第9話 マリニアの適正

 マリ二アは良くも悪くも素人だった。

 どのように良くも悪くもないのかと言うと、悪く言えばへっぴり腰の素人丸出しだが、良いのは悪い癖がついていないので修正が可能な事だ。だから、きちんと稽古を付ければ剣士にも成れなくはない。

 真面目そうなので、俺の言う事を聞いてくれればだ。


 攻撃魔法については現時点では全くと言っても良い程駄目だった。

 魔法を使った事がないと言う。

 ステータスカードを見ると、現時点で使える魔法は身体強化系の魔法だけだったが、魔法自体は使えるので、まともに冒険活動をする前に何かの属性の攻撃魔法を身に着ける事は可能だ。


 マリニアは小柄な体を生かし、俺の懐に入って来れたりはする。

 ただ、動きが丸見えの為、何をしようとしているのか予測がつきやすいので、身を翻すまでもなく軽くあしらっていた。


 思ったよりもすばしっこいので、本来盗賊系のジョブと相性が良いのではないかと思う。

 盗賊系のジョブと言っても持っているからといっても悪人ではない。

 そういう括りになっているだけで、犯罪者用のそれではない。


 もしそうならば、得意なのは斥候やそれに役立つ隠密行動、ダンジョンや冒険に行った時に役に立つ罠解除等、前のパーティーの時に俺がさせられていた役目が可能なギフトや付随スキルだ。


「なあマリニア、これから冒険者としてどういった方向でやっていきたいか希望などあるのか?」


「その、何が出来るのか、ギフトが何に向いているのか分からないし、剣もまともに握った事すらないから、逆に何に向いているのかを知りたいんです。それから決めようかなと」


 マリニアにどういう方向でやって行きたいのかを聞くと分からないとしか答えなかった。

 魔物や動物、犯罪者を殺す事に対して忌避感などはないとは言っていた。


 ただ、魔物すら殺した事もなく、実際に殺せられるかどうかも分からない。

 なので俺はマリニアの方向性を見いだす為の材料を与える事にした。


 その上でマリニアに伝える事を考えた。


「そうだな。マリニアの体格や敏捷力からは、盗賊系のジョブと相性が良い動きに見える。剣の方は良くも悪くもクセがないので、きちんと教えればそこそこの腕にはなると思うぞ」


 そう伝えたが、勿論本人のやる気次第だ。


「ボクはランスタッドさんの役に立てるようになりますか?」


「心配するな。ほら今はまだ15歳と子供だから仕方がないが、これから鍛えればなんとでもなる」


 体が細過ぎるし、筋肉もまるでついていない。やる気だけはあるようだが前途多難である。

 だが、仲間にした以上少なくとも他のパーティーでやっていけるだけの基礎をつけてやりたい。

 ポンポンとその細い肩を叩く。


「さてお前の方向性だが、その前に何のスキルを持っているというか、開放されている?またギフトは何だ」


「はい!探検者のギフトで、発現しているスキルは隠密だけです」


「なんとなくそんな気がしていたよ。隠密を持っているのはなんとなく分かっていたが、探索者とは意外だな。なぜ探索者を持っていて追放されたんだ?そいつらは目先の事しか考えなかったのか?」


「どういう事でしょうか?」


「うーん。マリニアは自分のギフトがどういったものか分かっていないのか?これはダンジョンを探索したり、見知らぬ土地を探索する者にとっては喉から手が出る程欲しいギフトの持ち主だぞ。各地を飛び回る上級冒険者達ともなると、パーティーに1人いればありがたい!そう言う大切なギフトだ。普通は大当たりのギフトの持ち主として、今後の事を考えて大事に育てるものなんだ。だが使いどころが限られる能力になるので、初心者の討伐依頼などにはあまり役に立つスキルが無いのも事実だ。だから目先の事しか考えなかったのかなと俺は思う」


「そんなに良いギフトなんですか?」


「斥候も得意だし、魔物などの気配察知に優れていて、そこそこの剣のスキルもある。斥候、後方支援者の護衛など、多岐に渡り活躍できる。特にダンジョンなどではその能力が遺憾なく発揮されるので、ダンジョン攻略をやっている者達からするとかなりの良スキルだ。ただ、初期がかなり辛い所があるので、先を見越して初めの頃の弱さに目を瞑る事が出来るかどうかに掛っている」


 マリニアはきょとんとしていた


「聞こえが良いように伝えるとだな、俺の万能者のように色々な方面で活躍できる汎用性の高いスキルだ 。ともすれば俺のように器用貧乏になりがちだから、どこか1つは伸ばす方面を定めた方が良い。先ほど初期が辛いと言った事は俺がちゃんと鍛えてやるから、初期でもなんとでもなる!そのような力を身に付けさせてやる。だから胸を張って俺の仲間となればいい。マリニアは舵取り次第で化けるいわゆる原石だ。ただこの人数だと遠からず壁にぶち当たるので、いずれは仲間を増やした方が良いかもわからん。仲間を増やした方が良いかもというのはだな、例えば野営の時に2人では見張りがどうにもならないからな」


「ボクは色々な所を旅して回りたいなと思っていたけど、可能なの?」


「ほら、自分の想いがちゃんとあるじゃないか。その想いがこの良ギフトを引き当てたようだな。こんな話しを聞いた事はないか?偉い学者さんの言うには、得られるギフトってのはその本人の潜在意識にある想いを実現させる可能性が1番高いのになるって言っているんだ」


「その話しって聞いた事はあるけど、都市伝説の類じゃないんですか?」


「少なくとも俺とマリニアには当てはまるぞ!俺の万能者は何でも器用にこなす事が出来るが、中級までだ。それらを組み合わせて上級者と渡り合うギフトだけど、俺にはもう1つギフトが有るのは知っているか?フューチャーっていう今まで誰も持っていない謎ギフトだが、特質の1つに仲間を強くしたり、経験値がより多く入るのがあるんだ。俺は仲間と共に楽しくやりたいなと子供の時から思っていたけど、どうやらその想いに合致するギフトだ。ただな、俺自身に対しては大器晩成型としか分からず、あいつは俺が化けるのを待てなかったようだ」


「あのう、ランスタッドさん?そ・・」


「ランスタッドだ。さん付けをやめろ!」


「えっ?」


「対等な仲間としてお前には接して欲しいんだ。駄目か?」


「ううん。じゃあ、遠慮なくランスタッド!宜しくお願いします!」


「その馬鹿みたいに丁寧な口調は無理か。何を言い掛けていたんだっけ?」


「その、追放した人を恨んでいるの?」


「どうだろうな。唯一仲の良かった奴に俺を追放する旨を言わせるあたり人として終わっていたな。まあ、確かに俺はマリニアに出会う前は酒に溺れて腐っていたが、潮時だったかもな。それにこうやってマリニアと出会えたし、敵対行為をされない限り、もうただの知り合いかな。そっちはどうなんだ?かなり苦労していたんだろう?」


「ランスタッドと同じだよ。最初は悲しんだし恨んだりしたよ。それに草置き場で毎夜涙でシーツを濡らしたけど、こうやってランスタッドと出会えたし、寧ろ感謝しているよ!」


 俺達は同じかぁと笑いあい、夕方まで訓練をしていた。


 因みにオークを小出しにしているのには幾つか理由がある。


 1 目立たない為


 2 ギルドの貢献値稼ぎ。1度に大量に出しても、常時依頼ギリギリの2匹で出しても1回の貢献値は変わらないから、何度かに小分けする方が貢献値は高くなる。


 3 場に慣れさせる

 マリニアにも依頼達成報告をさせたりし、こういったギルドでのやり取りに慣れてもらう


 等々だ。


 帰りに俺は寄り道があるからと、オーク2匹分の討伐証明部位と魔石を渡し、ギルドで常時依頼の報告と換金をお願いした。

 大した額にはならないから必要な物、例えば替えの服や下着を買うように言いつけた。

 しのごの言いそうだったので、みすぼらしい格好をしていると俺がマリニアを虐めているように見られるから買っとけと強引に渡した。

 また、何を買ったか後で見るからなと言うと困った顔をしていた。


 俺はと言うとマリニアと別れてから真っ直ぐ情報屋へと向かったのだった。

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