ワインを作ろう!2

 テュテュお姉さんは、タライのそばを飛んでいる妖精ちゃんにも指示する。

「ええっと、妖精? さん達は、育った葡萄を一粒ずつ取って、タライに入れて。

 あ、果皮かひや種は取る必要は無いから」

 妖精ちゃん達は、了解とばかりに飛び回る。

 その数、三十人ぐらい、だから空間をちょっと圧迫している。

 そんなにお酒が好きなのかな?

 甘いものとは対比に位置してるんだけど……。

 そういえば、消毒用に買ったお酒には反応しなかったから、果実酒かじつしゅが好きって事かな?

 そんな、考察していると、妖精ちゃん達は早くしろとばかりに腕とか、肩とか突っついてくる。

 はいはい、分かりました。


 植物育成マラソン、頑張りますか。

 葡萄の木に育てぇ~をする。

 ニョキニョキ育っていく葡萄を、妖精ちゃん達がもぎ、粒だけを入れていく。

 一巡したら、再度、植物育成魔法を使う。



 ……何十回繰り返したか、ようやくテュテュお姉さんからのストップがかかった。

 休憩や夕飯を挟みつつだったけど、見通しが甘かったらしく、結構疲れた。

 わたしの魔力総量でいえば、三分の二ぐらい使ったかな?

 一応、もう少し出来そうだけど、テュテュお姉さんから「続きは明日にしましょう」と言われる。

 まあ、わたしとしても特に急ぎでは無いので、それに頷いた。

 妖精ちゃん達の何人かや、物作り妖精のおじいちゃん達は残念そうに、葡萄が詰まったタライを覗いていたけど、「また明日ね」と言ってあげると、頷いていた。

 ヴェロニカお母さんから「無理してない? 大丈夫?」と心配そうに声をかけられたけど、前回の大麦の時を比べるまでもなく、全然問題ない。

 それに、今回はテュテュお姉さんが見てくれているから、よほどのことが無い限り大丈夫だ。

 白いモクモクを出して見せて「問題ないよ」と安心させた。


 しかし、ワインかぁ~


 当然、前世でも今世でも飲んだことも、料理に使った事も無い。

 まあ、シルク婦人さんがいれば問題ないだろうけど……。

 わたしとしても、何か作ってみたい。

 ステーキを焼いている時にぶっかけると美味しくなるんだっけ?

 イメージとしてだから、違うかもだけど。

 あとは、ビーフシチュー?

 Web小説に出てきたけど、どうやって作るんだっけ?

 作るどころか、食べた記憶も無いからよく分からない。

 ……いや待て、まずはワイン酢を使うことを考えるべきか?

 ドレッシングは鉄板として、後は……。

 しゃぶしゃぶで使うポン酢の代わりにしてみるとか……。


 悩ましいなぁ。


 そんなことを考えつつ、寝間着姿で寝室のベッドに入る。

 少し後、エルフのテュテュお姉さんも入ってくる。

 この家、寝室もベッドも一つしか無い事を考えると、元々、わたしとテュテュお姉さんの二人で寝ても問題が無いサイズで作られていたのだと思う。

 特に狭くは感じない。

「吹雪、まだまだ収まらないわね」 テュテュお姉さんが呟くように言う。

 壁の向こうからは、どうやら朝より強くなっただろう風が、遠吠えのような音を響かせている。

「止むまで居ればいいんじゃない?

 それとも、急ぐようでもあるの?」

「そう急ぐ用は無いけど、ね」

 そう言いながら、わたしの頭を撫でてくれる。

 とても優しくて、とても気持ちが良い。

「冬が開けるまで、居てもいいと思うけど……」

「流石に駄目よ。

 これは試験なんでしょう?」

「うん……」

 別に、試験なんてしなくて良いと思う。

 なんて言うと、ママはきっと怒るだろうなぁ。

 そんな事を考えていると、眠気がゆっくりと訪れてきた。


――


 朝、起きた!

 むくりと起きる。

 テュテュお姉さんが既に着替え、部屋から出るところだった。

 体を起こしたわたしに気づいたのか、こちらに振り向くと「おはよう」と微笑んでくれた。

「うん、おはよう」

とわたしも笑顔で返す。


 やっぱり、嬉しい!


 わたしも着替えると部屋を出る。

 顔を洗ったり等、身支度をしていると、天井に気配を感じる。

 ん?

 視線を向けると、スライムのルルリンが降ってきた。

 いつもはビヨ~ンと体を伸ばしつつ、丁寧に(?)降りてくるのに、なんだか雑な感じに見える。

 しかも、わたしの右肩に着地した、ルルリン、どことなく不機嫌そうにビヨンビヨンと揺れている。


 え?

 どうしたの?

 え?

 気にしなくて良い?

 いや、気になるよ?


 でも、言葉が通じない現状、聞き出す事も出来ず、後から飛んできた妖精メイドのサクラちゃんを左肩に乗せて、飼育小屋に向かう。


 こちらでは山羊さんが不機嫌そうにうろちょろしていて、パートナーの山羊君を時々、頭で小突き、怖がらせていた。

 山羊さんがイライラしている理由は、恐らくまたしても吹雪になって外に出られないからだろう。

「ほらほら、山羊君を虐めない!

 吹雪が止んだら外に出してあげるから」

と背中をポンポン叩いてあげると、”きっとよ!”と言うようにめぇ~! と鳴いた。

 はいはい、分かりました。

 え?

 大麦もっと?

 我が儘だなぁ~

 仕方が無いから、餌箱に大麦を多めに入れてあげる。

 すると、赤鶏のひよこ(推定オス)がわたしの足を突っつき出す。

 はいはい、あなた達も大麦が良いのね。

 そちらにも、多めに入れてあげて――ああ、無くなっちゃった。

 町にほとんど持って行ったので、いくらか育て足しておいたんだけど、菜の種がメインだったからなぁ。

 また育てないと。

 そんな事を思いつつ、卵と山羊乳を頂き、中央の部屋食堂に戻る。


 中央の部屋食堂のテーブルではエルフのテュテュお姉さんが席に座り、エリザベスちゃんを嬉しそうに抱っこしている所だった。

 その隣の席では、ヴェロニカお母さんがニコニコしている。

 エリザベスちゃんは美人なテュテュお姉さんの顔を触りながら、何やら楽しそう。

 そんな様子を横目で見つつ、卵とかをシルク婦人さんに渡し、籠を受け取ると、食料庫に向かう。

 その途中、テュテュお姉さんの腕の中にいるエリザベスちゃんのっぺたを「おりゃ」と指で軽く突っつく。

 何やら嬉しそうに笑う、エリザベスちゃん、柔らか可愛らしかった!


 食料庫に行く前に、植物育成室の様子をちらっと見る。

 物作り妖精のおじいちゃん達がタライの縁から中を覗きながら、何やら楽しげにお喋りをしていた。


 そんなにお酒が好きなのかな?

 ……酔っ払ったりするかな?


 大木で飲むように注意した方が良いかも。

 そんな事を考えつつ、食料庫に行き、食材を籠に入れて行く。

 その間、肩にいる機嫌が悪そうなスライムのルルリンに訊ねる。

「ルルリン、今朝は何が食べたい?」

 途端、スライムのルルリンは体の一部を触手っぽく伸ばす。

 果物の上を色々と悩んでいるらしく、彷徨わせていたが、ラズベリーのドライフルーツを指した。

 そういえば、一番最初もラズベリーだったなぁ。

 なんて思いつつ、いくらか手に取って食べさせてあげる。

 嬉しそうに取り込むルルリン、可愛い!

 え?

 魔力も?

 魔力はテュテュお姉さんから止められてるから……。

 え?

 ちょこっとだけ?

 もう、ちょこっとだけだよ。

 少しだけ、魔力を渡してあげる。

 まあ、他のスライムに上げなければ大丈夫だよね!

 ルルリンの白ゼリーな体を撫でつつ、中央の部屋食堂に戻った。


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