第13話 臭いニャ

 湖の騒動も落ち着き私には一つ、とても気になる事があった。


「・・・私、くさいニャ」


 それは心から漏れ出した言葉だった。


「臭いですね。やゔぁいくらいに臭いです。

 正直お近づきになりたくないレベルです♪」


 サポちゃんとの距離が心なしか遠い気がする。

 いや、普通に遠い。誰のせいだと思ってるニャ!

 主に、オークキングの体液と、地竜のよだれのせいである。

 つまり、サポちゃんのせいだ。間違いニャい。


 そして、目の前には、とても綺麗な湖がある。


「いやー、丁度いい所に水場があって良かったニャ♪」


 私はほがらかな表情で湖を見つめる。


「うそでしょ?嘘ですよね?ここ、割と神聖な場所ですよ?」


 知らんニャ。

 もう、この臭さに耐えられないニャ。

 私はおもむろにローブを脱ぎ捨て湖へ飛び込む。


「マスターにはじらいとかないんです?精霊しかいませんけど、

観測者対策に魔法の光で対応しときますよ〜。ここは全年齢対象です♪」


 サポちゃんは訳の分からない事を言っている。


「元猫にじらいなんて求められても知らんニャ」


 私は無視して水浴びを続ける。


「気持ちいいニャ〜♪」


 臭さが取れて生き返る様な気分にゃ。

 水に浸っていると湖が光る。


「臭っ!神聖な湖で何してるんですか!?きったないですね!!」


 湖の妖精が怒って出てきた。


「あ〜さっきは良いモーニングスターをありがとニャ〜♪

 私はニャレットにゃ。お邪魔してますニャ」


 私はふやけながら、ふにゃふにゃと自己紹介をする。


「これはこれはご丁寧に、私はディーナと申します・・・、

ってちがーう!どうやったらそんなに汚くなるんですか!?ほぼ毒物ですよ!」


 へぇ〜ディーナって言うのか〜。


「ちょっとオークキングの体液浴びまくってから地竜の涎まみれになっただけニャ」


「さいっっきょうに汚いですね!どっちも猛毒じゃないですか!!

 何平然と生きてるんですか!?」


 えっ?あれ毒だったのニャ?


「マスターじゃなきゃ死んでますねぇ〜♪」


 サポちゃんも、のんびりと水に浸かっていた。


「まぁ、綺麗になったからいいニャ♪」


 私は今、気分がいいニャ♪


「湖が瘴気まみれじゃないですかぁ・・・浄化大変そう」


 ディーナは泣きそうな顔をしている。

 ちょっと申し訳ない気がしてきた。


「サポちゃん、浄化の魔法とかないのかニャ?」


「ありますよ〜湖にかけときますね♪

 あとどうせなら温泉っぽくしたいので温めますね」


「それいいニャ〜♪」


 湖が綺麗になりホカホカになってきた。


「ちょ・・・ま!綺麗になったのはいいですけど、

なに人の棲家ホッカホカにしてるんですか!?」


 へぇ、ディーナはここに住んでるのか。


「あったかくて気持ちいいのニャ♪」


「住むには熱いですよ!!」


 そりゃそうだニャ。

 存分に味わった後、私達は湖から上がり、申し訳ないから、

熱低下の魔法を湖に使ったら湖がカッチカチになり、解凍しようとしたら、

グツグツと沸騰しディーナが泡を吹いていたが何とか元通りになった。


・・・


「貴方達、何者なんです?そっちの妖精の方もどう見ても異常ですし」


 お?珍しいニャ。サポちゃんの方が異常視されている。

 妖精族同士だからこそ、分かる事がある様だ。


「まぁ、サポちゃんだしニャぁ。普通な訳ないニャ」


「マスターにだけは言われたくないですよ?」


 妖精族同士は独自のネットワークを持っており、精霊からも情報を貰うらしい。

 それを共有してある種、全体が一つの生命の様になっているとか。

 そして、サポちゃんはそのネットワークを好き放題にしているらしい。

 流石さすがと言わざるを得ないニャ。


「サポちゃんは一体何者なのニャ?何となく予測はついてるけどニャ」


 以前、観測者を殺せるかもと話した時に、

『私すら殺せかねない』と言ったのが気になった。少し言葉がおかしい。

 あの発言、サポちゃんは観測者よりも上位の存在の可能性がある。


 そして、私が知る存在の中で観測者より上位の存在は一人しかいない。

 更に、『神の使者』の称号。観測者はこの世界では神と言われてはいるが、

私には神ではないと言った。果たして自ら神を名乗る事をするだろうか?


「サポちゃんは神ニャのか?」


 私は真面目に聞いてみる。


「私自身は神ではないですよ。今は、それしか言えませんねぇ♪」


 サポちゃんは少し真面目な顔で答えた後、いつもの様に適当な言葉を続けた。

 私自身は・・・ねぇ。

 

「今は・・・か。便利な言葉だニャ」


「でしょ♪マスターも使っていいですよ?」


 サポちゃんはいつもの様に笑っていた。


「そうだニャ。今は、それ以上聞かないでおくニャ♪」


 私もいつも通り、適当に言う。

 今は、これでいいニャ。


「さすがの順応性ですねぇ♪」


 サポちゃんも観測者も、実は今のところ明確な嘘は言っていない。

 だから私も、もう少し信じてやろうと思った。

 果たして、彼らに悪意というものは存在するのだろうか・・・。

 仮にも、神と呼ばれる者達。そこに悪意があるとすれば、

人々に救いなどあるのだろうか?意志を持つ明確な上位の存在。

 その存在の悪意は抗いようのない運命、そして恐怖だろう・・・。


 だからこそ、彼らは世界に最低限の干渉しかしないのかもしれない。

 観測者は、割と色々やってそうな気もするが・・・。


 一切の干渉をしない、認識出来ない存在。



 私は、輝く星々を見上げて思った。



 退屈そうだニャぁ・・・。


 

 しかし、猫だった私は猫としてしか世界に干渉をせず、

猫としてしか認識されない存在だった。

 今にして思う。私と言う存在は、とても曖昧だ・・・。

 

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