異世界転生みたいな感じで現実無双します
にぎりこぶし2号
第1話 別にいいけど
眠い。いや、眠いというよりは起きるのがつらい。
秋も終わりに近づき、だんだんと布団が恋しくなってくる時期にアラーム一回で起きられるはずがない。
昨日何時間寝たとか寝不足とかそういうレベルじゃなくて今すぐ布団から出ろと言うのはあまりに酷い《むごい》。
それでも母親の甲高い声が何回か家中に響き、ようやく上半身を起こす。
大柄の男の声がしたのだが気のせいだろうか。
ふとそんな考えが頭をよぎる。何を言っているんだ自分は。そう思いながらもその考えが頭から離れない。しかし、今の自分にそんなことを考えている暇は無い。
親の小言を無視しながら出された食事の半分を食べ、急いで階段を登りカバンをとる。
ドアを開け、自転車の鍵穴に鍵が入らずイラつきながらスタンドを蹴り上げ、自転車を漕ぐ。
向かい風が気持ちよくなくて、ただ寒いと感じる季節になってきたと思う。山の中に入るとさらに気温が下がり、都会での冬ぐらいの寒さになるだろう。それぐらい服を着込んできている。
頭の中ではこんな風にあれこれ考えているが、下半身は常時全速力だ。最近は遅刻するかどうかのギリギリを狙っているが、30戦17勝13敗とあまり好成績ではない。今日はいつもより少し出たので、勝利確実だ。
ギィィィ…。錆びかかっているブレーキを強く握りしめ、隙間のない駐輪スペースに自転車をねじ込む。鍵を抜き、学校に入ろうとすると声がする。
「今日は帰ったほうがいいと思うよ。」
振り返ると中学生くらいの髪の長いきれいな目をした女子が立っていた。制服を着ているが、ここら辺の学校じゃない。
「あの…どういう意味…ですか?」
「そのままの意味。このままじゃあんた呪われるよ。」
そのままってどういうことだ?それよりもこいつは何者だ?そんなことを考えていると、チャイムが鳴った。驚いて腕時計を見て、顔を上げると、もうそこに彼女の姿は無かった。
なんだったんだろうあいつ。なんて言ってたっけ…。思い出せない。そしてあいつの顔も思い出せないことに気が付いた。
「夢か・・・?」
今起こったことが全く思い出せなかったので、僕は夢と思い込むことにした。
**************************************
ガララララララ。
扉を開けると、クラス全員の視線が僕に突き刺さった。
気まずい…。
「もうホームルーム始まってるぞー。早く席に着けー。」
担任の毎度の気怠い声が教室に流れる。僕は足早に席に着き、カバンを降ろした。
「ねえ、神谷今日も負けたの?」
後ろの席から朝倉が話す。容姿端麗で社交的な彼女は最近席が近くなってから仲良くなり、よく話すようになった。
「今日こそは勝てそうだったんだけどさ、なんか駐車場でボーっとしてさ。」
「あんた呪われてるんじゃないの?」
朝倉が冗談まじりに言う。
「そうかもな。」
僕も笑って返す。
「ねえ今度さ、一緒に…」
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ると同時に数学担当の山澤が入ってきた。
「なんか言った?」
「ううん。何でもない。」
と朝倉は作ったような笑顔で返す。
「そう。」
あとに続く言葉が思い当たらず、そこで会話は終わる。いつもそうだ。僕がいつも会話を終わらせる。別にいいけど。
そう思いながら、僕は山澤の声と難しい授業にいけず、ひんやり冷たい木製の机に顔をつける。
声がする。音がする。機械音の音が…大人の男の声も聞こえる。
「大丈夫ですか!?聞こえますか?」
なにか慌てているような大事のような顔でこちらを見てくる。誰だよお前。てか、ここはどこだ。たしか学校にいたはずじゃ。
「心拍数0のままです!このままでは危険です!」
は?何言ってんだこの女。俺はちゃんと生きてるって。そう思い右手を伸ばそうとすると、動かない。声も出ない。なんで…。そしてまた気を失った。
目を覚ますと、泣きわめく母さんと父さんの顔が見えた。なんで泣いてんだよ。平気だって。意識もあるし、何をそんなに…。
「あの子、元気だったんです。今日の朝もいつもと同じように家を出て、まさか、死ぬなんて。」
より大粒の涙を流した。
「死んだ?僕が?」
今ある状況に頭が追い付かず、混乱する。僕はここにいる、生きているって証明したいのに声が出ない。体が動かない。
なんでなんでなんでなんでなんで!
**********************************
葬式の日程が決まった。それまでに僕の友達や親戚や教師などが僕に手を合わせに来た。それを見るたびに、自分は死んだのだと強く感じる。涙も流せない自分に腹が立った。でも、一度だけ、最後に一度だけ、朝倉に会いたい。あいつの顔が見たい。
それ以外は何もいらないから。
葬式にはたくさんの人が集まり、僕の棺の周りいろんな物を置いてくれて、たくさんの言葉投げかけてくれた。でもいつか彼らの記憶から僕のことが消えていくんだと思う。
ポトっと何かが置かれた。それは僕が読んでる漫画の最新刊だった。誰が置いたのか見ると、、朝倉だった。
「私知ってるんだからね。神谷がいつも授業中隠れてその漫画読んでること。数学の授業は絶対に寝てること。あと意外に足速いこと。意外に優しいこと。それから、それから。」
そこまで言うと彼女は耐えきれなかったのか声をあげながら、他の人が引くレベルで泣き出した。よっぽど我慢していたのだろう。
「ねえ、声が聞きたいよ。もう一回喋りたいよ。2人でどっか遊びに行きたいよ。
ねえねえ」
「大好きだよ。」
もういい。もうなにもいらない。だってこんなにも幸せだから。朝倉に会えた。朝倉の気持ちを聞けた。朝倉が僕のことを好きになってくれた。もういい。 もう大丈夫だ。
そのあと僕は火葬される場所に運ばれた。広い暗い闇の中に。
熱い、、熱い、、痛い、。
そのあと俺の体は骨も残らなかった。
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