ネズミの巣?
食料庫で食材等を一通りそろえると、
何故か、険しい顔をしたシャーロットちゃんが、仁王立ちになって待っていた。
「サリーお姉さま!
お母さまと勝手に代わるなんて、酷い!
シャーロット、ビックリした!」
えぇ~
しかも、その背後に居るケルちゃんも同調するように「ガウ!」「ガウゥ!」「ガァ!」とか吠えている。
えぇ~
「お母さんならいいじゃない」と弁明するも「良くない!」と全身でアピールする。
はぁ~
仕方がないので持っていた籠を下ろすと、「ゴメンゴメン」とハグをしてあげる。
妹ちゃんの背中をポンポンとしていると、シャーロットちゃんはニヤリとした顔で見上げてくる。
「サリーお姉さま、シャーロット、またトンカツ? っての食べたいの」
おやおや、わたしの可愛い妹ちゃんが、小悪魔系妹ちゃんにジョブチェンジしてるぞ。
何て考えていると、寝室の方から鋭い怒声が聞こえてきた。
「シャーロット!
いい加減にしなさい!
いつも、お世話になっているサリーさんを困らせることばかり言って!」
「ひゃ!?
ごめんなさぁ~い!」
と叫びつつ、シャーロットちゃんはゴロゴロルームへと逃走する。
何故か、ケルちゃんもその後ろを「ガウ!」「ガウゥ!」「ガァ!」などと吠えつつ続いていく。
本当に、仲がいいなぁ。
ほんわかしていると、眉を怒らせたイメルダちゃんが近づいてくる。
「サリーさんも!
甘やかせては駄目って言っているでしょう!」
えぇ~
仕方がないので(?)、「ごめんね」と言いつつ、イメルダちゃんをきゅっとハグする。
「キャァ!」という声とともに、顔面をぺちんと叩かれた。
「何で抱きつくの!」「えぇ~流れ的に?」「意味分からない!」
えぇ~
女の子同士だし、別に良いと思うけどなぁ。
などとやっていると、頭の上のスライムのルルリンが動いたと思ったら、イメルダちゃんの頭に移動しようとする。
「キャ!
なに!?」
「こら!
わたしはともかく、イメルダちゃんだと、頭でルルリンの重量は支えられないから!」
と言いつつ、スライムのルルリンを掴み、元の位置に戻す。
「いったい何なの?
あえて指摘しなかったけど、サリーさん、なんでルルリンを頭に乗せているの?」
イメルダちゃんが髪を整えながら訊ねてくるので、説明する。
「なんか、わたしの頭を舐めている? みたいなの」
「え?
サリーさんの頭、汚いの?」
「昨日、洗ったばかり何だけどなぁ」
「そうよね」
イメルダちゃんは顎に手をやり、少し考える。
「わたしも髪を洗って貰ったわね……。
ひょっとして、リンス? だったっけ?
あれが気になっているんじゃ」
「ああ、なるほど」
それなら合点が行く。
とはいえ、エルフのお姉さんと連絡が取れない現状、リンスを舐めさせて上げるわけには行かないなぁ。
それに、リンスのどの部分が気に入ってるのか……。
ひょっとして、レモンかな?
酸味とか。
でも、レモンって今は無いんだよねぇ。
オレンジ……いや、果物なら何でも良いかな?
わたしは下ろしていた籠からラズベリーのドライフルーツを数粒取り出し、頭の上に持って行く。
お!
体を伸ばしたスライムのルルリン、わたしの手から器用にラズベリーだけを溶かす。
もっともっとと言うように、体を揺するので、仕方がないので籠にあったラズベリーを全て上げた。
まだまだ有るしね。
え?
魔力も?
仕方がないなぁ。
スライムのルルリン、満足したのか、天井の上に帰って行った。
「汚ればかり食べるのは嫌になったのかしら?」
イメルダちゃんの言う通りかもしれない。
ルルリンには沢山働いて貰っているし、これからは果物を上げることにする。
「それはさておき、ちょっと来て欲しいんだけど」
「ん?」
食料庫から持ってきた荷物をシルク婦人さんに渡した後、イメルダちゃんの後を付いて、わたし達の寝室に入った。
「ここ、解れちゃったみたいなの」
「これは大変だ」
掛け布団の縫い目が切れて、白いママの毛が飛び出てしまってた。
わたしがそれを布団の中に押し込んでいると、イメルダちゃんが訊ねてくる。
「その毛、かなり良いものじゃない?」
「うん、ママから貰ったの」
ママの毛は防寒に優れた凄く良い物だ。
しかも、不思議なことに夏だと余り暑くならないという特徴もある。
なので、冬も夏も問わず、ママの毛を使った服を着ている。
「それに、この毛が側にあるだけで、ママに会えない寂しさが少しだけど緩和されるの」
「そうなのね……」
「うん」
掛け布団に顔を埋めてみる。
緩和されるといいつつ、なんだかママに会いたくなっちゃった。
ママぁ~……って、やってる場合じゃない!
ガバっと起きあがる。
「手芸妖精のおばあちゃんに直して貰わないと」
「そうね、そんな高価で大切なものなら、しっかりと縫い直して貰う必要があるわね」
「うん」
「でも、どうやって連れてくるかが問題よね」
「え?
どういうこと?」
そんなことを話していると、妖精メイドのサクラちゃんとともに、話題の妖精である手芸妖精のおばあちゃんが飛んできた。
イメルダちゃんが目を丸くする。
「え?
どうやってここまで来たの?」
「?
あ、外は吹雪いてるか」
大木と我が家は隣同士だけど、それでも、今の吹雪の中、小さい妖精ちゃんがここまで飛んでくることは難しい。
その事を懸念して、イメルダちゃんはわたしに相談したのか。
だが、妖精メイドのサクラちゃんも手芸妖精のおばあちゃんも笑顔で身振り手振りをしつつ、大丈夫とアピールする。
そして、部屋の外に誘導する。
ん?
連れてこられたのは、食料庫の奥の壁、その右下隅だ。
そこには、小さな扉があった。
といっても、わたし達人間にとっては小さいというだけで、妖精ちゃん達なら三人ぐらい同時に入れそうな入り口である。
妖精メイドのサクラちゃんが身振り手振りで説明してくれる。
ん?
筒状になっていて、大木と繋がっているの?
だから、外に出なくても大丈夫?
扉を開けてみると、なるほど、通行できるようになっていた。
この壁の向こうには大木があるので、そこと繋いでいるのね。
「でも、何で倉庫の、こんな隅っこに出入り口を作ったの?
なんかネズミの巣穴みたい――」
わたしが素朴な疑問を口にして、イメルダちゃんと顔を合わせる。
イメルダちゃんがジト目で訊ねる。
「まさかとは思うけど、勝手に食べ物――主に甘味を持って行くためにここに設置したとかじゃ無いわよね」
すると、妖精メイドのサクラちゃんと手芸妖精のおばあちゃんの体がビクっと震える。
そして、なにやら慌てたように一生懸命身振り手振りをし始める。
違う違う?
そんなわけ無い?
だったら、教えるわけ無いでしょう?
そうは言うけど、サクラちゃん……。
なんか、扉から出てきた妖精ちゃん達がわたし達を見て、凄く驚いているんだけど。
なんか、言葉が分からないんだけど、明らかに、なんで教えたんだ! とか言っている感じなんだけど。
えぇ~
「……扉に板でも打ち込みましょうか?」
などという、ネズミ巣対策としては実に真っ当なことを言うイメルダちゃんに、妖精ちゃん達はすがりつくように、なにやら懇願するのであった。
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