異06系統 王都北門〜フォライディア大森林循環(左回り)〜王都北門

『次はタルリナ樹海。このバスは次の停留所を出ますと、交差点を左に曲がります』


 フォライディア大森林循環は右回りと左回りがあるので、乗り間違いの無いように曲がる交差点の手前で注意喚起のアナウンスが流れる。


 と、まあそんな路線バスのあるあるは置いておいて。

 今日も今日とてバスは異世界を行く。


 タルリナ樹海のバス停が見えて来たが、お客さんはいなさそうだ。

 通過しようとして、ふとベンチの上に何かあるのが見えた。


 ゴミ、にしては不自然だよね?

 気になったのでバスを停めると、その物体が急に動いた。


「うわぁ何!? ……あっ、失礼いたしました」


 思わず声を出してしまって、慌てて乗客に謝罪の言葉を述べる。


 にしても、本当にあれは何だ?

 試しに扉を開けてみると、それがぴょんと車内に飛び込んできた。


「わぁどうしよう入ってきたぁっ!」


 私はまたしても叫んでしまったが、動揺しすぎてお客さんを驚かせてしまったことにも気付かない。


 青色の液体っぽいそれはぷるんと震えながら、運賃箱の上に着地すると。


「これ、スライムも乗っていいのかい?」


 いきなり喋り出した。


「えっと、スライムってあのスライムですか!?」

「あのスライムがどのスライムか知らないけど、ボクはスライムだよ」


 驚きすぎて言葉を失う。


「で、ボクは乗っていいの?」


 問われて私は、そういえば魔物についての扱いはマニュアルに書いてなかったなと思い出す。

 う〜ん、どうしよう……? しばらく考えてから答えを口にする。


「魔物が乗車されると他のお客様に恐怖を与える可能性がありますので、人型以外のお客様のご利用はご遠慮頂いております」


 流石に魔物を乗せるのはまずいだろう。申し訳無いけれど断ることに。

 するとスライムは。


「そうか。じゃあ人型ならいいんだな?」


 そう言って、急にその場で飛び跳ねた。


 何事? と思った次の瞬間。

 なんとスライムが人間の姿になっていた。


「220ゴールド払えば良いんだよな?」

「は、はい……」


 呆気に取られながら、私はこくりと頷く。

 そのまま扉を閉め、バスを発進させる。


『このバスは異06系統、フォライディア大森林循環左回りです。次はセレンヤードの滝。王国騎士団からのお知らせです。最近、薬草の採集中に魔物に襲われる事故が増えています。採集者の皆様はくれぐれもご注意下さい』


 最近のスライムって人型になれるんですか? わりと当たり前みたいに変身してたし、お客さんも完全に無反応だったけど。


 あの〜、皆さん。スライムっていつから最弱キャラじゃなくなったんですか? お客様の中にご存知の方いらっしゃいませんか……?

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