黒歴史暴露と報酬
「私の名はカズキ、この国の王だ。単刀直入に聞く。お前達は何が目的で我が国の領土に入った」
和樹はおれに気づく様子はなく、淡々と威厳のありそうな感じで話しかけてくる。
声もあの時と変わらない。
……当然姿の変わったおれに気づく様子も無し。そこはしゃーないとして、なんと言おうか。
おれの代わりにアメリアが先に自己紹介をする。
「アメリアです」
「ほう。となると、隣にいるそいつがシュンか」
恥ずかしいけどいたずら心でちょっと試してみたいことができた。
なのでおれはその場でひとつ咳ばらいをする。
「わたしはホワイト・ブラッド!」
結構高い、自分でもが腰が浮いてしまうほどの良く響く声を放つ。
その場でおれは右足を軸にアイドル風にターンを決める。
左足を少し浮かせ、手のひらを顔の横へと持っていきポーズを決める。
続きのセリフを今こそ言い放ってやる。
「存分に活躍してあげるからいっぱい、いーっぱい頼ってくれていいんだからね、先生!」
最後にウインクでフィニッシュだ、オルゥアァァ!!
「ブフッ!」
あっ吹いた。
アメリアが吹いた。
そして和樹もなんか目元を手で押さえて、なんだこいつって感じに装っているように見える。
見えるだけでわかる。あいつも多分気づいたんだと思う。腹がめっちゃひくひくしてるし。
あいつ母性を感じさせるキャラが好きだとか言っていたからなぁ。
だからあいつが熱中していたキャラクターのセリフを寸分の狂いなく言ってやった!
先生は和樹が一番好きだったゲームでの主人公の呼び名。
ホワイト・ブラッドに関しては……ネーミングセンスのないおれが付けた、今この身体の下になっているゲームのキャラ名だ。
直訳すると白い血。うん、ダサい。
「
「言ってなかったっけ? ホワイト・ブラッド」
「言ってませんよぉ!」
そうか。言ってなかったけか。
まぁいいや。
そんで今、付き人二人に解放されているそこの王様はというと、アメリアの言葉にビクンと身体が震えた。
ごほんとアメリアはひとつ咳払いをする。
「私達はどこの国にも所属してません。ですが、ある目的があって動いてるんです」
アメリアは冷静に和樹の問いに答える。
女神なのにおれより社交性あるな。
そんで早く和樹は再起動しろよ。いつまで腹抱えてんだあいつ。
なんて考えていたら、和樹は顔だけ上げ、あくまで見下している風に叫ぶ。
「そこの吸血
「姫姫姫連呼するなよ。恥ずかしい」
「いきなりおれを笑わせた罰だ。サレニアとホノア。後で案内してやってくれ。そいつは吸血鬼の上位種、吸血姫だが害はない」
和樹の言葉に両脇に居る魔法使いと騎士がお辞儀をする。
……思った以上に上手く言ったなぁ。信じてもらえなかったらもっと色々黒歴史を垂れ流してやろうと思ったんだが。
昔好きだった女の子に告白できず一日を費やし、次の日に彼氏がいることを知り、次の日からヲタク文化にのめり込む。
約一か月経った頃にあの日見た彼氏は女の子の弟だと知る。知った後でもう遅い。女の子は二週間前に告白してきた男子と付き合っていたって話。
アメリアが口を押えて絶句する。
「悲惨すぎませんか……? 女の子に弟がいるとアンジャッシュしたがゆえにそんな結末を辿るなんて。もっと酷いのはその話をしようとした俊さんです!」
「あくまで信じられなかった用だから。それでも白を切るようならあの時書いたラノベに対する感想を暴露する予定だった。それでも無理なら運動会当日に体操服を忘れて——」
あの時小学生だったからっていうのは分かるけど、女子から借りようとして大目玉を食うっていう話が面白くてな。
和樹が本格的に椅子から腰を上げる。おれを指さし二人に命令する。
「サレニア、ホノア。やっぱあいつ処刑で。なぜかは知らないが処刑したい気分だ。アンデッドの死を肴に一杯やりたい気分だ。隣の女神様は生かしておけ」
サレニアとホノアはさっきと180度違う対応に困惑気味にうろたえていた。
黒歴史暴露しようとしただけでそこまで怒るなよ。
器が小さいな、ホント。
アメリアは口元を抑えながら、引き気味におれを見てくる。
「器が小さいというか、俊さんが鬼畜なだけですよ」
トラウマを抉るのは基本。
ちょっとした話じゃあいつから聞いたで終わるからな。
問題はどうやって信用させるか。異能力がある世界じゃこれくらいは余裕で遭遇する出来事かもしれないけどさ。
流石にトラウマを抉るのにホワイト・ブラッドの姿は適さない。どちらかというと、涼乃俊の姿で出てきた方がよっぽど適切だ。
ある意味で、この姿だから和樹は信用に値すると判断したのかもしれない。
和樹はひとつ舌打ちを突く。
「これ以上変な話をされて混乱させられたら溜まらん。おれ自ら調教してやるからついてこい」
「調教はお前の好きなゲームでよくやってたもんなぁ」
「そろそろ口を縫い合わすぞクソが」
おれとアメリアは部屋から出ると、和樹の案内で場内を移動する。
両脇にはサレニアとホノアが護衛するかのように並び立つ。
王である以上、ひとりで出歩くことはできないんだろうなぁ。束縛されてんな。
かくしてカズキに通された部屋は客間のようだ。
見栄えは廊下と大して変わらない。客用に小綺麗な程度か。
和樹はソファーに座ると、対面に来るように「座れ」と促してくる。
護衛の二人はいつでも対処できるようにか、和樹の後ろについた。
言われた通りにおれとアメリアはソファーにつく。
もう態度を隠そうともせず、和樹はソファーに背中を預ける。
「でだ。お前、本当に俊か? なんで姿かたち変わってんだよ」
「それはおれの能力がゲームキャラになる能力だからだ。内容としてこのキャラに関するゲーム機能、ログアウトやコンフィグ、設定を抜いた機能。以外の具現化、力の行使を可能とする。そのまんまゲームキャラの身体能力だし、アイテム使えるし、魔法もスキルも使えるよってこと」
「なんだよそのチート。直前に遊んでいたゲームが主人公最強の無双ゲームだったら良かったのにな」
んなゲームあるわけないだろ……。ゲームですらねぇじゃん。
和樹は面白そうに訪ねてくる。
「しっかし二十年前と全然変わんねぇなお前! もう三十代くらいだろ? ちったぁ歳を感じさせると思ったんだがなぁ」
「二十年前? お前が居なくなったのは二年前だぞ?」
和樹の顔が硬直する。
これはどういうことだと、おれはアメリアへ目を向ける。
「えっとですね。ここの世界と向こうの世界は十倍くらい時間の流れる速度が違いましてね? なので、こっちでは老いるのが十倍くらい遅いって……言いませんでした?」
「時間と空間の概念歪み過ぎじゃね?」
「異世界なので。大体前担当の神のせいです。ほんと、混沌を司るあの神は」
ニャルラトホテプかな?
確かにあいつだったら楽しそうの一言で干渉してきそうだしな。
和樹は分かりやすく頭を抱えて狼狽する。
「おれだけこいつよりも年とったとか信じたくねぇ」
「お前も見た目はまんまだけどな」
「だとしても精神的にな」
……その辺はようわからないわ。
年齢に関しては特に知らん。語れるほど取っていない。
次何を話そうかと考えていると、隣のアメリアから「俊さん俊さん」と脇腹を突かれる。
そうだったとおれは話を戻す。
「それでそう、話を戻してなんだけど。何でおれがここに居るかを話そうか」
おれがこの世界に来た経緯やここに来た理由について話すと、和樹は昔よく見せていた真剣な表情となる。
それからやれやれとばかりに首を振った。
「だいたい分かった。つまりお前は、異世界召喚を止めるために来ていると」
「そうだ」
「そう来たかぁ……。マジかぁ……世界滅ぶのは勘弁だな。子どもいるし」
「へぇー……子どもいるの!? お前結婚してんの? ナンパとかいつも無視されていたお前が? ヲタク趣味に走っていたお前が!?」
「ブーメランって知ってるか? クソ野郎」
へぇ~、和樹が結婚ねぇ……。
やばい、なんか心の中で焦りが生まれた。こう、こいつですら結婚できるのにおれは彼女作れないのか的な。
アメリアは……なんかなぁ。うん、なんか要因として見れない。
アメリアがおれの頬を横から突いてくる。
「真面目な話、もう異世界召喚をしないで欲しいんです。このままではあちらから神がやってきて世界崩壊しますよ? ケルト、ギリシャ、北欧、日本。神々なんて星の数より多いんですから」
「やってねぇよ、おれの国は。少なくとも異世界転移で呼ばれた奴が王をやっている国ではやってねぇんじゃねぇのか?」
おれがアメリアに目を向けると、コクリと頷く。
アメリアは基本嘘つかないから、ここら辺は信用できる。
それにと和樹が人差し指を上げる。
「戦力の補充ができなくなるのは全世界同時だろ? もう転移者、異能力者に苦しめられることも、苦しませることも、殺すことも無くなる。メリットしかない。おっし、この件についておれの国は全力でバックアップしてやるよ」
「……サンキューな」
「良いってことよ。だが、お前のやることは今やこの世界すべての国を敵に回すものだ。当然、表向きでお前をサポートするとは言いにくいし、何だったら敵対しているとも答える」
「別にいいよ。おれが死んだらアメリアが何とかしてくれるだろうし。何よりもさ。それで世界が滅びるんだ。自業自得だろ?」
世界が滅びることになったら天井から皆々様を嘲笑うとするよ。
異世界に住む住民全員をね。
和樹は「さて」と口に出し、にっこりと気持ちの悪い笑顔を浮かべた。
「ホワイト・ブラッド? 報酬の話に入ろうか。まさか、全国を相手にするバックアップしてやるって言っているのに、報酬が無いとは言わないよな?」
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