湧き水を引っ張る計画1

 小さい壺を取ってくると、わたしは蟻さんの前にその壺の中を見せる。

「ねえ蟻さん。

 蟻さんはこの中身、欲しいと思わない?」

 中にあるのは、メープルバターだ。

 それを覗いた蟻さん、体をビクっと震わせる。

 そして、嬉しそうに前足でそれを取ろうとする。

 だが、わたしがそれを持ち上げた事で、彼(推定)の前足は空を掴む。

 え? って顔(推定)でこちらを見る蟻さんに、わたしは言う。

「蟻さん、蟻さんにはレモンの種を持ってきて欲しいの。

 そしたら、これより一回り大きい壺で、これをあげる。

 出来るかな?」

 レモンが何か分からないのか、蟻さんは小首を捻る。

 なので、レモンの木の特徴や、黄色い実の形、そして、食べると酸っぱい! って事を身振り手振りで伝える。

 すると、知っている物だったのか、蟻さんはコクコクと頷いてみせる。

 どころか、”そんなものが欲しいの?”というような余裕な態度すら見せている。


 頼もしい!


 壺を渡してあげると、蟻さん達はどことなく弾んだ感じで帰って行った。

「持ってきてくれそうね」

と嬉しそうにイメルダちゃんが言うので、「そうだね」と頷く。

 満面笑みになってしまうのも仕方が無い。

 ポン酢もそうだけど、レモンとお肉の相性はとても良いのだ。

 特に、パリッとした鶏肉にかけると、最高に美味しい。


 凄く、楽しみだ!


――


 朝、起きた!

 ベッドからそっと抜け出し、パジャマから服に着替える。

 すると、部屋の外で何かがぶつかる音が聞こえた。


 え!?

 何事!?


 部屋から慌てて出ると、中央の部屋食堂にて、仁王立ちをするシルク婦人さんの背中が見えた。


 ……その前に、項垂れる三首の姿も見えた。


 よく見ると、椅子が倒れ、テーブルの位置もずれている。

 元気よく動いて、ぶつかっちゃったのかな?

 まあ、ケルちゃんも大きくなって、比較的に大きく作られているこの食堂部屋でも狭くなってしまっているからね。

 ここら辺も、物作り妖精のおじいちゃんに相談しようかな?


 シルク婦人さんを宥め、倒れている椅子やらを片付ける。


 そして、「部屋の中では暴れないようにしようね」とシュンとするケルちゃんの背中を撫でて慰めつつ、外に出してあげる。


 うむ、晴天なり。


 今日は、巨大赤ムカデ君の様子を確認しつつ、町から北東にさかのぼろうと思っているから、ありがたい。

 家の中に戻り、洗顔をしていると、いつものようにスライムのルルリンが降りてくる気配を感じる。

 気にせず、タオルを手探りで探っていると、ボヨボヨっとした物が、顔面に張り付いてきた!


 え!?

 何!?

 どう考えても、ルルリンだよね!?


「もごもごもごご!(もう、悪戯は止めて!)」

と鷲づかみにして引き剥がそうとするも、剥がれず、むしろ、顔面に張り付いてきた!?


 いや、本当になんなのさ!


 すると、ペロリと剥がれる。

「何なのよ!」

と怒りつつ、顔を手で触ってみると、濡れていた顔が乾いていた。


 あれ?

 これって、ひょっとして、乾かしてくれたの?


 視線を向けると、白色ボディーがぽよぽよ揺れている。

 なんとなく、”どう? 役に立ったでしょう?”と言っているみたいだ。

 正直、前世のWeb小説にあった”本当は怖いスライム”系の戦闘描写みたいでちょっとびっくりしたし、そもそも、タオルで拭いた方がなんとなく気持ちが良かった……。

 だけどまあ、善意でやってくれたのだろうと思い「ありがとうね」と言っておく。

 すると、上下に伸び縮みをする。


 え?

 役に立ったんだから、また、町に連れて行け?

 善意の押し売りかい!

 お礼を言って、損した!


「従魔登録が出来ないと無理だって言ったでしょう!」

と言っても、”行きたい! 行きたい!”と言うように、ぽよぽよ揺れている。


 えぇ~!

 面倒くさい子だなぁ~


「行けるようになったらね!

 行けるようになったら、連れてってあげるから!」

と宥めつつ、合流してきた妖精メイドのサクラちゃんと共に肩に乗せ、飼育小屋に向かう。

 卵と乳を頂き、山羊さん達を外に出す。

 途中、他のスライムに指示を出しつつ”いっぱい働いてる! だから町へ!”とアピールしてくるスライムのルルリンに呆れつつ、「従魔登録が出来るようになったらね」と再度宥めつつ、飼育小屋での作業を終わらせる。

 シルク婦人さんに卵と乳を渡し、今度は食料庫へ向かう。

 すると、物作り妖精のおじいちゃん達が近づいてきた。


 おじいちゃん達、おはよう。

 え?

 連れてく?

 まさか、ルルリンみたいに町に行きたくなったの?

 違う?

 外?

 あぁ~湧き水の所ね。

 その様子から土管をどのような形にするか決める、と。

 じゃあ、朝ご飯を食べたら、行こう!


 物作り妖精のおじいちゃん達が”忘れるな!”と言うように身振り手振りをしてくるので「分かった!」と手を振った。



 朝ご飯を食べた後、洗濯物等の雑事を終わらせる。

 外に出る準備が終わり、寝室から出ると、物作り妖精のおじいちゃんが迎えに来たので「じゃあ、行こうか」と声をかけた。

 すると、中央の部屋食堂にいたイメルダちゃんが声をかけてくる。

「湧き水が出てる場所、わたくしも付いて行って良いかしら?」

「イメルダちゃんも?」

「ええ、どうなっているか見ておきたいの」


 まあ、元々、近衛騎士妖精の黒風こくふう君達も付いてきてくれる予定になっていたから問題ないかな?


 そんな事を考えていると、ケルちゃんが”わたしも行く!”というように「がう!」「がう!」「がう!」と近寄ってきた。

 ケルちゃんもいれば、さらに心強い。

 イメルダちゃんに「なら、ケルちゃんから離れないようにしてね」と言いつつ了承した。



 物作り妖精のおじいちゃん達をケルちゃんの背中に乗せ、イメルダちゃんをわたしとケルちゃんで挟む形にして結界から出る。

 イメルダちゃん、結界から出る時、少し緊張した顔をしていた。

 わたしも、結界から離れて無防備になった妹ちゃんに、ちょっと緊張する。

 まあ、ケルちゃん、近衛騎士妖精君達に加えて、近衛騎士妖精の白雪ちゃんも護衛してくれているから、よほどの事が無い限り、大丈夫だとは思うけどね。


 結界から出て、東に百メートルぐらい歩いた所に、大きな岩がある。


 その隙間から湧き水が出ていて、池と言うほどでは無いけれども、大きな水たまりが出来ていた。

 そこには、小さな昆虫とかがいたけど、魚とかはいない。

 ひょっとしたら、水が湧き出してさほどの年月も経っていないのかもしれない。

 ケルちゃんの背中から飛び降りた物作り妖精のおじいちゃん達が水が出ている場所を観察したり、我がの方を見ながら、話し合ったりしている。


 イメルダちゃんが声をかけてくる。

「思ったより近いけど、水量は多く無さそうね」

「うん、でも、土管で漏れを少なくすれば、当面は大丈夫じゃ無いかな?」

「そうね。

 でも、土管を通すにして、大丈夫かしら?

 魔獣とかに壊されたりしそうで、ちょっと怖いわ」

「ああ、確かに……。

 ここまで結界で覆うか、かな?

 巨大蜂さん達に相談する必要はあるけど――」

 近づいてくる気配を感じ、視線を向けると、いつもの兵隊蜂さんが飛んでくるのが見えた。

 

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