ケルちゃんの友達候補?

 わたしは取りなす様に言う。

「ほんとに、皆優しい子だって!

 赤ちゃんの相手も任せられるぐらいに!」

「……その赤ん坊、実は――」

「いやいや、普通の赤ちゃん!

 人間の普通の赤ちゃんだから!」

「そう願ってるがな」

「本当だって!」


 エリザベスちゃんは元気で可愛い妹ちゃんだ。

 まあ、シルク婦人さんに「歴代のお嬢様の中で一番」と困った顔をさせるほどのおてんばちゃんだけど、普通の子だからね!


 アーロンさんは手を横に振りながら言う。

「まあ、何にしてもだ!

 従魔のやらかしは、主人の責任になる。

 そのことをしっかり、覚えておくんだぞ!」

「大丈夫!

 皆良い子だから!

 それに、わたしがきちんと見ておくから!」

「……先ほど、そのスライムが立ち入り禁止の場所に入り込んでいたようだが?」

「それは……。

 ごめんなさい……」

 主人わたしルルリン自分の事で頭を下げているにも関わらず、白いぽよぽよルルリンは、気にするそぶりなど一切見せず、アーロンさんの仕事机の上に飛び乗り、興味深げにぽよんぽよん揺れるのだった。



 そこから、さらに注意事項が続き、巨大赤ムカデ君の報奨金を頂き、組合長の部屋を出た頃にはぐったりと疲れてしまった。

 受付嬢のハルベラさんが「組合長の小言が長いのも、それだけ魔獣は慎重に扱わなくてはならないからよ」など言って来る。

 まあ、そうだよね。

 それに、仮にルルリンやケルちゃんに悪意や害意が無くても、相手に怪我をさせてしまうって事もあるしね。

 ケルちゃんが最近毎朝やってくる飛びつきも、わたしだから平気だけど、仮にハルベラさんに対してやったら、下手をすると背骨が折れかねないし……。

 まあ、イメルダちゃんやシャーロットちゃんにしない所を見ると、相手を選んで入ると思うけど……。

 町に連れて行く前に、その辺りもしっかり注意した方が良いね。


 そんなことを考えていると、ハルベラさんが訊ねてくる。


「ねえ、他の三頭は何系の魔獣なの?」

「ん?

 ケルちゃんの事?

 何系? 犬系?」

「ケルちゃんって名前なの?

 犬系でケルちゃん……。

 ……ひょっとして、三頭を合わせた名前?」

「うん。

 レフちゃん、センちゃん、ライちゃん、合わせてケルちゃん」

 すると、ハルベラさんは「まあ! 勇ましそうね。ふふふ」っと言いながら笑い出した。


 ……やっぱり、ケルちゃんは安直すぎたか。

 でも、今更変えられないし。


 などと、恥ずかしい苦悩に悶えていると、ハルベラさんが言う。

「じゃあ、魔獣縛りの魔道具用の首輪を組合で請け負っているけど、どうする?

 基本、町中で外さないようにすれば良いだけだから、別に、他で作っても良いけど」

「ん~」

 物作り妖精のおじいちゃん達なら直ぐに作ってくれそうではある。

 ただ、間違いなく使えるだろう物をそれぞれ一つずつ買っておくのも悪くないかな?

「じゃあ、それもお願い」と伝えると「首回りはどれくらいかしら?」と訊ねてくる。

 もう、すっかり大きくなって、わたしの腕では収まらないんだよね。

「手を回したら、こんな感じになる」と朝、抱きつかれた時の感覚で腕を広げると、ハルベラさんは目を丸くした。

「ずいぶん大きいのね?

 三頭とも?」

「うん、皆同じ」

じゃれ付かれたら大変でしょう?」

「抱きつくだけで全身、もふもふになる」と答えたら、「それはちょっと羨ましいかも」と笑われた。

 メモ書きだろう、板に何やら書き込みながらハルベラさんは言う。

「あと、犬系の魔獣を従魔登録している人を紹介しようか?

 注意点とか聞けるし、犬達の良い交流にもなると思うけど」

「ああ、それはお願いしたい」

 おかしな事をして、アーロンさんに怒られたくない。

「じゃあ、ちょっと待ってて」

とハルベラさんは奥に下がっていった。



 上着を羽織ったハルベラさんに連れて行ってもらった場所は、冒険者組合から五分ほど歩いた馬小屋などが並ぶ場所だった。

 以前、アーロンさんと来た事がある。

 見覚えのある馬小屋の入り口から覗くと、冒険者組合が緊急用に用意しているという馬と共に、見知った焦げ茶の馬も並んでいた。


 アーロンさんの愛馬、クワイエットだ。


 わたしが「こんにちは」と手を振ると、厳つい系貴婦人なクワイエットは”あら、こんにちは”と言うように「ぶるる」と鳴いた。


 ハルベラさんの「町にいる時は、基本的に従魔をここで預けて欲しいの」という説明を聞きつつ、馬小屋の裏側に移動する。

 ちょっとした広場になっている場所があり、ハルベラさんが木の陰にあるベンチ、そこに座る男の人に声をかけた。

「エイダンさん、こんにちは。

 少し、よろしいですか?」

「ん?

 ああ、ハルベラさん、大丈夫だよ」

 振り向いた中年ぐらいのおじさんは、温厚そうな笑顔で迎えてくれた。

 狩人のような格好をしているけど、どちらかというと町の気の良い雑貨屋さんって雰囲気の人だ。

 ただ、その足下にいる犬の――その傷だらけの顔には前世のテレビか何かで見た、歴戦の闘犬土佐犬といった圧があった。

 体の大きさも前世の大型犬より一回り大きいだけなので、ひょっとすると、実際の土佐犬もこんな感じなのかもしれない。


 そんな事を考えていると、ハルベラさんが続ける。


「実はサリーこの子も魔獣を飼っていて、エイダンさんと同じく、従魔登録をする予定なんです。

 なので、出来ればエイダンさんから注意点などを教えてあげて欲しいんですが」

「ほうほう」

 目を優しくさせたエイダンさんがわたしに訊ねてくる。

「君の所の魔獣も、犬系なのかい?」

「うん、どちらかというと犬系かな?」

「そうなんだ」

と嬉しそうにエイダンさんは愛犬(?)の背を撫でる。

「おい、キズナシ!

 お前に友達が出来るかもしれないな!」

 エイダンさんにそう話しかけられた犬は、”どうだか”と言うように「ぐおう!」と鳴いた。

「キズナシ?」

 その子、傷跡きずあとだらけなんだけど? というニュアンスで訊ねると、エイダンさんは破顔する。

「ああ、こいつの名前だよ!

 娘がこいつの事を可愛がっていてな。

 我が家に来た時に、従魔として育てると話したら、怪我をしないようにという願いを込めて、”傷無し”という名を付けたんだが……。

 残念ながら、無茶ばかりをするので、名がたいを表していない有様なんだよ」

「ふ~ん」

 キズナシ君? の側でしゃがむと、その頭を撫でてあげた。

 きちんとお風呂にも入れて貰っているのか、ふさふさ、さらさらとなかなか良い撫で心地だ。

「凄いね、君!

 会って早々、こいつに触れられる女の子は、初めて見たよ」

 ハルベラさんも「わたしなんて、しばらく近づけなかったわよ」とか言っている。

「わたしはまあ、慣れてるからね」

 普通の女の子はともかく、フェンリルママに育てられたわたしから見ると、こんな一般サイズ(?)のワンちゃんなど、愛玩犬ぐらいにしか見えないからね。


 お?

 ゴロリと転がって、なんだ、お腹を撫でて欲しいの?

 甘えん坊さんめ!

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