ニャレット【元人間の猫が異世界で最強の猫獣人になり自由に生きる】

フィガレット

プロローグ

第0話 猫の予知夢

 夢を見た。


 猫になってから、一度も見る事のなかった夢。


◇◆◇


 東西、そして北にも千を超える軍勢が向き合っていた。


 四面楚歌?


 南が辛うじて空いているけど・・・。


 私はそれを俯瞰で見ている。不思議な感覚だ。


 三つの軍勢の中央には黒髪ロングヘアーに少しブラウンの入った目、日本人特有の顔立ちをした和風美女がたたずんでいた。

 耳が長い。まるでファンタジーでよく聞くエルフの様だ。


 西の軍勢の中、傷ついた女性の元へ妖精が現れ傷を癒し彼女に薔薇冠ロザリオを授ける。


 東の軍勢の中、傷ついた女性を案じて叫び声上げ、周囲の兵に取り押さえられた男性の元に、別の妖精が現れて彼に王冠クラウンを授ける。


 そんな中、トコトコと黒髪の女性に近づく猫。


 ・・・私だ。


 私の傍らには、また別の妖精。


「とりあえず、偽神降臨!っといきますかニャ。派手なの宜しくニャ」

「あいあいさ〜♪ド派手な演出いきますよ〜!」


 私は傍らの妖精と楽しそうに軽くやり取りをしている。


 そして妖精は、みょんみょんとアホ毛を揺らしながら、なにやら詠唱の様な事を始めた。周りをよく見ると数人の妖精も同じ様に詠唱をしている。


 妖精が詠唱を終えると、曇天の空が割れて私の立っている場所に光が差し込んだ。


 そこから光る天使の羽の様なものが舞い落ちる。

 七色の光が虹の様に差し込みその光は球体となり私の周りをくるくると廻る。

 妖精達は何やら聖歌のような歌声をのせていた。


 それはもう、完全に神降臨の演出だった・・・。


 そして、私は激しく発光する。

 

 すると私の姿が猫の姿から、耳と尻尾が生えた猫獣人の様な美少女になった。

 フード付きのワンピースに肉球のついた猫の手の様なグローブにブーツ。

 まるで、何かのコスプレの様だ。


 そして私が満を持して口を開く。 


「あ〜・・・あれニャ。私は神の遣いニャ。凄く偉いニャ。

 だからお前達全員よく聞くのニャ」


・・・


 超棒読み・・・というかイントネーションも無茶苦茶だ。

 緊張してる様子でもないのに変に意識しているせいなのか違和感が凄い。


「マスター、絶望的に芝居下手あああああ!?」

「さすがにそれは、ないですぅ・・・」


 傍らの妖精と黒髪美女がドン引きしていた。

 それでも私は気にせず続ける。


「えっとだニャ〜、つまり私の名に置いてだニャ・・・」


 その時だった。


 それは一瞬の出来事だった。

 東の軍勢より、赤い閃光が放たれた。

 周囲の兵達は、恐らく目で追う事すら出来ない。

 しかし、私の目にはハッキリとそれが見えた。

 黒いフードが風ではだけて、吊り目で赤髪の美少女の顔があらわになる。

 

 そして、そのままの勢いで深紅の刀身を居合い抜きの様に私に向かって放った。


◆◇◆


 そこで、私は目覚めた。

 不思議な夢だった。

 

 あれは、果たして夢だったのだろうか? 

 何か違和感の残るおかしな感覚が残っていた。


 周囲を見回す。

 そうか・・・もう『おっちゃん』は・・・。


 私の今の寝床は、河川敷にある古いもう使われていない用水路の中だ。


 本来、見るはずのない夢を見たせいか、未だに少しぼやけた思考で入口の方を眺める。今日は満月のせいか、夜なのに外はほんのりと明るかった。

 

 昂った感情を落ち着けるべく、月でも眺めようかと出口に近づくと・・・


「シャーーーーー!!」


 ヌッと顔を出したアライグマが全力でこちらを威嚇していた。


『にゃああああああ!?』


 不意打ちで驚きを隠せない私。

 その隙を突かれて右手にガブリと噛みつかれた。


 痛あああぁぁぁ・・・くはないニャ。

 別に夢の続きという訳ではない。

 これには訳があるのだが、それについてはまた後ほど語る事としよう。


 ん?夢?そう言えば、何か夢を見ていた気がするが・・・。

 アライグマのせいで完全に内容を忘れてしまった。


 何か大事な事だった様な、どうでもいい事だった様な・・・。


 まぁ、いいニャ。


 私はアライグマを一蹴して、まん丸い月を眺めて想う。



『もうすぐ世界、滅びるんだよニャぁ・・・』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る