妹ちゃんと町に行こう!4
赤鷲の団のアナさんと別れて荷車まで向かう。
さて、これからが本番だ!
荷車までの短い距離だけど、もしもの為に手をつないで歩くイメルダちゃんに訊ねる。
「先ずはどこに行く?」
フェンリル帽子をしっかり被ったイメルダちゃんがこちらを見上げながら答える。
「先ずは、魔道具の店に行きましょう」
魔道具の店か……。
場所が分かんない。
くるりと踵を返し、冒険者組合に入る。
そして、叫ぶ。
「ハルベラさぁぁん!
魔道具屋さんってどこぉぉぉ!?」
――
「大分そろったかな?」と荷車の上のイメルダちゃんに振り返り確認する。
イメルダちゃんはちっちゃな指を折りながら少し考え込む。
因みに、町の中では荷車の上にイメルダちゃんを乗せて歩いている。
おんぶされながら町中を歩き回るのをイメルダちゃんが嫌がったからの帰結である。
護衛する意味では余りよろしくないと説得したんだけど、やはり恥ずかしいらしい。
致し方が無く、左手から白いモクモクを出し、イメルダちゃんの腰を緩く包むようにしている。
後は、ママの毛皮で出来た服に身を包んでいるから、まあ、大丈夫かな?
「あと、お母様の為に裁縫用の生地屋に寄るのと、山羊が残っているわ」
「ああ、そうだったね」
ここまで来るのに、結構散財した。
魔道具屋さんで魔石を購入したのが結構大きいかな。
見た目、水晶の原石みたいなのだったから、ひょっとすると蟻さんが拾ってこないかな?
なんて思ったけど、イメルダちゃんが言うには、どうやら天然の魔石には余計な魔力が混じっているので、それを除去する加工が必要とのことだった。
下手な物を使うと、魔道具が壊れる元になると言われたので、素直に購入することにした。
念のために三十個ほどを、金貨十五枚で購入した。
銀貨一枚で、魔力の補充も頼めるとのことだった。
「これも、特殊な技が必要なの?」と訊ねたら、魔力を感じられれば誰でも出来る程度のことだと、店のおじさんは笑っていた。
じゃあ、お金が勿体ないってことで、右手に持ち魔力を流してみた。
スルスルと簡単に入っていった。
感覚的にもう入らなそうになったら、止めた方が良いと言われたので、手のひらに反発のようなものを感じた所で止めた。
「なんか、簡単」と言って、全部に込めていたら「ずいぶん魔力が多いんだな!」と驚かれた。
イメルダちゃんも目を丸くしてた。
そうかな?
ママ達にはそのようなこと言われたこと無いけど。
続いて、薬屋さんに行った。
一応、赤鷲の団のアナさんに買って貰ったのが丸々残っているけど、人数が増えたのと、冬ごもりをするってことで多めに購入する。
あ、そうそう、消毒剤とか欲しいな。
風邪防止とかに使えるから。
え?
そんなもの無い?
え?
アルコール消毒とかしないの?
いや、アルコール、お酒で良いのかな?
酒屋へ行けと……。
どうやら、
酒屋さん、どうしようかな?
わたしみたいな未成年には売ってくれないかな?
赤鷲の団の誰かに買って貰おうかな?
まあ、保留と言うことで。
次に行ったのは文房具屋さんだ。
イメルダちゃんが紙が欲しいという事で入った。
お店の中、ちょっとした高級雑貨店って感じに綺麗でおしゃれでびっくりした!
なんでも、文房具を購入するのは基本的に富裕層とのことで、こういう店に置いてあるらしい。
店員さんも仕立ての良さそうな服をビシッと着こなしたおじさんだったので、わたし達みたいな子供は嫌がられるかな? って思ったけど、にこやかに、丁寧に、接客してくれた!
紙、高かった!
前世の学習ノートサイズの紙、二十枚で銀貨二枚もした!
羊皮紙かと思ったけど、おじさんが出してくれたのはパルプ紙? だっけ? 前世の普通の白紙と同じような感じだった。
値段に驚いているわたしに対して店員のおじさんは「オールマ産の紙が入るようになりましたから、これでも値は下がりました」とニコニコしながら説明してくれた。
う~ん、異世界的には安いのかな?
イメルダちゃんに何枚欲しい? って訊ねようとして――止めた。
凄く不安そうな顔でこちらを見上げてたから。
何となく、遠慮しちゃいそう。
「これで買えるだけ」と大銀貨を渡して、百枚購入する。
「ずいぶん買われるのですね」と店員のおじさんビックリしてた。
普通、平民はそんなに買わないらしい。
ま、うちは国の為に使うわけだし、良いよね。
万年筆とインクも購入する。
万年筆、一番安いのでも金貨二十五枚もした!
イメルダちゃんは羽ペンで良いって言ってたけど、なんか格好良かったから家族共有用として金貨三十枚の、真ん中ランクのものを購入した。
店員のおじさんが「よ、よろしいのですか?」とまたしてもびっくりしてたけど「頼まれたので」と言って押し切った。
……組合長のアーロンさんにお願いしておいた方が良かったかな?
まあ、いいか。
あと、ノート型の黒板を発見したので四つ購入する。
もちろん、チョークもだ。
どうせ冬籠もりになるなら、文字の読み書きが出来るようになろうと思ったからだ。
イメルダちゃんが文字が書けるなら、当然、ヴェロニカお母さんだって書けるだろう。
家に戻ったら、お願いしなくては。
隣に本屋さんがあったので、ついでに入る。
やっぱりと言うべきか、高かった。
ハードカバーサイズの本は中古の――ぼろそうなのでも金貨十枚はした。
しっかりとした装飾がされているとはいえ、高い!
ただ、文字の勉強用の本や子供向けの本は大銀貨五枚程度だった。
イメルダちゃんに選んで貰って購入した。
「読み書きなら教えてあげようか?」と言われたけど、ヴェロニカお母さんにお願いするつもりだと丁重にお断りをした。
一応、姉ぶりたいからね。
あと、いつも”王妃様のケーキ”を買っている店に入った。
「今日も買うのかい?」と店長さんに驚いた顔をされた。
そうだよね、短い頻度で買いすぎだよね!
なので、「今日は別の物を買いに来たの」と言っておく。
日持ちが良くて甘い物と伝えたら、ビスケットを勧められた。
見せて貰うと、動物(魔獣?)の形をしたビスケットで、凄く可愛かった。
これは沢山買わなくてはと注文したら、目を丸くされた。
「いつも思うんだけど、そんなに食べるの?」と訊かれたので「集落で分けている」と説明したら、納得してた。
いや、え?
いつも、わたし一人であの量を食べていると思われたの?
流石に、ね?
買った後、店長さんが深刻そうな顔で言った。
「ひょっとしたら、冬の間は店を閉めることになるかもしれない」
「え?
なんで?」
「どうも、食料品、特に小麦が
「徴集?
領主様に持ってかれちゃうの?」
「ああ、戦争でもあるのか……。
冬の間はただでさえ食料品の値が上がるのに、それが徴集となると、今年の冬は厳しいものになるかもしれない」
戦争かぁ~
怖いなぁ。
ちらりと視線を下げると、イメルダちゃんが少し目を険しくさせていた。
「ねえねえ、材料を持ってきたら作ってくれる?」
「え?
まあ、材料が有れば……」
「家に冬ごもりをしても余るぐらいの小麦が有るから、それで作ってくれるかな?」
正確にはこれから作る所だけどそんなことは言わない。
店長は目を見開いて驚く。
「本当かい?
いや、君の所の集落だって徴集されると思うよ」
「来ないよ。
だって、うちの集落はあっちの林の向こうだもん。
ここの領主様とは関係ないの」
「そうなのかい?」
店長さんは少し考えた後、にっこりと微笑んだ。
「分かった。
店は閉まっているかもしれないけど、呼んでくれたら出てくるから。
……その時の代金なんだけど。
もし出来れば、食糧で払って貰えないかな?
その方がありがたいんだけど」
「いいよ。
小麦?
それ以外が良い?」
「なるべくお腹に貯まる物が良いかな」
冬ごもりの食糧に不安があるのかな?
「芋とか?」と訊ねたら「そうして貰えると助かる」と頷いていた。
……なんだか、大変なことになりそうだ。
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