第32話昇級戦・初戦下




火球ファイアーボール


 俺は火球ファイアーボールを幾つも放ち目くらましと誘導に使う。


「ちっ! 小賢しいマネを!」


 ――――と言いながらも脚色あしいろが衰える事は無い。 

 よほどあの体制で走り込みの練習をしているのだろう。その努力には敬意を評したい。

 だが……


「はい。かかった」


 俺の方が一枚上を行く、俺が誘導した場所には条件発動する土系統魔術の【土杭アースピアス】を地雷のように配置してある。

 床板に使われた化粧石を突き破り、硬質化した土の杭が姿を現す。

 防御魔術シールドで受けるか、迂回し速度を落とすか二つに一つ。さぁどうする!


「ぬおぉぉぉおおおおおおおおおおッ!」


 大声を上げてジャックは空へ飛び立つ。

 走り幅跳びの選手顔負けの大ジャンプによって、俺の設置した土杭アースピアスを飛び越える。


「嘘やろ……」


 俺が唖然としていると………魔力で足場を作り速度を殆ど殺す事無く空を駆けている。


(地味に器用な真似を……)


 こうしてはいられない。俺は魔杖古剣・火樹銀花かじゅぎんかで強化した火球ファイアーボール空気弾エアバレットなどの遠距離攻撃魔術を混ぜて攻撃する。

 

「効かぬ! 効かぬ! 俺を止めたければもっと火力をださんかぁぁぁぁああああああああい!!」


 テメェは武蔵坊弁慶か! 


 正面からの攻撃では、奴自身の防御魔術を突破することは出来ない。


「ああっもう! どうにでもなれ! 魔刀術まとうじゅつ……」


 俺は魔力をたぎらせ右腕に集中させる。

 魔力を魔力のまま扱うには高い技術が求められ、現代の魔剣士でそんな芸当が出来る学生など両手の指で足りる程だろう……

 魔力が渦を巻き。腕の延長線上に魔力の刃を形付くる。薄氷の如き薄い刃が生成され刀身が薄っすらと光輝き、魔力干渉光が漏れ出る。


曼珠沙華リコリス・ラジアータ!!」


 鋭い踏み込みと同時に魔杖古剣・火樹銀花かじゅぎんかを振り抜いた。

刹那。

 10メートル以上は離れた間合いから魔力で出来た刃は、ジャック目掛けて飛翔する。全面を避け側面と背後目がけて飛んでいく――――


 防ぐためには速度を落とさなくてはならず、そのまま受けるには如何ほどのダメージかを判別する術がない。

 俺からすれば躱しても受けられてもいい。

二者択一を押し付ける事が出来る。


 退路を塞ぐように分裂した魔力の刃は、ジャック目掛けて収束するように襲い掛かる。


(捉えた!)


 分裂した刃が交差・収束する――――


ザジュっ!


 本来なら放射状に斬った敵の鮮血が飛び散る攻撃だが、今回はその全てが鎧の防御魔術シールドによって防がれ防御魔術シールドの耐久を削って行く――――

 しかし、限界を示すアラームが鳴ることは無い。


「クソ! 【エスクード】!」


 地面から盾と言うにはかなり大きな壁が出現し、ジャックと俺の視界を制限する。

 両者共に相手が見えない状態と言う訳だ。

だが仕切り直す訳ではない。

世に示すのだ。

新しいクローリー家の男の戦い方をッ!


 全てを読み切る頭脳を持った長男。異次元の剣術を修めた次男。全てに優れた三男。その誰とも違う俺だけの流派スタイルをっ!!


 本当は初戦でコレを使うつもりなど毛頭なかった。だが現に俺は今追い詰められている。この状況を打開するには本来の戦闘スタイルに戻す事だけだ。


「目隠しするなんて、クローリー家の四男はシャイボーイかよ! まぁ俺にはこの程度。障害の内には入らねぇんだがなァっ!!」


 舌戦に乗ってやるのも一興か……


「抜かせ! その壁を越えた瞬間お前と俺には越えられない壁がある事を思い知るだろう……降伏するなら今だぞ? 貴様の防御魔術体力ももう底を尽きかけているだろうに……」


「諦めろと言う奴ほど追い詰められている事を俺は知っている! 

獅子である俺様は一年坊主を狩る事にも全力を尽くすのさ!」


 舌戦をしている間に魔杖古剣・火樹銀花かじゅぎんかを鞘に戻して、愛刀である魔杖刀・流櫻りゅうおうに手を掛ける。

 刀を必要以上に見せる必用はない。

 抜刀術による神速の一閃を以って、何をしたのか気取られる前にカタを付ける。

 左手の親指が鞘とつばに斜めに置き鯉口を切る。後は抜刀し斬り付けるだけだ。

 俺は呼吸を整え意識を集中させる。

 ドゴン! と言う音を立てて、エスクードが崩れさる。

 瞬歩の応用で両足で同時に地面を蹴り、自分の身体を砲弾の様に打ち出す。

 ドン! 空中で横回転しながら鞘から剣を抜き放つ。

 

雷光の如き一閃――――

 視認不可能なレベルで繰り出された。空間を切断するが如き必殺の一撃が放たれ、背から相手の防御魔術シールドを削り切る。


ジジジジィ――――。


 慣性に従い進行方向に対して後ろを向いて着地する。


 目の良い奴には俺が刀を抜いた事はバレただろうが、その辺の凡人凡骨では気が付けまい。

 こうして俺は初戦に勝利した。




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