最終話 七廻着海

七周目、ここは七廻着海、



星を覆う二海でも果ての海でもない、



この地球ほしの脳に中る

の内面を映す内側の世界。




六周目の終わり、果ての海から続くこの道を

歩き続け、気づけば

この場所まで来ていた。




透明感のある空間は淡く静寂に包まれた

雰囲気で、果ての海とはまた違った寂しさを

感じさせる。



与えられた知識からでは無いけれど、

何となくここが七廻着海…儀式の場である

ことを察した。




ここが内側であるからだろうか、

上を見上げると砂海と水海、

外の風景の様子を窺うことができる。




内側の七廻着海と外側の海をみて

感じる。この星には覇気がない。




「ねぇゴウレム……、本当にこの星は

まだ迷ってるのかな……。」




星は迷いあぐねている、とゴウレムはそう言った。



けれど私には、この景色を見てもう何もかも諦めてしまったように感じる。




ここは星の内界、星の心の表れ、

その心の景色がこんなにも色も熱も無いのなら




「はじめから死ぬ気だったんだ。」



この星はきっと寿命終わりを待たずに

その生命を終えようとしている。



「あぁそうか、これは自殺装置なんかじゃ

無くて……」




私達は星の細胞、生命としての

生存本能が作りだした

死から逃れる悪あがき、



そっか、私達に止めて欲しいんだ。

星の自殺を。





「私に、私達に止められる?」


もう頑張れない生命ひとにどんな声を

かければ、また歩んでくれるだろう。



それに、


「私だってもう……」




自分の意思でこれ以上何かを選択するのは、

もう……、




遠い目で未来さきのことを想像してみる。




仮にこの先人類が続くとしても、

そこに私達はいない。


後を託した人類も砂漠と海しかない

この星で一からスタートするのは

無理に等しいだろう。




今とは違う設計で生命が生まれるとしても、

同じ事の繰り返しになれば

今度こそ星は自滅する。



「私だって…生きたい…、」



人の繁栄と、人の営みを知った。

そこには多くの幸福と輝き、希望があった。




それを背負う責任の重さ、

役目を果たした対価が無であること、

私の生きたいという欲、


それらが結論を出すことを拒む。




私だけの問題じゃない、でも私が答えを

出さなきゃいけない。



抱えきれない重りに俯き眉間に皺が寄る。




「ずるい…皆ずるいよ、責任を投げて

後に託して、皆んないなくなって………、」




壊れかけていた心が正常に戻る。

戻ると言っても元の異常な嫉妬心、



いるはずのない人、届くはずのない人、

それでも妬み、愚痴を零さずにはいられない。




「なんで、何で私にばっかり!!……、」




「生きたい!!死にたくない!エルゼに、イロナに皆んなに会いたい!」


「一人は嫌!もっと沢山の人や生命に会いたい!砂以外の物が食べてみたい、塩水以外を

飲んでみたい」




「恋や家族だって……愛なんて識らない…」



「色んな景色を…街を………見て…、」





「この空だってまだ見ていたい…のに」



自分に幸は無いと過去今までに嫉妬し、

未来これからに嫉妬する。




どうしようもない、そして仕方ない。

妬みの一つや二つ許して欲しい。



何もかも消えかけた世界で

知識、役目を押し付けられ


先も無いのに好きな人達を手にかける他ない

運命。




涙を流す、ただひたすらに涙を流す。

嗚咽と鳴き声、鼻をすする音だけが聞こえる。



一時間、二時間、ただひたらすら

答えを出せずに立ち止まる。



時間だけが過ぎる……、

いつまでもこうしていては

そのうち、急かすように、脅すように

この舞台装置は

私に皆んなを殺させる。





決断しなきゃいけない。


奥で水面が揺れる……波紋の中心、

答えを待ってる人がいる。




その人に文句の一つでもついてやろう…、

そう思った。




「貴方がした事じゃな……っ!」



その一滴は全てを物語っていた。

億年に渡る夢の追求 可能性の模索…、


一万の歴史とそれを築いた祈り、希望、力と

叡智、絶望と後悔、



私の知った物、背負った物、その全てを


見て、体感し、同じように……………

……私以上に背負ったが涙を

流している。





彼女の声は聴こえない。

彼女には確かに音がある、けれどそれが伝わる

ことは無い。


動かしているように見える口元は

何となくでしか解らない…、



近づければ解るかもしれない……、

けれど私の足は彼女には届かない。



こうして最期の瞬間になっても


星屑人の子が解り合うことは

ない。



声が届かないのを識っていて、

貴女は欲張ることなくそれを諦めてしまった。



その事を識っていて、

私達星の子は声をかけず貴女を一人にした。






音の無い彼女を見つめる。



踏み出せない私を見ている。




恐怖は抜けない、苦しみもある、

この後の事は分からないし

知ることはもう出来ない。





未来さきを与えても、彼女が生きてくれる

かは分からない。

私という役目終わりだけでは無く

その過程あの旅まで無に帰してしまう、

そんな事になるかもしれない。






それでも……、「貴女に輝いていて欲しい。」



死ぬまで生きなくていい、


苦痛に耐えなくていい、



気にかける存在をつくる必要は無い。





けれど貴女が孤独を嫌うなら

どうかもう一度…、





美しい貴女、今は灰色の貴女、



夢みる星姫、青き姫、貴女が願いを叶えるなら


貴女は貴女であるべき。





私も貴女を置いて行ってしまうけれど、

これから未来さきの貴女を一人にしない

ように、




私は色を変え貴女の夢の成就を祈る。


輝き方を忘れたなら、今だけ貴女の青い星に

なりましょう。







目を閉じる。

私の出した結論はとても曖昧な物、私に責任を投げた…託した人達と同じ

ように、私もまた『少しだけで良いから生きて欲しい』何て言葉で

その幕を閉じようとしている。





でも私達は貴女の子供だから。

どれだけ都合が良くても、

私達は貴女を美しいと感じた。


そんな貴女に幸せになって欲しい、

夢を叶えて欲しい、

ただそれだけ……ただそれだけ……、




人類最期の私は星に祈りとほんの少しの勇気を

花に添えて、役目を終えた。





その後、地球がどうなったのか

私にはもう知ることは出来ない。





彼女は救われたかもしれないし、救われなかったかもしれない、言えるのは

間違いなく人類の物語はこれで終わりを

迎えたということ。




このお話しはただ終わりを迎える、

それだけのお話し………、

ただそれだけのお話しだ。



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