷いてくれる。

 そして、胸から飛び出ると、わたしの背にある籠に取り付いた。

 わたしが両腕を後ろに反らすと、籠は白雪ちゃんと共に後ろに流れていく。

 ロック鳥さんも、わたしよりさらに小さい白雪ちゃんを狙う事は無いでしょう。


 良し!


 わたしは体をお兄ちゃんに寄せて叫ぶ。

小さいコル兄ちゃん、毛に足を結ぶよ』

『うん!』

 ママや兄姉の体は、前世大型トラック張りに大きい。

 手で毛を掴んでいるけど、お兄ちゃんが急反転とかし始めたら、あっという間に振り回されてしまう。

 なので、ママ達に乗る場合は、その毛をあぶみの様に結んでいる。

 この辺りは慣れているので簡単――小さいコル兄ちゃんに魔力を流し、毛をモクモクの様に操作して縛り、そこに足を乗せるだけである。


 よし、これで大分安定してきた。


 わたしは再度、声を上げる。

小さいコル兄ちゃん、そこをまっすぐ行った先にある平原に出て!』

『平原だと、上から狙われ放題になるけど!?』

『逃げるならともかく、やっつけるなら、動きやすい方が良いでしょう!』

『……小さい妹って、案外、好戦的だよね』


 えぇ~

 そうかなぁ~


 しばらく、森の中を行くと木々が途切れている場所に出た。

 とたん、巨大な影に覆われる。

 後ろを振り向くと、狙い澄ましたかのように、ロック鳥さんが爪を向けて襲いかかってきた。

 それに対して狙い澄まし、「えいっ!」とわたしはモクモク投げ刀を投げつける。


 爪をこちらに向けているので、魔力は崩せない!

と思ったけど、ロック鳥さんはそのままの姿勢で鳴いた。


 投擲したモクモク投げ刀の形が崩れ始める。

 が、消し去るまでには至らず、ロック鳥さんの胸を打ち、体勢が崩れた。

 ロック鳥さんの爪は、わたしたちの後ろで空を掴む。


小さいコル兄ちゃん、円を描くように駆けて!』

『うん!』

 この辺りは、以前、飛竜さんを狩った時の要領と同じだ。

 すぐに平原に円を描くように走り出す。

 その場にいた弱水牛君やマンモス君らが慌てて逃げていく。


 失礼、失礼、申し訳ない!


 ロック鳥さんが上空を旋回する。

 わたし達とは逆回り――時計回りで飛んでいる。

 タイミングを計っているのだろう、チラチラと視線を感じる。

 空を飛ぶ相手だと、”基本”、こちらから動く事は出来ない。

 ロック鳥さんを注視しつつ、訊ねる。

『ねえねえ、小さいコル兄ちゃん。

 そもそも、なんであのロック鳥さんは、こんなにしつこく、お兄ちゃんを狙ってるの?』

 すると、小さいコル兄ちゃんは苦笑しながら言う。

『最初は僕が狩ろうとしたんだけど、返り討ちに遭って、掴まっちゃったんだ。

 まあ、隙を見て逃げ出したんだけど……。

 どうも、一度捕まえた獲物には執着するたちらしくって、しつこく追い回されてるんだ』


 なるほどね。


 小さいコル兄ちゃんは続ける。

『あれでも、ロック鳥はロック鳥だから、森とかにはめったに下りてこないんだ。

 だから、冬ごもりの期間は籠もってやり過ごしたんだけど……。

 春になって、そろそろ忘れたかなぁ~って森から出たら、見つかってね。

 その時は、谷間を上手く使い反撃したんだけど、仕留めきれず……。

 それ以来、前にもましてしつこく追いかけてくるんだ』


 そう言われて見てみると、顔の部分にひっかき傷がある。

 流石は小さいコル兄ちゃん、やられっぱなしでは無いのね。


 感心していると、小さいコル兄ちゃんは顔をしかめつつ、さらに続ける。

『しかも、やたらと警戒し始めてさ、近づく時はひたすらギャァ~ギャァ~! 魔力を打ち消す例の鳴き声を上げまくってさ。

 余りの五月蠅さに、頭にきて、一時期は僕もお返しにと吠えまくってたよ。

 まあ、馬鹿馬鹿しくなって、三日ぐらいで止めたけどね』

 ハハハっ! って感じで話しているけど、わたしはそれどころじゃ無かった。


 ムカデが南下してきたのって、それが原因だよね!

 ロック鳥さんばかりか、小さいコル兄ちゃんまで吠えまくったら、そりゃ皆怯えて逃げるよね!

 そんな地獄のような場所、わたしだって離れるもん、本当に!


 よもや、町が大変になった原因が、小さいコル兄ちゃんにあったとは……。

 そのことを言った所で、きょとんとされるだけだろうから、言わないけどね!


 などとモクモクさせながら頭を抱えていると、ロック鳥さんが降下してきた。

 わたし達の進行方向を逆走する形にだ。


 小さいコル兄ちゃんは右に進路を変える。

 それを追うように、ロック鳥さんも向きを変える。


 これなら、どうだぁぁぁ!


 わたしはモクモクで生み出し、小さいコル兄ちゃんの影に隠していた直径四メートル級の白いモクモク玉を、ロック鳥さんの顔面に投げる。

「ギャァァァ~!」

 ロック鳥さんが嘴を開けて吠える。

 相当魔力を込めた白いモクモク玉だったけど、形を崩し――玉の中に入っていた熱湯(砂付き)がロック鳥さんの顔面に向かっていく。

 が、ロック鳥さん、体をひるがえし躱す。

 体が大きいのに、器用な事を!


 しかも、その状態で鉤爪を繰り出してくる。

 小さいコル兄ちゃんはそれを横に避ける。


 この!


「うぁぉぉぉん!」

 わたしの”威嚇の一吠え”をロック鳥さん、再度、受け流すように体を翻す。

 能力だけじゃない――このロック鳥さん、素でも強い!

 前世、Web小説風に言えば、ロック鳥さん(エリート)ってところか。

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