伝説の料理!2
わたしが右手を出すと、肉を刺したフォークを持たせてくれる。
どれどれ、とお肉を口の中に……。
「うっまぁぁぁい!」
外はさくっと、中は肉汁じゅわりなこれは――。
『まさに、伝説に相応しい肉料理だぁぁぁ!』
うぁおおおん! と思わずフェンリル語で叫んじゃう、それぐらい美味しかった。
イメルダちゃんが、「なんで狼の遠吠え!?」と訊ねてきたので「それだけ、美味しいってこと!」と答えておいた。
「意味分からない!」と言われたけど、気にしない。
美味しいのは、正義なのだ!(?)
シャーロットちゃんが「シャーロットも!」とアピールしているのに、わたしからフォークを受け取ったシルク婦人さんが、残り半分をパクリと食べた。
シャーロットちゃんが「あああ! 二人ともずるい!」と叫んでいたけど、いや、毒味は大切だからね。
シルク婦人さんも、満足できる味なのか、コクコクと頷いている。
そして、シャーロットちゃんの方を見ると「お夕食に」と窘めるように言った。
そこから、バンバン、揚げて行き、トンカツの山が出来た時にはシャーロットちゃんは驚喜していたけど――ごめん、その多くはママへの物なんだ。
そう伝えると、妹ちゃんはシュンとしてしまった。
期待させてしまって、申し訳ない。
ママに転送した後、皆の分を盛り付け始める。
キャベツも白いモクモク包丁で千切りにして、付け合わせる。
う~ん、キャベツにかける物がないなぁ。
前世日本なら、トンカツにしてもキャベツにしてもトンカツソースをかけるところだけど、残念ながら現時点では手が出ない。
トンカツは塩コショウで味付けされているから、とりあえずは問題無いけど、キャベツは……とりあえず、塩だけにするしかないかぁ。
なんて悩んでいると、すーっと台所に入っていったシルク婦人さんが小鉢を持って戻ってきた。
ん?
なに?
中を見ると、オレンジの絞り汁があった。
え?
これをかけるの。
わたしは、小皿に分けたキャベツの上にそれを少しかけてみる。
あ、酸味の中に塩コショウが混ざり合い――ドレッシングっぽい感じになっていた。
これなら、生で食べるよりいくらかマシかな?
なんて考えつつ、シルク婦人さんを見ると、家妖精さんは無表情ながらに不満そうな感じだった。
「オリーブ、酢」
「え?」
「オリーブ、酢」
「……ああ、それがあれば、ドレッシングが作れるのね」
わたしの言葉に、シルク婦人さんは頷く。
オリーブは……町にあるかな?
とはいえ、さすがにこの吹雪の中ではどうしようもないなぁ。
でも、お酢は……。
確か、お酒を低温の場所で放置すれば、酢になるってWeb小説に書いてあったような……。
あれ?
低温すぎるのも良くないんだっけ?
よく思い出せない。
「今後の課題だね」と言うと、シルク婦人さんはコクコクと頷いた。
それはさておき、夕食になった。
「美味しぃ~
サリーお姉さま、これサクサクしていて凄く美味しい!」
「それは良かった」
シャーロットちゃんの満面の笑みが見えて、わたしも良かったよ。
ヴェロニカお母さんやイメルダちゃんも「本当に美味しいわ~」「ええ、美味しいです」と言ってくれた。
好評で何より!
「サリーお姉さま、さすがは伝説の料理だね!」
「でしょう?」
「うん!」
シャーロットちゃんと微笑みあっていると、イメルダちゃんが少し怪訝そうに言った。
「こんな食事、初めてだけど、いったいどこの料理なの?」
「こことは遠く離れた小さな伝説の島国だよ」
「島国なの?」
「うん、伝説の」
「どこにあるの?」
「いや……。
伝説だし」
「……やたらと、伝説を連呼してるけど、まさか適当に言ってない?」
「え~
ちゃんと言ってるし!
ただ、伝説だから、よく分からないってだけ」
「はあ?
まあ、良いけど」
そんなことを話していると、ニコニコ顔のヴェロニカお母さんが口を挟んできた。
「サリーちゃん、その伝説の中には甘味とかもある?」
……この大人はいったい、何を言っているのだろう?
「ヴェロニカお母さんは――」
「わたくしは子供よ!」
この大人、即答した!
はぁ~
甘味かぁ~
あ、油と食パン、そして砂糖が有れば”あれ”が作れるか。
ふと気づくと、目の前に妖精姫ちゃんが飛んでいた。
その目は期待でキラキラと輝いている。
しょうがないなぁ。
「明日ね」
と、トンカツを一切れ口に入れた。
うむ、やはり旨い。
――
朝、起きた!
シャーロットちゃんの体調が回復したと言うことで、昨日から改めて三人で寝るようになったベッド、そこから抜け出そうとして……。
わたしの上半身にへばりついている可愛い子に視線を向けた。
シャーロットちゃんだ。
わたしの胸に顔を埋めるよう抱きしめている妹ちゃんは、絶対に離れないという意志を示すように、腰を両足で挟んでいる。
離そうとしても、なかなか離れない。
ばかりか、さらに力を入れて「寒い!」と言っている。
う~ん、ちょっと困ったな。
仕方がないので、抱き抱えながらベッドから降りる。
そして、寝間着のまま、部屋から出ると、ゴロゴロルームに向かう。
外は相変わらず吹雪いているみたいで、風の音が凄い。
そろそろ、止んで欲しいんだけど、と思いつつ中にはいると、ヴェロニカお母さんが体を起こす所だった。
「おはよう、サリーちゃん。
……シャーロットはどうしたの?」
ニコニコしているヴェロニカお母さんに「寒くて離れたくないんだって」と言いつつ、スリッパを脱ぎ、部屋に入る。
「だけど、朝はやることがあるから、ちょっと代わって欲しいんだけど」
とお願いすると、ヴェロニカお母さんは「良いわよ」と笑顔で了承してくれた。
交代しようとするも、なかなか離れないシャーロットちゃんだったけど、脇に手を入れて少しくすぐると「キャッキャ!」と笑いながら、少し手が放れる。
今だ! とばかりにヴェロニカお母さんに渡す。
まだまだ眠いのか、今度はヴェロニカお母さんに抱きついたシャーロットちゃんは「温かい……」とか言いつつ、また寝入っていく。
シャーロットちゃんの顔はヴェロニカお母さんの”デカイの”の谷間にすっかり埋もれている。
……明らかに、さっきとは違うんだけど、気づかないものかな?
まあ、いいけど。
ヴェロニカお母さんに手を振って、ゴロゴロルームから出る。
部屋に戻り、寝間着から着替えた後、台所でシルク婦人さんから駕籠やら壷を受け取り、飼育小屋に向かう。
途中、いつものように妖精メイドのサクラちゃんと合流する。
おはよう!
ん?
天井から気配を感じ、視線を向けるとスライムのルルリンがびよ~んと降りてきて――わたしの頭の上に着地した。
……まあ、いいか。
そのまま、飼育小屋に向かう。
いつものように、ご飯を上げつつ、卵を頂き、お乳を頂く。
その間、スライムのルルリンは頭に乗ったままだ。
……ひょっとして、わたしの頭の汚れを食べている?
え?
あれ?
わたしの頭って、そんなに汚いの?
あれ?
でも、昨日、頭洗ったばかり何だけど……。
そんなことを思いつつ、
「サリーお姉さまぁ~シャーロット、もっとお肉食べたいの。
お肉料理だけで良いの」
「あら、駄目よシャーロット。
お野菜も食べないの」
「……え?
あれ?
お、お母様?
え?」
……わたしとヴェロニカお母さんを間違えるものかなぁ~
特に、某箇所なんかぜんぜん違うと思うけどなぁ~
なんて思いつつ、卵とお乳をシルク婦人さんにわたし、食料庫へ移動する。
スライムのルルリン、まだ頭にへばりついている。
え?
そんなに汚いの?
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