妹ちゃんと町に行こう!3
草原を抜けて林に着いたので、白狼君達には帰らせた。
彼らとしても、人間の町に近づきすぎるのは拙いと分かっているのか、素直に言うことを聞いてくれた。
それを見送っていると、後ろからイメルダちゃんの疲れ切った声が聞こえてきた。
「サリーさん……。
いつも、あんなに襲われているの……」
「う~ん、ほとんど襲われる事なんて無かったんだけどなぁ」
あれから、三回ほど魔獣に襲われた。
まあ、大した魔獣でなかったので、すべて一撃で倒せた。
おかげで、白狼君らもわたし達の護衛(?)の十匹以外はお食事にありつけていた。
護衛(?)の彼らにも、残って食べていいよって言ったけど、義理堅いのか何なのか、最後まで付いてきてくれた。
まあ、
狙われた回数、解せないと言えば、解せないんだよなぁ。
「いつもよりゆっくり走ってたから、狙われやすいのかなぁ」
いつもの三倍ほどはゆっくり走ってたし。
「あれより、早く……。
慣れれば何とか……」
イメルダちゃんの声に悲壮感がある。
言葉に出して言いにくいけど、
わたしは明るい口調で言った。
「まあ、帰りは帰りで考えるとして、町に行こう」
励ましの気持ちが含まれた言葉だったのに、イメルダちゃんは何故か冷たく言う。
「サリーさん、今、完全に
……まあ、否定は出来ないかな。
――
後は、何事も無く町の門に到着する。
門番のジェームズさんを見つけて「ヒィ!」と声を上げてから挨拶する。
イメルダちゃんが「え? 何?」と肩越しに聞いてくるけど、他の人間にとってはいつものことなのでスルーする。
門番のジェームズさんがおんぶしているイメルダちゃんに視線を向けながら「誰だ?」と訊ねてくる。
「わたしの妹ちゃん」
「……妹ちゃん?」
「妹ちゃん、可愛いでしょう?
お買い物に行きたいって言うから、連れてきてあげたの」
妹ちゃんこと、イメルダちゃんは身じろぎをする。
言葉は発しない。
家での打ち合わせで、人見知りの激しい妹分という設定で行こうという話になったのだ。
そうすれば、話すことも、顔を見せることも、極力回避出来るだろうという期待だ。
門番の若いお兄さんが「恥ずかしがってて可愛いね」とニヤニヤしつつのぞき込もうとするので、彼からは見えないように体をずらし、睨む。
「妹ちゃんにイヤらしい目を向けない!」
「え、いや、イヤらしいとか……」と言いつつ、目をそらしてくれる。
予定通り!
門番のジェームズさんが言う。
「その子の通行書が無い場合は、銅貨二枚かかるのだが」
「うん」
冒険者証のブレスレットを見せ、用意していた銅貨を渡す。
門番のジェームズさんは確認すると、「楽しんでこい」と言いつつ、あっさりと通してくれた。
ま、小さい女の子相手にそこまでしつこくしないよね。
町に入り、先ずは獲物の売却に、解体所へ行く。
皆がイメルダちゃんに興味津々も、解体所の所長グラハムさんが睨みを利かせてくれたのでトントン拍子で売ることが出来た!
グラハムさん、ありがとう!
代わりに、解体所から出た後に、ばったり出会った受付嬢のハルベラさんに「ちょうど良かった! 治療して欲しい人がいるの!」と引っ張られて連れて行かれた冒険者組合は酷かった。
「ちょっと呼んでくるね」
と受付嬢のハルベラさんが離れた隙に女性冒険者のお姉様方に囲まれてしまったのだ。
「え? 何々、妹ちゃん?」「もじもじして可愛い!」「干し葡萄食べる?」などと美人ながらも凄みのある顔に迫られて、イメルダちゃん、もう演技とかじゃ無い怯え方でわたしの背中にしがみついてた。
「この子は人見知りだから!」「この子の貸し出しは行わないから!」「もう、皆あっちに行って!」
と最後の方は怒鳴り気味に追っ払おうとするも、海千山千なお姉様方には中々通じないようで、ニヤニヤと笑いながら小動物を狙うハイエナのごときしつこさでイメルダちゃんを狙ってきた。
最後は、組合長のアーロンさんが「いい加減に止めんか!」と一喝し、追っ払ってくれたから、なんとかなったけど、もう、ここにはイメルダちゃんを連れてくるのは止めよう。
「ありがとう!
アーロンさん」
とお礼を言いつつ、イメルダちゃんを妹分だと紹介すると組合長のアーロンさんはイメルダちゃんを見下ろしながら「……ひょっとして、この子も強かったりするか?」などと言い始めた。
「強くは無いよ!
頭が良くて可愛いの!」
と答えると、なんか少しほっとした顔で「そうか……」などと言ってた。
それ、どういうこと?
それから、受付嬢のハルベラさんが連れてきた冒険者のおじさんらを五人ほど治療して報酬を頂く。
ついでに、山羊を売っている場所を確認する。
え、紹介状も書いてくれる?
安くしてくれるかも?
ありがとう!
冒険者組合から出た所、ちょうど入ろうとしていた赤鷲の団のアナさんにばったり出会う。
イメルダちゃんを「この子は妹ちゃん」と紹介しつつ、一人だけだったので「ライアンさんとかは?」と訊ねた。
すると、苦笑が返ってきた。
「団長もマークも、なんか、体調が悪いみたいで引きこもっちゃったの」
「え?
病気?」
心配になり訊ねるも、赤鷲の団のアナさん、困った顔をする。
「よく分からないの。
突然寒気がするとか言ったり、何か恐ろしい者に睨まれてるとか言ったり……。
あと、寝込んじゃったマークなんて『奴は……甘い物が……好きなんだ……』とかうわごとのように言い出したりするし」
「?
どういうこと?」
「本当に、”どういうこと?”よね」
ちょっと考えて、はたと思い当たる。
「あの二人、いくつだっけ?」
「え?
団長は十八、マークはわたしと同じ十七だけど」
ふむふむ、つまり現世でいえば高校生のお兄さんとお姉さんか。
「あれじゃないかな?
ほら、二人って子供って感じじゃないけど、大人と言うには若すぎる年齢じゃない?
なのに、甘い物を格好つけて我慢してるから、その欲求が本人の気づかないところで押さえが利かなくなってるんじゃないかな?」
「そう……なのかな?」
「そうだよ!」
甘味とは、三児の母という大の大人なヴェロニカお母さんですらおかしくする所があるんだもん。
まだまだ、明白な大人でない二人が変になっても不思議ではないのだ!
「そうだ、これを食べさせてあげて。
きっと良くなるよ!」
と言いつつ、荷物から林檎ジャムの入った瓶を赤鷲の団のアナさんに渡す。
「え?
あ、ジャムね!」
「わたしの自信作!
甘酸っぱくて、美味しいよ!」
「そうなの……」
赤鷲の団のアナさんは少し考えてから、ニッコリ微笑んだ。
「そうね、食べさせてみるわ」
そして、ちょっと悪戯っぽく「二人に食べさせるのは、ちょっと勿体ないけど」と笑った。
「食べさせてあげて。
また作ってきてあげるから」
と言うと、「そうするわ。ありがとう!」っと笑ってくれた。
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