たっきゅーと!~アイドル×卓球~

木春凪

プロローグ

終わりと始まり!

 最後の曲のアウトロが流れている。この曲が終われば、彼女は二度とステージに立つことはない。周りを見渡すと、虹色に咲く花たちが彼女を明るく照らしてくれている。応援し続けてくれたファンのペンライト。とっても綺麗で思わず笑みがこぼれる。


 本当はもう少し大きな会場で、最後のステージができたのかもしれない。それでも彼女は最後の舞台を、この小さな体育館に決めた。その体育館は、彼女が初めて歩みだしたスタートラインだった。


 あの頃は応援してくれる人たちなんて、両手の指の数に届かないくらいだった。それでもいまは、ファンでいっぱいにできている。本当に感謝しかない。


(私は少しでも、アイドル界、卓球界、たっきゅーと!に貢献できたかな)


 曲が終わり、ステージは静まりかえる。辞めないで、お疲れ様、夢をありがとう。そこに多くのファンの声が響く。


(ううん、きっと届いたはず)


 彼女は溢れそうになる涙を堪えて、笑顔でファンに両手を振る。右手にはマイク。左手には卓球ラケットが握られている。ずっと一緒に戦ってきた相棒とも、一緒にこのときを迎えたかったのだ。


 彼女はファンの声を聞きながら、ゆっくりとステージを進む。その途中、いままでの道のりが、走馬燈のように思い出された。苦しいことも悲しいこともあった。それでも、関係者の方、ファンや仲間、全てに支えられ、一歩一歩進んで、ここまでくることができた。


(私の物語は、ここで終わりね)


 彼女の進む先には、一台の卓球台があった。先ほどまで激しいたっきゅーと!が繰り広げられていた場所だ。そこにたどり着くと、両手に持っていたマイクとラケットをそっと卓球台の上に置いた。これはバトン。彼女が思い描く、次の世代、未来へ向けた思い。


(私が次にしたいことは、もう決まっている)


 そして彼女が振り返り、ファンに向かって頭を下げると、大きな歓声が沸いた。顔を上げた彼女は、二度とこの光景を忘れないだろう。


(一人でも多くのアイドルに、この景色を見せてあげたい。この興奮を感じさせてあげたい。たっきゅーと!を楽しんでくれた人、憧れてくれた人の花を、一つでも咲かせたい……!)


 彼女は叫んだ。


「たっきゅーと!は、最高のエンターテインメントです!」


 届いて欲しい、一人でも多くの人へ。


 一人のたっきゅーと!のアイドルの物語が終わり、新しいたっきゅーと!のアイドルの物語が始まる。 

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