メタルリバース

白い扉

第1話 始まりの出会い

「あ、う、」

 どうやら壊れた体に続いて声も出なくなってきたようだ。

 雨が降り注ぐ路地裏で彼女は自分の死を悟り、ゆっくりと意識を手放そうとしていた。

「大丈夫?」

 そう言いながら顔を覗き込んできたのは自分よりも年下であろう少女だった。

「た、て、ね、い、」

 自分が伝えたい言葉も伝えることが出来ない。

 それでも彼女はその断片的な言葉から意思を読み取ってくれた。

「まだ、生きていたんだね。わかった。ちょっと待っててね」

 彼女はそう言うと何処かへと走り去っていった。

 彼女は何がしたのだろうかと静かに降り注ぐ雨の中考えているとしばらくして彼女は一つの箱を抱えて戻ってきた。

 十数の少女が持つには似つかわしくない色々な工具が入った工具箱だ。

 その中からいくつかの道具を取り出すと彼女は私の胴体を開けて、回路をいじり始めた。

 そうしてしばらくすると

「よし、こんな感じでいいかな」 

 と言って私に喋れるか試してみてと促してきた。

「あ、あ、すごい。ありがとう」

 さっきまでとは全く違う。今までどうりに流暢に喋ることが出来た。

 その様子を見ていた彼女な満足気に頷いていた。

「それじゃあ他の部分も直していくね」

 と言って壊れた腕や足、剥がれ落ちた皮膚なんかをテキパキと直していった。

 そうして半日もしないうちに体は元通りになっていた。

 ひねったり、反ったりして動作を確認していく。

 どこにも以上がなく、今まで道理に動かすことが出来ていた。こころなしか今までより調子が良い気がする。

「ありがとう。すごいね、まだ若そうなのにこれだけ出来るなんて」

「私の両親が機械直したりする仕事してるのでそこで学んだので」

 そう答える少女。

「ほんとにありがと。何かお礼がしてあげたいけど生憎何も持ってないんだよね。私に何か出来ることってないかな」

 少し考え込んで少女はこう言った。

「なら少しお話してもらえませんか。せっかくこうやって出会えたことですし」

「わかった。私でよければ少しくらいの話し相手なれるかな」

 そうして近くの建物で休憩がてらお茶をいれて談笑を始めた。


「そういえばあなたの名前は何て言うの?」

「私はミラ。ミラ・ヴァーリアって言います」

「ヴァーリアって私と同じじゃん。って言ってもそんなに珍しい名前でもないか。私はリア・ヴァーリアって言うの。よろしくね」

「リアさんよろしくおねがいします」

 ミラと名乗る少女は日本人らしい漆黒とも言える黒いきれいなロングヘアーでこの世界でよくここまできれいに保てているなと私は感心していた。

 目は私が手術を受ける前の目と同じ紅色の瞳をしていて目を合わせ続けていると吸い込まれそうな美しさを見せていた。

「それでミラちゃんはなんでこんな場所にいるの?あなたほどの子供が一人で来るような場所ではないと思うんだけど」

 ミラは少し考え込んだ後、喋ろうとして言葉が出てこないのかまた悩み込んでしまった。

「そんなに言いにくいなら別にこれ以上は聞かないけど」

「あいや別にそんな悲しき事情があるとかはないです。ただ個人的な気持ちで中央から飛び出してきただけです」

「個人的な気持ちだけでよくこの世界をとびだせたね」

 私は素直に感心していた。なにより私と同じような悲しい事情がないことに安堵していた。

「それでリアさんはどうしてあそこまで壊れるまでになっていたんですか」

 ミラちゃんからの質問にどう答えようか少し迷ったがありのままのことを話すことにした。

「えっと、少し重い話になっちゃうけどそれでもよければきいてもらえないかな」

「はい。お願いします」


「えっとね私は昔は両親と一緒に極東にある日本って国に住んでたの。そこはサイボーク化の波はあんまり来てなくて生身の人間が多くいたの。けど世界でサイボーグ化が進むに連れて日本でもそうする人が増えてきたの。それで私も十三歳の時にサイボーク化の手術を両親と一緒に受けて今みたいになっての。それからも今までと変わりなく生活することが出来ていたんだけど私が十五歳の時に両親がどこかの外国に行ったきり帰ってこなくなったの。そしてそれから私は帰ってこない両親を探して一人で旅をするようになったんだ」

「そうだったんですね。それは大変ですね。それで両親はどこへ行ったのかはわかっているんですか?」

「まだ手がかりは何も掴めてないの」

「ならここから海を挟んである大陸に行ってみませんか。たしかアメリカって言う国があるはずです。そっちなら人も多いし、技術もたくさんあるので必然的に情報もあるかもしれませんよ」

「そっか。そうじゃん。すっかり忘れてたよ。ありがと」

 私は身を乗り出してミラの手を掴んでいた。

「いえいえ、お役にたてたのなら光栄です。それでなんですけど私も一緒についていってもいいですか?アメリカには私も行きたかったので」

「うん。一緒に行こう」

 そうして私とミラは一緒にアメリカへと数ヶ月かけて向かった。


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