スライムの話を聞く。

 皆とお茶をしつつ話をすることとなり、中央の部屋食堂のテーブルを囲いながら皆、席についた。

 席の位置は長テーブル奥の長い辺にわたしとエルフのテュテュお姉さん、その対面にヴェロニカお母さん、イメルダちゃん、シャーロットちゃんが座っている。

 ヴェロニカお母さんの隣にはエリザベスちゃんが寝かされている籠が置かれている。

 先ほど、エルフのテュテュお姉さんに紹介済みだ。

 あと、テーブルの上には、妖精姫ちゃんがいつもの小さなテーブルにつき、妖精メイドのサクラちゃんにお茶を入れて貰っている。

 いや、その小さなテーブルの上に当然のように置かれているドライフルーツ、我が家のだよね!

 まあ、いいけど……。


 それにしても、エルフのテュテュお姉さんがいずれ来るだろうと思って、もう一つ、椅子を作って貰っておいて本当に良かった。

 危うく、誰か一人が木の箱に座る羽目になるところだった。


 シルク婦人さんが皆にお茶を配ってくれている中、どことなくぐったりした感じのエルフのテュテュお姉さんは、こめかみを人差し指で押さえながら顔をしかめ「何でこうなったの……」などと呟いている。


 えぇ~

 そこまで言うほどの事かなぁ。


 因みに、テュテュお姉さんの疑惑を晴らすため、先ほど飼育小屋に案内したのだが、赤鶏さんや山羊さんを見たテュテュお姉さんは少し顔をひきつらせながら「ま、まあ、ケルちゃんに比べたら……ねぇ」とか言ってた。

 えぇ~

 ケルちゃん、あんなに可愛いのにぃ~

 あ、ひょっとしたら、エルフのテュテュお姉さん、大人のケルベロスと何かあったのかもしれない。


 まだまだ、子供なケルちゃんなら、全然大丈夫だと思うけどなぁ。


「あのう、スライムに魔力を与えるのは、それほど危険なことなのですか?」

とイメルダちゃんがおそるおそると言った感じに訊ねる。

 イメルダちゃんの問いに対して、エルフのテュテュお姉さんは少し考えた後に、答える。

「そうね。

 普通程度の……魔術師が魔力を与えるぐらいなら、余程のことがない限り大丈夫だわ。

 名付けにしてもそうね。

 ただ、サリーこの子ほどの魔力でスライムに対して行う場合、問題になるのよ」

 イメルダちゃんは「問題……」と呟きながら、ケルちゃんの背中の上でポヨポヨしているルルリンを一瞥する。

 エルフのテュテュお姉さんは頷く。

「スライムは本来、個としての意志が無い存在なの。

 ただ、そばにある消化できる物を取り込み、大きくなれば分裂するだけ。

 同じ者が分かれて増えるから、これといって成長することも無く、仮にあふれるほどになった所で無害な存在なのよ」

 ちょっとした疑問をぶつけてみる。

「それ、取り込んだものによって変化したりしないの?」

 わたしの問いに、エルフのテュテュお姉さんは何故か苦笑する。

「そういう風に考え、試してみた研究者を知ってるけど、彼の話では特に変化はなかったらしいわよ」

 エルフのテュテュお姉さんは続ける。

「話を戻すわね。

 普通にしていれば、無害な掃除屋さんなんだけど、魔力と名を与えると、少々やっかいな存在になるの」

「やっかいな?」とイメルダちゃんが合いの手を入れると、エルフのテュテュお姉さんは続ける。

「個性を手に入れるのよ。

 わたしも完璧に把握している訳じゃないけど、個性を得たスライムはかなりやっかいなのよ。

 それはなんというか、常識の埒外らちがいになると言うか、不可思議な存在になるの。

 例えば、体の大きさが突然、巨大化したり、逆に小さくなったり。

 明らかに、自分の体格を超えた物を取り込んでしまったりとね。

 後は……。

 そうそう、普通のスライムを率い始めたり――。

 ……二人とも、思い当たることがあるのね」

 顔を見合わせるわたしとイメルダちゃんを見ながら、エルフのテュテュお姉さんは苦笑する。


 まあ、伐採時に出た大量の枝や葉を取り込んだり、飼育小屋のスライムが指示を聞いているそぶりを見せたりしていたことはある。


 巨大化とかはまだしてないなぁ。

 するようになったりするのかな?


「ルルリン、家の中で巨大化するのはやめてね」

と言いつつ撫でてあげると、当然! と言うようにポヨンと揺れた。


 可愛い!


 わたしがほんわかしていると、イメルダちゃんがテュテュお姉さんに訊ねる。

「巨大化っていうと、”王スライム”と呼ばれるスライムの話、ですか?」


 ああ、そういえば、牧場の人がそんなことを言っていた気がする。


 イメルダちゃんの問いに対して、エルフのテュテュお姉さんは「よく知ってるわね。その通りよ」と答えつつ暗い表情になる。

「あれは本当に胸くそ悪い出来事だったわ。

 しかも、その後始末までさせられて……。

 そういえば、あの子を最後に止めたのは――」

 エルフのテュテュお姉さんはちらりと、ケルちゃんに視線を向ける。


 ん?

 ケルちゃんが?

 いや、ケルちゃんというより、大人のケルベロスなのかな?

 ひょっとすると、ケルちゃんのお父さんかお母さんなのかな?


 そんなことを思っていると、イメルダちゃんが訊ねる。

「その”出来事”とはいったいどのようなことが起こったのですか?」

 エルフのテュテュお姉さんは口を開き――それを閉じて、首を横に振った。

「サリーを含むあなた達がこれを聞くには、まだ早いわ。

 まあ、なんにしても、スライムには名前も魔力も与えてはいけない、分かったわね?」


 後半はわたしに向かって言うので、頷く。

 そんな面倒なことになるなら、わざわざ、する必要はない。


 エルフのテュテュお姉さんは続ける。

サリーあなたなら仮にルルリンが暴れた所で押さえ込むことは出来ると思うけど、本当に頼むわよ。

 暴走したスライムを押さえ込むの、凄く骨が折れるから」

「分かってるって!」


 相変わらず、テュテュお姉さんは心配性だなぁ。


「それより、今回はどこに行っていたか、話を聞かせてよ!」

とわたしが話題を変えると、エルフのテュテュお姉さんは「ん? そうね……」と少し視線を上に向けながら、それに答える。

「今回はシンホンまで足を延ばしたから、その辺りの話をすれば良いのかしら?」

「シンホン!

 極東の国ですよね!」

とイメルダちゃんが驚いたように訊ねると、エルフのテュテュお姉さんはニッコリ微笑みながら「そうよ」と答える。

 ヴェロニカお母さんも目を丸くしながら「またずいぶん遠くまで行かれたんですね」と言っている。

 それに対して、エルフのテュテュお姉さんは、うんうん頷く。

「遠かったわ。

 正直、舐めてた。

 本当は南東にあるインディール王国に行こうと思ったけど、ほら、今あっちの方は戦争してるじゃない?

 だから、急遽、東に向かったんだけど、いやぁ~なかなか遠かったわ。

 しかも、シンホンあの国ったら閉鎖的で、異国の、しかもエルフだと下手をすると宿も借りられないほどの扱いを受けるのよ。

 早々と帰ってきたわ。

 だから、旅をした半年間、そのほとんどが移動時間ね。

 馬に乗ってたから、お尻が痛くなっちゃったわ」

と話すエルフのテュテュお姉さんだったけど、なんだか楽しそうだった。


 このエルフさんは旅が本当に好きなんだろうなぁ。

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