エルフさんの種ガチャ?
旅の話で盛り上がっていると、シルク婦人さんがヴェロニカお母さんに近づき、何かを耳打ちした。
それに頷いたヴェロニカお母さんはわたしに視線を向ける。
「シルク婦人がお夕食をどうするか訊ねているわ。
テュテュさんは何か食べたい物や食べられない物はあるかしら?」
「う~ん、そうね。
食べられない物は特にないけど……」
とエルフのテュテュお姉さんは少し考える様子を見せる。
そして、わたしに視線を向け、ニッコリ微笑む。
「わたし、サリーが前に作ってくれた”しゃぶしゃぶ”だったっけ?
あれが食べたいわ!」
「あぁ~あれね……。
でも、ポン酢の材料――レモンと酢が無いから無理かなぁ」
「あぁ~
そうね、酢はともかく、レモンはこの地域にはないものね」
エルフのテュテュお姉さんは残念そうにする。
ママの洞窟には、以前、テュテュお姉さんが南東の国から持ってきてくれたレモンの種がある。
なので、レモンが使い放題ではあるんだけど……。
ここにはそれが無いのだ。
さらに言えば、ここら辺の気候的にレモンは生産できないとのことで、残念ながら農家から仕入れるという手も使えない。
蟻さんなら持ってきてくれるかなぁ?
ただ、蟻さんガチャはランダムだから、当てるのは難しそうだけど。
「ねえねえ、サリーお姉さま!
”しゃぶしゃぶ”ってな~に?」
「ん?
ああ、牛系の魔獣肉を薄切りにして、それをお湯の中をしゃぶしゃぶと通し、ポン酢っていうタレに付けて食べる料理なの」
前世では食べた記憶のない物だから、ひょっとしたら似て非なるものかもしれないけど。
そもそも、ポン酢ではなく、しょうゆを足したポン酢しょうゆを使用していたはずだし。
あとは、
どちらにしても、
ただまあ、ポン酢だけでも、結構あっさりとしていて、がっつり系のお肉が続いた後とかに作って食べていた。
これに関しては、ママやケリーお姉ちゃん、そして、エルフのテュテュお姉さんからの評判がすこぶる良かったんだよね~
う~ん、思い出すと、なんだかわたしも食べたくなっちゃった。
さらには、肉食系女子(意味違い)たるシャーロットちゃんも「シャーロットも食べてみたい!」とか言い出してしまった。
「ごめんね、材料がないの……」
と謝ると、ショックを受けた顔で「そうなの?」と言っている。
オレンジで代用……いや、流石に無理かな?
「うん、無理なの」と答えると「そうなんだぁ~」とうなだれてしまった。
ごめんね!
「別のお肉料理を作ってあげるから!」と励ますと顔を上げたシャーロットちゃん「うん!」とニッコリ微笑んでくれた!
可愛い!
とりあえず、メイン料理はわたしが作る事になった。
残りはシルク婦人さんに、テュテュお姉さんが好きな石ころキノコ――子豚キノコとも言うんだっけ、それを中心にした料理を作って貰うこととなった。
メイン料理――まあ、お肉料理を一品つくれば良いんだろうけど……。
いまいちピンと来る料理が思いつかない。
なので、食料庫に入り、食材を眺めながら考えることにする。
エルフのテュテュお姉さんが増設部分に興味を持ったので、ついでに連れて行き、紹介する事にする。
冬ごもり用の運動室を紹介したら、ちょっと呆れられてしまった。
普通、冬ごもり用としてそんなスペースを空けることはないらしい。
えぇ~
健康のために、とても重要なことだと思うけどなぁ~
次に、植物育成室を紹介する。
入ってすぐ目に付く果物の木に、エルフのテュテュお姉さん、嬉しそうにする。
「林檎に、これはライチ?
あ、スモモ!
これ好きなのよ」
と言いつつ、チラリとこちらを見る。
仕方がないなぁ。
「育てれば良いんでしょう?」
と言いつつ、スモモの木に近づき、植物育成魔法を使う。
「ふふふ、ありがとう」
と言いつつ、テュテュお姉さんは一つもぐと、皮がついたままの身にかじり付く。
「甘酸っぱくて美味しいわぁ~」
と非常に満足げだ。
「じゃあ、食料庫に行くよ」
と促すわたしに待ったをかけ、エルフのテュテュお姉さんは小袋を二つほど渡してくる。
「こっちがね、シンホンのお土産で、こっちはわたしからのお願いしたい種よ」
「シンホンのお土産?」
「独り立ちの試験中なんだけど、まあ、ちょっとしたお土産なら良いかなって思って」
「なんだろう?」
「ふふふ、育ててみてのお楽しみね」
今、わたしが特に欲しい植物はトマト、タマネギ、レモン、大豆だ。
これらがあれば、料理の幅が結構広がる。
シンホンって、極東なんだよね?
今住んでいる場所は前世でいう西洋っぽいから、その東って事はアジアっぽい感じなのかな?
そうすると、大豆とかが来てくれたりするのかなぁ。
大豆だったら、Web小説にかなりの頻度で出てきているから、いくらか挑戦したい物があるんだけど……。
それとも、お米とか?
それはそれで嬉しいんだけど……。
などと思いつつ、お土産の方の袋を開ける。
……真っ黒い粒の種だった。
お米でも大豆でもないね。
ちょっとガッカリだ。
などと思いつつ、育ててみることに。
白いモクモクで地面を掘り、その中に種を数粒落とす。
その上に土を被せた後、「育てぇ~」と唱える。
モクモクと育っていく。
木じゃない。
緑色の草? 茎? が延びていく。
これは……。
エルフのテュテュお姉さんがちょっと自慢げに言う。
「これは長ネギっていうのよ!
なかなか、美味しかったわ」
……長ネギかぁ~
なんだろう、お土産にこんな事を思うのは大変失礼だけど……。
微妙!
すっごく、微妙!
そんな雰囲気を察したのか、エルフのテュテュお姉さんは慌てた感じに言う。
「これ、ほら、こんな見た目だけど、その白い部分をぶつ切りにして、塩をかけて焼くだけで凄く美味しいんだから!」
……これ、自分が食べたいだけなのでは?
食べたい物をお土産として、育てさせただけなのでは?
さらに言うならば、これからも食べられるようにしただけなのでは?
だけど、大人なわたしはニッコリ微笑みながら「ありがとう、テュテュお姉さん」とお礼を言う。
にもかかわらず「ほ、本当に美味しいんだから! それをサリーに食べて貰いたくって、ね!」などと言っている、テュテュお姉さん、もう分かったから!
そんなことを思いつつ、もう一袋を確認する。
あれ、これって……。
「葡萄の種?」
「え、ええ、そうよ!」
そういえば、わたし、テュテュお姉さんに何回か育てさせられたなぁ。
「これ、なんでわたしに頼むの?
ママにお願いすればよいのに」
葡萄の種以外は、嫌がるママに平気でお願いするのに、何でこれだけ特別なんだろう。
そう訊ねると、エルフのテュテュお姉さんは苦笑する。
「だって、あなたのお母さん、お酒が嫌いだから」
「?
どういうこと?」
「その葡萄、ワイン用なのよ」
「ああ、そういうこと」
ワインって葡萄から出来てるんだよね。
「なんで、ママはお酒が嫌いなの?」
「ああ……」と言いつつ、テュテュお姉さんはなにやら目線をそらす。
「なんでも、酔っぱらった”人間”が醜くて嫌いらしいわよ」
「……」
テュテュお姉さん、妙に”人間”部分を強調したけど、あれだよね?
それ、対象から外れようとする、こしゃくなテクニックだよね。
「テュテュお姉さん……。
酒癖悪いの?」
とストレートに訊ねると、ブンブン首を横に振る。
「わたしは悪くないわよ!
ちょっと、ほら、陽気になるぐらいで!」
えぇ~!
「育てない方がいいのかなぁ……」
なんて悩んでいると、わたしを背後から抱きつきながら「ちょっとだから! ちょっと、粗相しただけだから! そんなこと言わないで!」などと言いつつ、ゆさゆさ揺すり始める。
えぇ~それ絶対、ちょっとじゃない奴でしょう?
酔っぱらいの相手なんて、したくないよ?
本当に!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます