エルフのお姉さんとのんびり冬籠もり!2

 飼育所に向かいながら、テュテュお姉さんが「吹雪が強くなったわね」と言う。

 確かに、家の外から聞こえる風の音には力があった。

 昨日のことを考えると、雪も強くなっていることだろう。

 ここ最近、元気よく飛びついてきていたケルちゃんだったが、外に出れないことが分かっているからか、悲しげに近づいてきて、三首して、わたしの腰やお腹に頬ずりをしてくる。

「雪が止んだら、外に出して上げるから」

と手近にいたレフちゃんを撫でて上げると、何故か不満そうに吠える。

 え?

 順番?

 めんどくさい子だなぁ~

「ところで、ケルちゃんは分かるんだけど、何故、レフちゃん、センちゃん、ライちゃんなの?」

とテュテュお姉さんが訊ねてくる。

「ん?

 えっと、左、中央、右って事で……」

と答える。

 いや、でもこれ前世の英語から取っているから、分からないかも。

 そんな風に思っていると、テュテュお姉さんは納得がいったというように頷いた。

「ああ、魔術語ね。

 レフト、センター、ライトか。

 なかなか、面白い名付けね」

「うん……」と頷きつつ思う。


 やっぱり、魔術で使う言葉って、英語なんだ。


 魔術を習いながら、ちょくちょく聞き覚えのある単語が出て来たんだよね。

 気のせいかなぁって思ったけど……。

 ひょっとすると、魔術の作成に、わたしと同じ転生者が関わっているのかもしれない。

 ……いや、単に似ているだけかな?

 正直、わたしはさほど勉強が出来なかったし、何となく、英語も苦手だったと思う。

 さらに、日本語すら曖昧な前世の記憶では、英語だって本当に合っているのか分からない。


 う~ん、まあ、いいか。

 どうでもいいことだよね。


 そんなことを考えている間に、テュテュお姉さんがケルちゃんにハグをしていた。

 ん?

 わたしと違って、嬉しそうに受け入れている。

 テュテュお姉さんがニッコリ微笑みながら「ライちゃんから抱きしめて上げると嬉しいみたいね」と言っている。

 何となく、”その通り!”と言うように、ケルちゃんが「がう!」「がう!」「がう!」と吠えた。


 そうなんだよねぇ。

 何故か、ライちゃんからの方が喜ぶんだよねぇ。


 だけど、毎回、近くにいる子からハグをしてしまうんだよね。

「はいはい、分かった分かった」

と言いつつ、頭を撫でて上げる。

 あ、この子はセンちゃんだった。

 とたん、三首して怒り出す。

「ゴメンってばぁ!」

と言いつつ、逃げるように飼育所に向かった。


 我が家の飼育所はエルフのテュテュお姉さんにとっては面白い物らしく、赤鶏さんの卵を見て「こんなに大きな鶏の卵、初めてみたわ!」と喜んだり、スライムのルルリンの指示の元、掃除するスライム君達を見ながら「ここまで統率が取れるのね」と興味深げにしたり、山羊さんの乳を見て「ここまで上質な山羊にゅうはなかなかお目にかかれないわよ」と嬉しそうにしていた。


 卵と乳をシルク婦人さんに渡した後、食料庫に向かい、戻ってきてから、スライムのルルリンに果物を上げる。


 今日は育てたばかりの葡萄だ。


 テュテュお姉さんは黒葡萄とか言ってた。

 前世で食べた巨峰と同じかなと、ママの洞窟にいる時に食べたけど、なんか皮が厚くてちょっと食べづらかった覚えがある。

 ただ、味は甘くて美味しかったから、どうかな? と思いルルリンに食べさせてみた。

 どうやら、ルルリンも気に入ったらしく、プルプル震えながらお代わりを催促してきた。


 ふふふ、いつもお世話になっているからね、たくさんお食べ。


 三房ほど食べさせたら満足したらしく、天井にピヨンと延びてくっつき、屋根裏へと帰っていった。

 テュテュお姉さんが「スライムなのに、良い物を食べてるわね」と苦笑していた。



 台所に戻ってから、パンを作り始めると、テュテュお姉さんが嬉しそうに「久しぶりにサリーのパンが食べられるのね」と言う。

 お兄ちゃん達に不評だったパンだけど、テュテュお姉さんは結構気に入っているらしく、わたしが作らなくなったことを残念がっていた。

「さらに美味しくなっているから、楽しみにしていてね!」

と答えると、「ええ、期待しているわ!」と咲き乱れる花のような可憐な笑みを浮かべる。


 テュテュお姉さんも流石はエルフさんってぐらい、美人さんなんだよね。


 前世、女子中学生なわたしでも、ドキリとするのだから、転生系男子高校生だったら、ぶっ倒れてそう!

 などと、しょうもない事を考えつつ、パンを作り終え、テーブルの上で白いモクモクパン切りナイフで切り分けていく。

 いつものように、パンの端の部分のミミをわたしの分として取っておくと、テュテュお姉さんがそれを指さし言う。

「ねえねえ、サリー。

 わたし、その部分が欲しいんだけど」

「え!?

 これは余りの部分だから、わたしが片づけるよ」

「えぇ~

 そこ、香ばしくて美味しいじゃない」

 実はわたし、密かにこの部分が好きで独占していたのだ。

 だから、そういうこと言われると、困る!

「そ、そんなことないよ!

 パン屋さんだって、破棄する部分だから!」

と答えるも、テュテュお姉さんにひょいっと一枚、取られてしまう。

 あぁ~!

 しかも、それをぱくりと食べたテュテュお姉さんがニコニコしながら、「美味しいわよ」と言うものだから、皆の注目を集めてしまう。

「サリーさん、勿体ないからとか言いながら食べていたけど……。

 美味しいのね……」

「サリーお姉さま、ずるい!」

「わたくしも食べてみたいわ」

とジト目のイメルダちゃん、頬を膨らませたシャーロットちゃん、面白そうな顔のヴェロニカお母さんに見つめられて、残りの一枚を献上せざる得なくなった。

 毎日の密かな楽しみだったのにぃ~!


 朝ご飯を食べ終えて、白いモクモクで洗濯をする。

 パンのミミに関しては、皆がそれなりに美味しいと言っていたが、ヴェロニカお母さんとイメルダちゃんは毎回必要というわけではないとのことだったので、わたしとシャーロットちゃんで楽しむことに。


 まあ、しょうがないかな……。


 洗濯を終えた物を、ゴロゴロルームに持ち込み、畳む。

 シャーロットちゃんがお手伝いを買って出てくれたのでお願いする。


 一生懸命、洗濯物を畳む妹ちゃん、可愛い!


 洗濯物をそれぞれの場所に置き、中央の部屋食堂に戻る。

 テーブルでなにやら書き物をするイメルダちゃんと、ヴェロニカお母さんとテュテュお姉さんがお茶を飲んでいる姿が見えた。


 何というか、テュテュお姉さんがいるのが嬉しい!


 座っているお姉さんの後ろから抱きつくと、テュテュお姉さんは「何? どうしたの?」と少しくすぐったそうにする。

「何でもないけどぉ~」とテュテュお姉さんの匂いを胸一杯に吸い込む。

 なんだか、落ち着くなぁ~なんて思っていると、シャーロットちゃんの声が聞こえてくる。

「サリーお姉さまが、甘えん坊になってる」

 うっ!

 視線を向けると、びっくりした顔の妹ちゃんがいた。

 イメルダちゃんも何ともいえない顔をしている。


 しまった!

 ママの洞窟では末っ子だったけど、ここでは、わたしはお姉様だった!


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