第2話~春斗の想い~

 この学校は全寮制。同じクラスの人と同室になるから、入学式後に部屋割りが発表される。頼むから、夏海と一緒でありますように…。

「あ、咲希、私たち同室だよ!」

「ほんとだ!!よかった~、他の人と一緒だったらどうしようって思ってた~。」

 掲示板を見てはしゃいでる咲希と夏澄を夏海と微笑ましく思いながら掲示板を見る。

「お、春斗。俺たち同室みたいだぞ。」

「ほ、ホントか!」

「ほら、あそこ。」

 夏海が指をさす先を見ると俺と夏海の名前は並んでいた。

「ほ、ホントだ…。良かった…。」

 そっと胸をなでおろしたのを女子二人は見ていた。

「よかったな、二人とも。俺も夏海と一緒だった。」

「そうなんだ、良かったね!」

 余裕そうにそう言って掲示板から離れる。

「そうだ、夕飯一緒に食べない?改めて自己紹介しようぜ?」

「そうだね。じゃあ、六時ころに食堂前でどう?」

 夏海と夏澄がそう言って予定を決める。そう言えばちゃんと自己紹介してなかったな…。

「賛成!じゃあ、後でね。」

 そう言って俺たちは、それぞれの部屋に向かった。


 部屋に入って二人それぞれに、荷解きを始める。しばらく、黙々と作業していると「ちょっと休憩…。」と言って夏海の手が止まった。

「あ、その写真、持って来たんだ。」

「ああ、大事な写真だからな。」

 夏海が言ったのは、机の上にある咲希と俺の小さいころの写真。二人の間には男の人、俺の目標の人だ。

「目標か…。俺も会ってみたいな…。」

「俺ももう一度会いたいけど、連絡先とか知らないからな…。ま、小説書いて有名になれば会えるって信じてるからな。」

「そうだな、頑張ろうな!」

「おう!」

 夏海にそう言われて、拳を合わせた。

「あ、そうだ!四人でこれから作る小説のカテゴリーとか考えるか?」

「いやいや、あの二人もいなきゃダメだろ。」

「あ、そっか…。なんか楽しみだよな。」

 夏海はしみじみそう言う。

「確かにな…。」

 あの二人と、夏海と、一つの世界を作り上げるってことだ。どんな、世界になるか、楽しみだ。

「さ、再会するぞ。」

「へーい。」

 そう言って、荷解きに戻った。


 荷解きをするうちに、時間になっていた。

「夏海、そろそろ行くぞー!」

「おお、もうそんな時間か…。」

 そう言って、二人で食堂へ行く。入口前で待ってると女子二人が息を切らして来た。

「ごめん、待った?」

「いや、今来たとこ。な?」

「ああ、だから気にしないで。それより早く入ろう。」

「そうね、入ろう!」

 食堂に入って、ご飯をもらって、席に座ったところで自己紹介が始まった。

「じゃあ、先陣切って私から!大原夏澄です8月8日生まれ。中学でバドミントン部。頭がいいわけでもないけど、ポジティブな性格が取り柄です、よろしく!…次、咲希ね。」

「え、わ、私!?」

 いきなり言われて、驚いている咲希に夏澄が「早く早く」と急かす。おどおどしながら咲希は始めた。

「えっと、小美野咲希です。3月18日生まれ。中学の時は文芸部で短編小説を書いてました。夏澄ちゃんと逆で、性格は暗いですが、明るい話は大好きです。よ、よろしくお願いします。」

 一生懸命話してる姿を見て、なんだかかわいく思えた。思わず小さく拍手をしたけど、咲希が何だか嬉しそうだったから良しとしよう。

「すげえ、小説作ったことあるんだ!」

 そう言ったのは夏海。おい、俺もそれ言いたかった…。

「う、うん…。見せられるようなものじゃないけど…。」

「いいじゃん、今度見せてよ~。」

「…じゃあ、今度ね。」

 俺も読みたい…。今度頼んでおこう。

「じゃあ、次は俺!」

 夏海が先に手を挙げた。仕方ない、譲ってやろう。

「うおっほん!俺は上島夏海!7月20日生まれ。帰宅部で習い事で、小中合わせて6年間空手やってました。こんななりだけど、やる男だと思ってます。よろしく!」

「夏海でいい?」

 夏澄が聞くと、夏海は頷く。ってか、この二人の距離の詰め方、異常だろ…。

「空手やってたってことは健全な精神の持ち主?」

「おうよ!すげえ清らかだぞ!」

「ほう?体育や水泳の時に『女子の着替え覗きたい!!』って言ってたのは誰かな?」

「か、勘弁して…。」

 夏海に容赦なくツッコんでやると、咲希たちは笑った。

「さて、最後は俺だな。」

 落ち着いたところで俺も自己紹介することにした。

「小牧春斗です。4月10日生まれ。俺も中学ん時は帰宅部で、家に帰って本を読み漁ってました。読みたい本とかあったら、家にあるものだけなんだけど実家から持ってくるから、言ってください。」

「えっと、本ってどれくらいあるの?」

 咲希が、手を挙げてそう言った。

「ん?そうだな…父さんと共有だけどでかい本棚3つかな。」

「「み、3つ!?」」

 これこそ異口同音という感じで咲希と夏澄は言った。

「春斗中学ん時めっちゃ本読んでて、『がり勉』って言われてたんだ。」

「ちょ、言うなよ!」

「さっきのお返しだ。」

 夏海は余計な事を言うと舌を出して挑発する。後で覚えてろよ…。

「ふふ、仲いいんだね。」

 咲希は笑いながらそう言った。小さい声で「そんなんじゃねーよ」と言うと、また笑った。

「そ、それより、早く食べようぜ!」

「あ、逃げたー!」

「ち、ちげーよ!冷めちゃうだろ!」

「そうだね、食べよっか!」

 そんなにぎやかな雰囲気は、ご飯を食べ終わってからもしばらく続いた。

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