猿さん討伐についての話し合い2

 二泊三日は……。

 やっぱり、お断りしたいな。

 主に、わたしの精神衛生上ではあるけど、妹ちゃん達が心配で夜も眠れそうにないや。

 ただなぁ~


 チラリとアーロンさんに視線を向ける。


 食糧問題が収まったにも関わらず、おじいちゃんな組合長さんの顔はやつれて見える。

 まあ、収まったとはいえ、やる事はいっぱいあるんだろうなぁ。

 その中で、討伐隊に参加する……。

 これ、ブラックすぎて、下手すると異世界転生してしまうんじゃなかろうか?


 世界観無視して、トラック(居眠りしてる運転手さん付き)にかれてしまう案件では無かろうか?

 それでいて、小白鳥の敵愾心ヘイトがアーロンさんに向くとか……。

 報われない話だ。

 それを、わたしがただ、村に行けば万事解決する。

 う~ん……。

 わたしは訊ねてみる。

「一泊ぐらいにならないかな?」

「一泊か……。

 とりあえず、討伐の予定なんだが、こんな感じだ。


・早朝に出発して、夕方到着する。

・その後、準備等を行い就寝する。

・翌朝、討伐へ向かい、順調にいけば昼中に完了する。

・素材や肉などを回収後、村に戻り就寝する。

・翌日、組合に戻る。


 そうだな……。

 ……途中で合流する形にすれば……。

 例えば、男達が討伐に向かう前後に、お前は村に到着すれば良いかもしれない。

 討伐に直接参加しない、回復役ならそれで問題ないだろう。

 仮に到着が遅れても、お前を守るためという建前を全面に押し出せば、あいつらも村から離れる選択はできんだろうしな」

 なるほど、討伐から帰ってきた人たちを治療し、一泊する。

 その後、皆と帰るのがわたしの予定か……。

 それなら、なんとかなるかな?

「予想外の事態――例えば、討伐できなかった場合はどうなるの?」

「その時は、規定に従いこの町セルサリに撤退する。

 村にも害があると判断されれば、村人も含めて、この町に避難する。

 元々、冬の期間は地獄ネズミ対策として、この町周辺の村人は全員、町に避難するように厳命されていたんだ。

 ただ、出来れば村から離れたくないという村人からの嘆願が領主様に届き、地獄ネズミ対策を行った場所に限り、村に残る事を許可されたんだ。

 なので、帰りそびれる事はほぼ無い」

「へ~」

 なんか、イメージ的に領主って、村の嘆願とか無視しそうな感じがするんだけど……。

 きっと、この町の領主様は優しい人なんだろうなぁ。

 ……あ、今のでは無く、昔の領主様の事だろうけど。

「家の皆に聞いてからになるけど、一泊で良いなら、参加する」

と答えると、アーロンさんは少しほっとした顔で「そうしてもらえると助かる」と答えた。

 そして、元々、最終日にはアーロンさんも様子見がてら村に顔を出す予定だったとの事で、イレギュラー的な事があっても、最悪、一人だけ離脱も大丈夫との事だった。


 いや、一人だけ離脱は心情的にも無理なので、出来れば問題なく終わって欲しい。


 忙しいのに大丈夫? という意味を込めて「様子を見るためだけに片道半日もかけるの?」と訊ねたら、一人で馬を走らせるから、半日もかからないと言われた。

 因みに半日というのは、雪の中、荷物を馬そりに乗せつつ徒歩で行った場合の事らしい。

「わしの馬は雪深い中でも、駆ける事が出来るんだ!」

 などと、自慢げに話す組合長的おじいさん、微笑ましい。

 それはともかく、ひょっとしたら、わたしだけ単独で向かえば、かなり早くたどり着けるのではなかろうか?

 思ったより、大変な仕事では無いかもしれない。


 あとは……。

 そうそう、白大ネズミ君――この町で言う地獄ネズミについて話さなくては。


 わたしは先ほどであった、巨象さんの事をアーロンさんに話した。

 アーロンさんは初め、驚いていたが、徐々に深刻そうな顔をし始めた。

 そして、「少し待ってろ」と言って席を立ち、本棚に向かった。


 戻ってくると、来客用の長椅子の前にあるテーブルに一冊の古びた本を置いた。

 分厚い羊皮紙で出来てるだろう、それを、椅子に座り直したアーロンさんがめくる。

 目当ての物が見つかったのか、わたしに合わせるよう、本の向きをくるりと変えた。

「お前の言う巨象さんとはこれの事か?」

 のぞき込んでみると、絵とそれの紹介文らしき物が書かれている。

 文章は――まだまだ、覚え中なので良く読み取れないが、絵は分かる。

「うん、多分これが巨象さんだよ」

「そうか……」

 アーロンさんは眉根を寄せながら渋い顔になる。

「生きる災害と呼ばれる超特級の魔獣――巨大魔象まぞう……。

 伝説の魔獣と呼ばれていたんだが……」

「結構直ぐ側に居たよ」

「あぁ~!」

とおじいさん組合長さんは頭を抱えてしまった。

「いや、あれ、多分毎年、白大ネズミ君を食べに来てたと思うよ?

 わざわざ、白大ネズミ君彼らを呼び寄せる為の魔鳥を捕まえてたぐらいだし」

「そうだな……。

 お前の話を聞く限り、そうだな……」

「今まで、誰も気づかなかったの?」

「……いや、噂話程度にはあったんだ。

 山のような巨大な魔獣がいるとかな。

 だが、大方、毛長魔象けながまぞう辺りの事を大げさに言っているのだろうと」

 毛長魔象けながまぞう――マンモス君の事か。

 わたしも何回か倒した事がある。

 前世の象さんを一回りぐらい大きくしたぐらいの、そのままマンモスな彼らは大きいと言えば大きい。

「あれ、山と言うには小さいとはいえ、毛長魔象けながまぞうを実際に足で潰せる大きさなんだけど……。

 なんで、今までその存在がふわっとしてるの?」

「地獄ネズミのせいだろうな……。

 奴らがいる限り、普通の人間は町から出ん」

「なるほど、確かに」


 だとすると、この話もしなくてはならないか。


 白大ネズミ君を全滅させた場合、町が襲われる可能性について、説明した。

 話を聞いたアーロンさん、顔を青くしながら頷く。

「サリーの懸念、無いとは言い切れん。

 お前が一万匹倒した場合、他の地獄ネズミが別の場所に逃げる可能性だってあっただろう。

 そうなった時に、飢えた巨大魔象まぞうがここに来る――あり得る話だ!」

 アーロンさんは真剣な顔で頷くと、続ける。

「この話は、後世に残せるよう記録しておこう。

 まかり間違って、地獄ネズミを駆逐できてしまうと大変な事になるからな。

 サリー、教えてくれてありがとうな!」

「うん」

 そんな風にお礼を言われると、ちょっと気恥ずかしい。

 あ、そうなると……。

 白大猿君を全滅させても不味いのかな?

 そのことを訊ねると、アーロンさんは少し考え込む。

「その可能性も無くは無いが……。

 白大猿がいる森やその近辺は、人類未到と言われている”帰れぬの森”の深部からその先に比べると、それなりに把握はされている。

 巨大魔象まぞうほどの超特級の魔獣は居ないとは思う。

 それに、そもそも、サリーお前が討伐に参加するならともかく、現時点の冒険者達では、情けない話ではあるが根絶やしにする事は無理だ」


 まあ、それなら大丈夫かな?


 それと、一応って感じに「”帰れぬの森”って、わたしが住んでる所だよね。別に未踏でも何でも無いんだけど」と言っておくと、アーロンさんは苦笑しながら「そうだったな」と答えた。

 そして、「少し落ち着いたら、どうなっているのか教えてくれ」と頼まれる。

 まあ、それぐらいは良いけどね。

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