共同作戦相談!

 赤鷲の団団長のライアンさんが「中で話そう」と言うので、荷車を置き場に預けて冒険者組合の中に入る。

 奥に五、六人ほどが集まってミーティングとかが出来るように丸テーブルがいくつか置いてあるので、そちらに向かう。

 途中、受付嬢のハルベラさんに捕まり「サリーちゃん、冬の間、町に常駐するつもりは無い!? 住む場所なら見つけてあげるから!」などと凄い勢いで詰め寄られた。

 何でも、冬の間は、通常よりけが人が多いので治療魔術(わたしの場合、魔法)が使える人は沢山いて欲しいってことだった。


 滑って転ぶって事かな?


と思ったけど、何でも大白猿という魔獣が暴れるかららしい。

 しかも、今年はどうも動きが活発らしく、より一層必要としているとのことだった。

「家に籠もるから無理だよぉ」と断るも、「せめて、定期的に町に来てぇ!」と腰にへばり付きながら懇願されてしまった。


 えぇ~……。


 根負けして、「吹雪いてない時なら、時々顔を見せるよ」と言って、なんとか解放して貰った。

 う~ん、面倒くさいことにならなければ良いけど……。


 テーブルに付くと、皆席に座る。

 飲み物とか出るかな? とか思ったけど、そんなこともなく、赤鷲の団団長のライアンさんが話し始めた。

「サリー、お前は食糧不足の件、話を聞いているか?」

「うん。

 さっき、アーロンさんから聞いたよ」

 わたしの返答に、赤鷲の団団長のライアンさんが頷く。

「お前なら、何頭でも狩ってこられるとは思う。

 だが、そうなると必然的に目立っちまうだろう。

 実力も隠しきれなくなるだろうし、冒険者組合もお前の冒険者の段位を上げざる得なくなる。

そうすると、周りの見る目が変わるし、貴族からの依頼が来るようになれば、色んな意味で住む場所が変わる事になる。

 ……お前、目立ちたいか?」

 目立つか……。

 Web小説もそんな場面あったなぁ。

 皆にスゲェ! スゲェ! って言われて、頼りにされたり、貴族とかに敬意ある対応されたり、姫様に『素敵!』って言って貰ったり……。


 自分がその立場になることを想像してみる。


「……なんか、めんどくさそう。

 段位とかも、今のままでいいや」

 正直、冒険者になったのも、身分証が欲しかったのと、金策用だからね。

 凄い! って賞賛もシャーロットちゃん達から貰えれば十分だし。

 わたしの素直な返答に、何故か赤鷲の団の面々が苦笑する。


 なぜ?


「いや、まあ、どちらにしても、まだ若すぎるし、しかも女のお前が目立っても良いことは余りないからな」

と言う赤鷲の団団長のライアンさんが少し姿勢を正す。

「どうだろうか、今回の件は、共同で行わないか?」

「共同?」

「そうだ。

 俺たちを含む、複数の団で狩をするんだ。

 そうすれば、お前が多少獲物を多く狩っても、皆で頑張ったって言い張れるからな。

 もちろん、買い取り分はそれぞれが狩った分だ。

 評価に関しても、組合長に話を通しておけばうまくやってくれるだろう」

「まあ、その辺りは良いけど……」

 今の所、お金には困ってないし、評価も元々公にして貰っていない。

「あともう一点、お前が個人で狩った魔獣なんかも一緒に持って行けば目立たなくなる。

 今はちょっときな臭いことになっているからな。

 今まで通り、一人で持って行くと、嫌な連中に嗅ぎ付かれて面倒なことになるかもしれない。

 だが、大量な獲物と一緒に運び入れれば、その可能性も薄まるだろう」

 なるほど、そうかもしれない。

 頷くと、ライアンさんは続ける。

「まあ、共同の作戦にも出来れば参加して貰いたいけどな」

「構わないけど、何日もは無理だよ。

 冬ごもりの準備もあるし」

 赤鷲の団団長のライアンさんが頷く。

「一日だけでも構わない。

 お前なら、結構な数を狩れるだろう」

「相手にもよるかな」

 じゃくクマさんなら、百頭ぐらい居ても平気だけど、本物のクマさんの場合は何頭も倒すのは無理だ。

「あ、それと、数を狩るなら集団の数と生息分布にもよる」

 散らばっている相手を追い回すのは、正直、骨が折れるんだよね。

 わたしの言葉に、赤鷲の団団長のライアンさんが頷く。

「その辺りは問題ない。

 俺に考えがある」

「考え?」

「ああ、まず狩の相手は赤大鹿あかおおしかだ」

「赤大鹿って……。

 鹿さん?」


 脳裏に全長五メートルはありそうな鹿さんが浮かぶ。


 高さだけでなく、体つきもがっちりしていて、大樹と言っても良い木を幹から食い散らす結構厳つい魔獣だ。

 真っ赤な体毛に、オスには立派な枝角が生えていた。

 その角は見た目だけでなくそこそこ堅く、襲われたらそれで相手を突き殺そうとしてくる、結構気の荒い性格をしていた。

 一度、三メートル級のじゃくクマさんを角に刺しながら、平然と木をかじっている姿を見て、どん引きしてしまったこともあった。

 もっとも、フェンリル親子我が家にとっては当然、大した敵でもなく、お肉もやや淡泊ながら癖もなく美味しいので、見つけたら率先して倒していた。


 特にケリーお姉ちゃんが鹿さんのステーキが大好きで、良く焼かされたなぁ。


 そんなことを考えつつ、赤鷲の団団長のライアンさんの続きを聞く。

「お前の言う”鹿さん”がそうなのかは分からないが、四足でも俺が見上げるぐらいの大きな鹿で、オスには巨大な角がある、なかなか、凶暴な奴だ。

 一対一だと、この俺ですら負けなくはないが、苦戦する」

「じゃあ、わたしの知ってる鹿さんじゃないや」

 鹿さんは弱クマさんよりは強いから、それに勝てないライアンさんでは話にならない。

 わたしがうんうん頷いていると、赤鷲の団団長のライアンさんが苦々しい顔で「オスの赤大鹿に一対一で勝てるのは、一応武勇伝なんだが……」などとブツブツ言っている。

 赤鷲の団のマークさんがそんな団長さんに苦笑しながら、話を続ける。

「奴らは、まあ、そこそこ強いんだが、さらに言うと群れで行動するんだ。

 毎年、奴らの群れは近隣の畑を荒らし回っている迷惑な奴らなんだが、今年はどうやらかなり強力な奴が親分になったらしく、相当な被害があったらしいんだ」

 赤鷲の団団長のライアンさんが頷きながら、引き継ぐ。

「それも、食糧不足の原因の一つではあるけど、それをうまく利用させて貰おう。

 一つ、お前が狩った獲物を上手く隠しながら組合に運ぶ。

 二つ、共同でふざけた鹿野郎を狩り、その肉で食糧不足の改善を行う。

 こんな所だな」

「うん」

「冒険者組合とも連携する形になる。

 その辺りは、こちらでやっておく。

 決行日までの日にちは、ある程度空けた方がよいか?

 それまでに、狩をしておいてもらいたいんだが」

「わたしの荷車一台分なら、日を置かなくても直ぐに一杯になるよ」

「そうなのか?」

「うん」

 大きめの荷車と言っても、じゃくクマさん一頭に、プラスアルファ一、二頭ぐらいしか乗らない。

 もっと大きい荷車にしようかな?

 いや、あれ以上大きいと森とか林とかを抜ける時に不便か。

 などと考えていると、後ろから「おい、お前ら」と声がかかった。


 振り向くと、先ほどぶりの組合長のアーロンさんが近づいてきた。


「何か、悪巧みをしていると聞いたが」

 などと言われ、赤鷲の団団長のライアンさんが「人聞きの悪い」と苦笑する。

 そして、先ほど話していた内容をアーロンさんにも説明する。

 組合長のアーロンさんは「なるほどな」と何度か頷くと言った。

「だったら、簡易な基地を作るってのはどうだ?」

「基地?」と赤鷲の団団長のライアンさんが訊ねると、組合長のアーロンさんが頷く。

「赤大鹿を本気で討伐するって理由で、冒険者組合で作るんだ。

 解体所の職員も常駐させるのも悪くはない。

 サリーにはそこに持ってきて貰えばいい。

 日にちは……。

 そうだな、二日間は赤大鹿の討伐準備という名目で基地を作り、サリーが持ってくるのを待つ。

 この時は目撃者を減らす意味で、狩りをするのはサリーだけだ。

 で、翌日、複数の団合同での狩を決行する。

 それでどうだ」

「わたしは構わないけど」

 ちらりと視線を向けると、赤鷲の団団長のライアンさんも頷いて見せた。

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