第9話怒り
あの日以降、須美からの私に対する嫌がらせが始まった。
授業中や休み時間中にわざと聞こえるように悪口を言ってくることは日常茶飯事だ。
私は、須美と一緒に居ることが苦痛になり、昼食を一人で食べることにした。
放課後はわざと委員会の仕事に時間を掛けて須美と帰りが被らないようにする事もあるくらいだ。
今日は図書委員の仕事をギリギリの時刻までやってから帰ることにした。
徒歩で家まで帰っていると、ふと須美の声が聞こえてくる。
「ねえ、なんでみんなは優香みたいな奴と友達で居る訳?あんな奴と付き合うの辞めたら?」
相変わらず私の悪口を言っているみたいだ。
「そんなこと言っちゃダメだよ…?」
ふと明日美の声も聞こえてくる。どうやら千夏だけではなく明日美達も居るみたいだ。
「そうだよ。友達の悪口を言うのはやめた方がいいよ。」
「そのような事を言うとは感心出来ぬな。」
一翔と五郎が須美に対して注意してくれる。それを聞いた千夏も一緒になって言ってくれる。
「そうだよ。なんで優香の事を悪く言うの?」
けれど須美はお構い無しに私の悪口を言い続ける。
「だって優香ってうざいじゃん。いちいち見返りを求めてくるし。」
私がいつ須美に対して見返りを求めた?須美の言い草に腸が煮えくり返るような思いになる。
おまけに須美は千夏だけではなく、明日美や一翔、五郎にも私の悪口を吹き込んでいた。
そして、曲がり角に差し掛かり、千夏達と私は顔合わせになってしまう。
全身から汗が吹き出るのを感じた。嫌だ。今は気まずいから誰とも会いたくないのに。
「あら、優香じゃない。」
「優香ちゃんだ!」
「葛生ちゃん。」
「これは、葛生殿。」
千夏達が私の顔を見て声を掛けてくれる。けれど私は彼ら彼女らを無視して走り去った。
申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれどそうするしかなかったんだ。
後で千夏達に事情を説明した方がいいのかもしれない。
そして、何よりも千夏達が須美と一緒に居ることが耐えられなかった。
出来ることならば千夏と明日美、一翔と五郎を須美から引き剥がして私の物にしてやりたい。
あの時、須美を小百合達から助けなければ良かったんだ。
ずっと須美に嫌がらせを続けている小百合に笹江、悠里のことを酷い奴だと思っていた。
けれど小百合達も須美から嫌がらせを受けていたのかもしれない。
その結果、我慢の限界がきてしまって須美を攻撃するに至ったのではないかと思ってしまった。
千夏と明日美は愛想が良くて誰にでも優しい子だし、一翔や五郎も寡黙だけれど優しい性格をしている。
優しい千夏達のことだからきっとこれからも須美のことを小百合達から庇い続けるに違いない。
そんな千夏達の優しさが、少しだけ歯がゆかった。
その日、家に帰って課題を済ませていると、誰かから着信があった。
見てみると、千夏と明日美と一翔からだった。どうやら気を使って須美の居ないグループチャットを作ってくれたらしい。
『もしもし、優香?』
千夏の声がスマホから聞こえてくる。
『優香ちゃん、大丈夫?あまり無理しないでね。』
明日美が心配そうな口調で言った。
『葛生ちゃん、佐藤ちゃんと何があったの?』
一翔が単刀直入に聞いてきた。私は少し考えてから
「少しだけ須美ちゃんと揉めてしまって…」
私が口ごもっていると
『葛生殿、聞こえるか?』
五郎の声が聞こえてくる。どうやら一翔のスマホから通話に参加しているみたいだ。
『うん。ちゃんと聞こえている。』
私は小さな声で答えた。
『優香と須美、喧嘩でもしたの?』
千夏が私に疑問を投げかけてくる。恐らく千夏はもちろん、明日美や一翔、五郎も思っていることだろう。
『分からないの。気が付けば勝手にこじれてた。須美ちゃんとはお互い謝って仲直り出来たはずなのに。』
あの時は須美と仲直り出来たのだと思った。けれど、それは私の勝手な勘違いだったんだ。
『それで佐藤ちゃんが葛生ちゃんの悪口を言うに至った訳?』
一翔の言葉に私は「うん」と頷いた。
『しかし分からぬな…。佐藤殿の気持ちが。何故葛生殿の悪口を言う必要があるのか。』
五郎の言うことは最もだ。私だってなんで須美がああなってしまったのか分からない。
『ねえ、優香。あまりにも酷かったら私達で須美に直接注意するからね。』
千夏がそう言ってくれるが、私は首を横に振った。
『別にいいよ。そこまでしてもらわなくても。』
千夏達が須美に注意することで、嫌がらせの矛先が優香達に向いてしまう恐れがあったからだ。
そうなってしまうことはとてもじゃないけれど耐えられない。
『しかし、このままでは葛生殿が…。』
『いいの。千夏ちゃん達が巻き込まれるよりは良い。』
私がそう言うと千夏達は黙ってしまった。
『そろそろ課題に取り掛かるから。』
私はそう言うと、通話を一方的に切ってしまった。
千夏達には悪い事をしてしまったかもしれないが、私と須美との問題に巻き込まれる可能性を考えたらこうするしかなかった。
これで良かったんだ…。私はそう思う事にした。
次の日、図書委員の仕事を終わらせてから帰っていると、須美が友人らしき他校の生徒と一緒に居るのが目に入った。
「ねえ、優香が私の事を付けてきて怖いんだけど…。」
須美がまた私の悪口を吹き込んでいるみたいだ。
「マジで?何それストーカーじゃん…怖っ…!」
須美の友人らしき人は私の悪口を間に受けているみたいだ。
須美をストーカーした覚えはないし、私に対する悪口は全部嘘なのに…。
いつからこんな事になってしまったのだろうか?私はいつしか須美の事を心の底から憎むようになっていた。
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