第1話 新しい友達

 高校2年生になってまだ数日しか経っていない頃。朝の読書の時間でのことだった。

 斜め前の席に女子生徒が困り果てた様子で立ち尽くしているのがふと目に入る。

 確か彼女は2年生に入って初めて同じクラスになった、佐藤須実だ。

 彼女は今にも泣きそうな顔で自分の机を眺めていた。

 須実の視線の先には、チョークの粉で汚された机があった。

 彼女は拭くものを何も持っていないのだろう。ただ、どうすることも出来ずに困り果てていた。

 私は考えるよりも先にウエットティッシュを取り出して彼女に渡す。


「大丈夫?良かったらこれ使って?」

 須実は小さく頭を下げると私の手からウエットティッシュを受け取る。

 そして、チョークの粉まみれになった机をウエットティッシュで拭いていく。


 どうやら須実はクラスでもよく目立つタイプの女子生徒である小百合、笹江、悠里から嫌がらせを受けているみたいだった。

 その証拠に粉まみれになった机の前に立ち尽くしている須実をみて小百合達は意地悪そうに笑っている。


 聞いたところによると、元々須実は小百合達と大の仲良しだったみたいだ。けれど、何時しか仲が拗れてこんな事になってしまったらしい。


 私は、須実に嫌がらせをする小百合達に嫌悪感を抱いていた。いくらなんでも困っている様子を見て楽しむだなんて狂っているとしか思えない。

 その時、私は須実を助けてやりたいと心の底から思った。


 その日の昼休みのこと。私は幼なじみの千夏と机をくっ付けてお弁当を食べていた。

 千夏は私の5歳の頃からの幼なじみだ。160センチを超える高めの身長に綺麗な黒髪に目鼻立ちの整った顔立ち。誰の目から見ても美少女であると言えるだろう。

 私はそんな千夏を幼なじみに持てたことを何よりも誇りに思っていた。


 ふと、視界の端に一人でお弁当を食べている須実が目に入る。

 私が一緒に食べようと声をかける前に千夏が席を立ち、須実に向かっていく。

 そして、穏やかな笑顔を浮かべながら

「ねえ須実ちゃん、良かったら私達と一緒に食べない?」

 と彼女に声を掛ける。須実は一瞬キョトンとしていたがやがてゆっくりと頷いた。

 それから千夏は椅子を私の隣に持ってくると須実に向かって笑顔でおいでと手招きをする。

 須実はゆっくりと私たちに向かって歩み寄ると、千夏が置いた椅子にゆっくりと腰を掛けた。

 そしてゆっくりとお弁当の残りを食べていく。私は須実のことをまじまじと眺めた。

 緩いウェーブの掛かった栗色の髪の毛は肩まで伸びていて、顔立ちは素朴だがそれなりに整っている。

 身長は150センチ台半ばから後半くらいと平均的だ。


「ねえ、須実ちゃん。得意な科目と苦手な科目は何?」

 私は卵焼きを頬張っている須実に声を掛けた。彼女は少しだけ迷った素振りを見せながら一言。

「得意科目は現代社会で苦手科目は古典かな。特に漢文が苦手。」

「そうなんだ。私は逆に苦手科目が現代社会で得意科目が古典かな。私と須実ちゃんは正反対だね。」

 そう言いながら私はたこさんウィンナーを口に運んだ。話した感じ須実は悪い子では無さそうだ。

 この時、私は須実のことをもっと知りたい。そして、もっと仲良くなりたいと思っていた。


 お弁当を食べ終わり、机と椅子を元に戻していると千夏が

「ねえ、優香ちゃん。これからは須実ちゃんも混ぜていいかな?」

 と私に提案してくる。私は丁度彼女のことを知りたいと思っていたので迷いも無く頷いた。

「うん。いいよ。私も須実ちゃんと仲良くしたいと思っていたところだから。」


 その日から私と千夏は須実と登下校を共にするようになった。

 また、グループチャットを作って三人で沢山話をするようにもなった。

 私は、須実と日に日に仲良くなれて嬉しいと思っていた。


 だから、後々あんなことになるだなんて思いもよらなかったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る