いや、てへ! じゃないでしょう!
やっと、仲裁を終えて、屋根裏から降り、台所に向かう。
シルク婦人さんから「遅い」と怒られたので謝りつつ、籠と壺を受け取り飼育小屋に向かう。
当然というか、肩にはスライムのルルリンと妖精メイドのサクラちゃんを乗せている。
いや、朝から本当に疲れた。
なんとか、領土(?)問題を解決させた。
最後まで不満そうだったルルリンが、妖精ちゃん達の絨毯を指しながらポヨポヨ揺れるので、「はいはい、手芸妖精のおばあちゃんに作って貰えるように頼んであげるから」と
さらに、家具を指すルルリンにうっかり「ルルリンは家具なんか使わないでしょう?」と言ってしまい、凄く怒られたりもした。
そんなやり取りをしていると、いつの間にかメイド服に着替えていた、妖精メイドのウメちゃんにジェスチャーで、”訪問するならちゃんと先触れを出して”と怒られたりもした。
わたしが「いや、ここの場所をこんな風に使ってるの知らなかったし」と答えると、何故か不思議そうな顔をされる。
身振り手振りで言うには、なんでも、妖精姫ちゃんにその話はしてあって、わたしには彼女から話が行っているはずだとの事だった。
……つまり、妖精姫ちゃんが全て悪いって事ね。
朝っぱらから、散々、怒られっぱなしだけど、今度はわたしが怒る番って事になりそうだ。
飼育小屋で相変わらず突っかかってきたひよこ君をあしらいつつ、卵と乳を頂く。
乳を入れた壺を持ち上げると、山羊さんがわたしのお尻に頭をぶつけて来た。
ん?
何?
あ、外ね。
はいはい、今はケルちゃんが外にいるから、交代でね。
分かったから、お尻に顔をこすりつけない!
台所に戻り、シルク婦人さんに卵と乳を渡す。
寝間着から着替えたイメルダちゃんが近寄ってきた。
「ねえ、なんか天井の方で物音が聞こえてきたんだけど、何かしら?」
ああ、わたしが上った音が聞こえちゃったのね。
天井での話を伝えると、イメルダちゃんは目を丸くしながら見上げる。
「そんな狭い所にいなくても、下で過ごせば良いんじゃないの?」
「屋根裏と言っても、小柄な妖精ちゃん達には広々としているし、わたし達の目も無いから、気楽なんじゃない?」
「ああ、なるほどね」
納得が行ったというように、イメルダちゃんは頷く。
そんな事を話していると、妖精姫ちゃんがお供の妖精ちゃんと共に飛んできた。
そして、テーブルの上にあるミニテーブルに座る。
わたしはそこに近づき、仁王立ちになりながら言う。
「ちょっと、姫ちゃん!
屋根裏を妖精ちゃん達の控え室にするなんて、聞いてないんだけど?」
目をぱちくりした妖精姫ちゃんが、”あ!”っと言うようにばつの悪い顔をする。
だが、それも一瞬の事で、”ごめん、忘れてた! てへ!”とでも言うように、にっこり微笑んだ。
可愛い!
……可愛いけど。
罰として、両頬をビヨンと引っ張り、面白い顔にした。
――
朝ご飯を食べながら、イメルダちゃんが言う。
「泊まりでの遠征がいつぐらいになるか、正確な日にちをちゃんと聞いてきてね」
「うん」
昨日の晩に、冒険者組合の泊まりがけになるお仕事について、説明をすると、イメルダちゃんはあっさり許可をくれた。
まあ、一日だけだし、町や村のためなら仕方が無いとのことだった。
ただ、いつに出発かを聞いてこなかった事に関しては、少しお叱りを頂いた。
仮にまだ確定してなさそうでも、目処ぐらいは立っているはずなので、確認ぐらいはすべきとの事だった。
確かにその通りだ。
反省する。
あと、厳格な我が宰相様には、小白鳥のヘルミさん関連の話はしていない。
なんとなく、『そんなくだらない話に、なんで巻き込まれなくてはならないの!?』とか怒りそうだから。
町や村のため――うん、嘘じゃないし、それで良し!
視線を感じ、そちらを向くと、シャーロットちゃんが悲しそうにこちらを見ていた。
声こそ上げなかったけど、シャーロットちゃんとしては、一晩であってもわたしがいないのは嫌らしい。
「帰ってきたら、とんかつを沢山作ってあげるからね」
と声をかけると、力ないながらもニッコリしながら、「うん!」と頷いてくれた。
いっぱい作ってあげなくちゃ!
そんな決意をしていると、ヴェロニカお母さんが言う。
「シャーロット、お母様と一緒に良い子でお留守番していましょうね。
そうしたら、サリーお姉様は、とんかつだけでなく、”甘いお菓子”も作ってくれるはずよ!」
いや、甘いお菓子はあなたの願望でしょう!
でも、少し元気が良くなったシャーロットちゃんが「うん!」と力一杯答えているから、否定する事も約束(?)を
汚い大人め!
少し、睨んだけど、
くそぉ~悔しい!
――
ケルちゃんを家の中に入れて、山羊さん達を外に出す。
メーメー喜んでいる山羊さん夫婦を眺めていると、近衛兵士妖精君達が飛んでくる。
え?
しばらく遊ばせたら、飼育小屋に入れてくれる?
助かる!
近衛兵士妖精君達の好意に甘えつつ、町に向かう準備をする。
一緒に行きたがるケルちゃんを宥めつつ、外に出ようとすると、ヴェロニカお母さんから呼び止められる。
「サリーちゃん、刺繍したのを町で売ってきてくれる?」
食糧問題も有り、控えていたけど、ある程度それも落ち着いてきたから、そろそろ購入してくれるのではないか? との事だった。
「うん、大丈夫だよ」
と言いつつ、袋を受け取る。
結構、大きい?
「何枚、入ってるの?」
「三十枚ぐらいあるわよ。
三種類を十枚ずつ。
売れ行きの良いのを教えて貰って来て欲しいわ」
なるほど、ニーズを把握しようとしているのか。
なかなか、商売人っぽい事をする。
「分かった」
と言いつつ、背負っていた籠に袋を入れる。
そして、皆に「行ってきまぁ~す!」と手を振り、玄関から出た。
スキーを滑らせ、森を進み、途中の川を飛び越え、平原に出る。
白狼君達が近寄ってきたので、ボス君ともう一頭に白いモクモクを絡めたら、彼らは加速する。
それらに引っ張られながら、先を進む。
白大ネズミ君や巨象さんなどを警戒したけど、今日は見当たらない。
もう、別の場所に移動したのかな?
そんな事を考えていると、遠くから集団で駆ける音が聞こえてきた。
白大ネズミ君かな? と視線を向ける。
全身白い毛皮の集団――ではなく、胸元は白いけど、他の部分はくすんだ茶色の集団だった。
鹿?
いや、トナカイかな?
三百メートルほど先にいる何百頭もの集団は、わたし達の前を横断するように駆けていた。
お!?
わたしを引っ張る力が強くなり、ぐんぐん加速していく。
白狼君達が、どうやら獲物と認識したらしい。
……いや、あれぐらい、自分たちで狩りなよ。
多分魔獣なんだろうけど、サイズ的には、前世のトナカイより一回りぐらい大きいだけだよ?
そんな呆れた感じに、白い毛の背中を眺めていたのだが、不意に、前方から、嫌な気配を感じる。
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