ゲーム配信中のVTuberとマルチプレイした後日、クラスで人気者の美少女に絡まれた
夜見真音
第1話 VTuberとマルチした
銃のスコープを覗く時、俺は狩人の目をしていると思う。
ただし俺は軍人でも殺し屋でもない。ただの一般高校生であり、銃はゲームの中でしか握ったことがない。
照明が消された薄暗い部屋でモニターと向き合い、キーボードのWASDを押す。画面に映し出された自キャラが動き始め、待機エリアのマップを駆け回る。
俺が現在プレイしているのは、そこそこ有名なFPSゲーム。
基本プレイ無料で手軽に楽しめるが、突き詰めると奥が深い。ライトユーザーとヘビーユーザーでは動きが全く異なるゲームだ。
PvPに力を入れており、チームデスマッチやバトロワなどのゲームモードがある。
先ほどバトロワモードを選択して野良プレイヤーとタッグを組んだ俺は、ボイスチャットをオンにした。
『タッグよろしくっすー』
ヘッドホンから若い男性の声が聴こえた。どこか軽薄そうなチャラチャラした声だ。
『よろしくお願いします』
俺が返事すると試合が始まった。
だだっ広いマップの中を野良と一緒に動き回りつつ、落ちている武器や弾薬を拾っていく。しばらく探索して装備を整えた頃になると、辺りで銃撃の音が響き始めた。
近くで誰かが戦っている。タッグを組んでいる者以外は全て敵であり、見つけ次第撃っていい。俺は野良に提案をした。
『近くの奴ら倒しに行きませんか』
『いいっすねー。ガンガン前に出ていくタイプっすか?』
『ええ、芋るのは好きじゃないんで』
『俺もっす。じゃ、行きましょー』
俺と野良は駆け出し、近くで撃ち合っていたプレイヤーたちの争いに割り込んだ。二つのチームと俺たちが混ざって合計六人の乱戦になる。
周囲の障害物を盾にしつつ、敵の頭を狙う。綺麗なヘッドショットが決まり、敵の一体が沈んだ。野良も敵を撃ち倒している。
『ナイスー。上手いっすねー』
『そちらこそ』
お互い称賛しながらも撃つ手を止めない。やがて敵の全てが戦闘不能になったことを確認し、次のエリアへと向かう。
そうすることを繰り返していくうちに、気づけば生き残った者は俺たちだけになった。
『うおおお、俺たちの勝ちだ!』
『お疲れ様でした』
『いやー、マジ上手いっすね。結構やり込んでるでしょ?』
『まあ、そこそこ……』
『そこそこの腕じゃないっすよ。大会いけるレベルじゃないっすか?』
このFPSゲームはeスポーツ(ゲームをスポーツ競技と捉えて競い合うこと)の種目にもなっており、プロゲーマーが大会に集って勝負することがある。俺はプロじゃないし大会に興味ないので、野良の言葉は適当に受け流しておいた。
野良と別れた後は、チームデスマッチを選んだ。
こちらも二人一組の設定でプレイすることに。仲間が大勢いると意思疎通できる自信がない。コミュ障だからな。
『よろしくお願いしまーす野良さん!』
マッチングしたかと思えば陽気で高い声が聴こえた。
若い女性の声。俺と同じ高校生ぐらいの子だろうか。ふわふわした声音はいかにも作ってますといった萌え声で、俺の神経を逆撫でさせる。
『よろしくお願いします』
『実は今、配信してるんですけど、問題ないですかー?』
『配信?』
『そうそう、配信中なんです。VTuberのユイユイでーす』
なるほど、Vか……。
ってことは、俺の声も配信に乗ってるのか?
この『ユイユイ』というVTuberがどれだけの人気度なのかは知らんけど、もし大勢の視聴者に声を聴かれてるとしたら、めちゃくちゃ嫌なんだが。
だけど、ここで抜けるのも相手に気圧されたようで癪である。
『はあ……まあ、いいですけど』
『うわ、露骨にテンション低くなった。VTuber嫌いなのかな……ってか、その声』
『なんか変でしたか?』
『い、いえ! とても聞き取りやすくて良いと思います!』
当たり前だ。ボイスチャットで聞き返されないように日々の滑舌トレーニングは欠かさないからな。俺は陰キャだが、ゲームのためなら苦手な発声や他人との会話だって克服してみせる。
『じゃ、行きましょー野良さん!』
『はい。後ろは任せました』
『いやいや、私も前に出ますって!』
後ろにいてほしい。すぐ死にそうだし。
偏見なんだろうが、こういう萌え声の配信者でゲームが上手い奴を見たことがない。大抵は囲いの野郎どもにチヤホヤされたいだけで、ゲームと真剣に向き合っているとは思えなかった。
まあ、俺がサポートしてやればいいか。
VTuberが前に出るというので、俺は後方で支援することにした。
敵チームと鉢合わせした瞬間にVTuberがアサルトライフルを乱射する。AIMは意外にも悪くないようで敵に多少のダメージを与えた。もちろん敵も黙っておらず撃ち返してくる……前に俺がヘッドショットで沈黙させる。
『わっ、すごい! 一撃じゃん!』
『ユイユイさんが敵の体力を減らしてくれたので、楽に倒せました』
『いやいや、そもそも一発で頭撃ち抜いて倒すのが凄いからね!? 私なんて撃ち尽くしてリロード中なのに!』
無駄撃ちが多いからだ。AIMはそこそこなのにマウス押しっぱなしなんだろう。俺とマッチングするほどランクが高いのならタップ撃ちぐらい覚えておいてほしい。
『この野良さん、めちゃくちゃ強いって。今回は楽に勝てそーだね。え、他人任せになるなって? だいじょうぶ、野良さん優しそうだから、おんぶに抱っこでも許してくれるって!』
視聴者のコメントを見ているのか、VTuberの動きが明らかに鈍っている。こうなる予想はしていたので、次は俺が前に出て敵の相手をする。
敵プレイヤーを全て撃ち抜いて、相手チームは全滅する。久しぶりに十人抜きできて気持ちが良かった。試合が終わった瞬間、VTuberの歓声が上がる。
『ほとんど一人で倒すなんて、凄いです!』
『いや、まぐれですよ』
『もう~謙遜しちゃダメですよ! マジで凄かったですから! もしかしてプロの方ですか!?』
勢いよく褒め言葉をくれるVTuber。萌え声は相変わらずウザいけど、ゲームの腕を褒められるのは悪くない。適当に受け流しながらも、俺の心には充足感が積もっていく。
VTuberは興奮した様子で俺と別れた。
そういや、配信に映っていることをすっかり忘れていた。今更ながら恥ずかしくなってきたので、枕に顔を埋めて気持ちを落ち着かせるのであった。
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