え? 足りないの?
ドラゴンに類する存在かぁ~
あ、ひょっとすると、
存在するだけで、怖がって逃げたとすれば、
そんなことを考えつつ、「とにかく、しばらくは警戒をする。お前らもそのつもりでな」というアーロンさんの締めに頷くのだった。
思ったより早く終わった。
胸の中にいる近衛騎士妖精の
ちょうど良いので、昨日、町でやろうとしていたことを終わらせていこうと思う。
優先度的に、物作り妖精のおじいちゃん達が五月蠅いから、土管用の粘土や
でも、どこで買えばいいんだろう?
あぁ~組合長のアーロンさんに聞けば良かった!
別れたばかりで、少々恥ずかしいけど、冒険者組合に行こう。
仮にアーロンさんが出かけていても、受付嬢のハルベラさんなら知ってそうだし。
あとは、ヴェロニカお母さんの刺繍を木地屋さんに売りに行かないと
これも、忘れずにしないと。
そんなことを考えていると、さっきぶりの赤鷲の団のアナさんがニコニコしながら近づいてきた。
「ねえねえ、サリーちゃん!
王妃様のケーキ、食べたくなっちゃったんだけど、お菓子屋さんに行かない?」
王妃様のケーキか~
そういえば、別の物はともかく、”王妃様の”は冬ごもり前に食べたっきりだ。
久しぶりに食べたいなぁ。
「用事が終わったらで良ければ行く。
ライアンさん達は?」
すると、アナさんは不満そうな顔をする。
「なんか、ムカデ討伐完遂祝いとか言って飲みに行くらしいの。
こんな真っ昼間からよ。
わたし、そもそも、お酒の席とかあまり好きじゃ無いから、抜けて来ちゃった」
うわぁ~
わたしもその気持ちは分かるなぁ。
「しかも、成人前のサリーちゃんも呼ぼうとか言ってたのよ!
信じらんない!」
とか言ってるし。
いやいや、わたし、酔っ払った人たちと、正直一緒にいたくない。
「そうなんだ。
じゃあ、女子の部って事でお菓子屋さんでその完遂祝いをやろう!」
「ええ、そうしましょう!」
アナさんは嬉しそうに頷いた。
そして、「そういえば、用事って何なの?」と訊ねてくる。
なので、土管と刺繍の話をする。
アナさんは刺繍の話しに食いついてきた。
「ねえねえ、その刺繍ってどういうのなの?」
なので、ヴェロニカお母さんから預かった袋の中身を見せてあげる。
アナさん、目を見開いて口元に手を持って行き、声を上げる。
「これ、今噂になってる刺繍じゃない!」
「噂?」
「ええ、凄く素敵な刺繍だって!
商家の友達が持っていて、見せて貰ったことがあるわ。
その子の話だと、帝都に住む貴族のお嬢様の中にも、これを欲しがっている人がいるんだって!」
「へぇ~」
まあ、ヴェロニカお母さんの刺繍は本当に綺麗だから、そこまで不思議では無いかな?
「え!?
これ、サリーちゃんが刺繍をしたの?」
などと言われたので、「うちの集落に住む人」と訂正しておいた。
Web小説だったら、主人公が刺繍して、スゲーしてるかもしれないけど、わたしのような、前世、残念中学生女子には、そんな素敵スキルは持ち合わせていない。
美人なアナさんが袋を覗きながら「本当に綺麗ねぇ~」などとウットリしているのを見ると、つくづく、わたしは主人公じゃないなぁ~なんて思ってしまう。
「何だったら、一枚上げようか?」
「え!?
いいの!?」
「う、うん」
凄い勢いで顔をこちらに向けてきたので、ちょっと怖い!
「いつもお世話になっているしね」
といいつつ、アナさんから袋を受け取ると、一枚取りだし渡す。
「え!?
でも、問い合わせが凄くって……。
せめてお金を!」
などと受け取りつつも、あたふたするアナさんにニッコリ微笑む。
「いいのいいの、気にしないで」
と答えておく。
一枚分の金額はわたしが足しておけば良いしね。
「も、問題になるんじゃないの?」
問題って……。
素敵な刺繍だけど、ハンカチ一枚でオーバーな。
「大丈夫大丈夫!」って笑って答えると、アニメなら画面いっぱいに花が咲き誇りそうな笑顔で「ありがとう! 凄く嬉しい!」と言ってくれた。
……いや、そういう笑顔は男の子主人公とは言わないまでも、
――
あれこれあった後、お菓子屋さんにたどり着いたわたしとアナさんは、席に着くと、気まずい感じに顔を見合わせた。
「あれ……。
良かったのかしら……」
「大丈夫!
わたしそんな約束してないし!
……命は取られない――と思うし」
あれから、アナさんに付き合って貰い、冒険者組合に向かった。
入り口から入ろうとすると、ちょうど出かけようとする、組合長のアーロンさんに会った。
「どうした?」と訊ねてくるアーロンさんに土管を作るための粘土や釉薬が欲しいとの話をすると、「土管作りとはまた変わったことをするな」と苦笑されつつも、知己の陶芸師さんという人を紹介して貰える事になった。
場所は、アナさんが分かるとのことで、そちらに向かうことにした。
「念のために、冒険者組合で購入するという形にしろ。
アナが付いて行くなら、違和感も無いだろう」
と話すアーロンさんにお礼を言いつつ、陶芸屋さんに向かった。
陶芸屋さんではアーロンさんの名前を出したことも有り、すんなり話は進んだ。
ただ、水道を通すあらかたの長さを伝えると、それだけの土管を作るだけの粘土の量は、現在の在庫では厳しいとの事で、幾らか売って貰い、残りは複数回に分けて購入することになった。
まあ、そこまでは問題なかった。
ただ、木地屋さんに行った時、騒動に巻き込まれた。
木地屋さんに入ると、木地屋の店長さんはなにやらほっとした笑顔をこちらに向けてきた。
そして、木地屋の店長さんは受け取った袋からハンカチを丁寧に取り出しつつもニコニコ顔で「いやぁ~お嬢様方にせっつかれて大変だったよぉ~」などと言っていた。
ただ、最後の一枚をカウンターに置いた辺りで顔を青ざめだした。
そして、袋をひっくり返したり、枚数を数え直したりしている。
「どうしたの?」と訊ねると、引きつった笑顔で「あ、あの、一枚足り無くない?」と訊ねてきた。
「え?
でも、枚数の指定なんてしてなかったよね?」
そもそも、今までだって出来た分だけ売るって話しになっていたはずだ。
にもかかわらず、店長さんは焦ったように言う。
「だだだだって、いつも、几帳面なほど端数が無い数を持ってきて……。
しかも、ここ最近は毎回、三十枚ずつだったじゃないか!」
「え?
いや、その辺りは知らないけど……」
などとやっていると、店のドアがバン! と開き何人ものご令嬢っぽい華やかな服装の女の子とその従者らしき人たちが入ってきた。
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