第15話 四地へ赴く
シイナ「私達が人間……、それってつまり…」
傲慢な人「君が思う通りだよ。」
「人は砂を食べるし肉も食べる、
どろどろに溶けて無くなるし、
寝込みは襲うし、傷つき傷つけ血を流す、
それが私達 人間だ。」
傲慢の言うことは正しいのだと素直に脳が
受け入れる。
一つの疑問が取り除かれ、
心がスッキリする……、そう、スッキリ…、
スッキリするどころか胸がとても
ぐるぐるする。
この感情は何だろう……、
これは…、これはそう気持ち悪い、
吐き気がする程気持ち悪い何か…、
何故だろう、正しいと感じるのに間違ってるとも感じてしまう。
傲慢な人「何とも言えぬ表情をしているな、」
思った事が顔に出ていたのだろう、
傲慢は見透かすような目で私にそう言う。
わざわざ口にしなくても傲慢は私の考えている
事をずばり言い当ててしまいそうだが、
今の台詞は敢えて言ったように感じる。
私は思った事をそのまま傲慢に口にした。
シイナ「今の言葉、正しいなって思ったのに、何処か間違ってて気持ち悪いって思ったの。」
傲慢な人「なるほど、シイナは矛盾を感じたと、そう言いたんだな。」
ハハッと笑うと傲慢は続けてこう言う、
「良いじゃないか、人間らしくて、矛盾を持ちまた感じるのは生物の中で唯一人間だけだ。」
「君も普通の人間に近づけたと言う事かな、」
シイナ「人間らしい…、普通…、
私達以外にも人や他の生物はいるの?」
傲慢な人「もちろんいるとも、正しくは
いただけどね。」
シイナ「いた、って何があったの?」
傲慢な人「おっと話しがそれたな、それを話すのはまた今度だ。」
肝心なところで話しを逸らされてしまったが
新たに疑問が生まれる。
シイナ「傲慢は毎回全部は話して
くれないけど、何か理由はあるの?」
傲慢な人「一度目に話さなくてもいずれ
分かると言っただろう、 真実を伝える
のは私の仕事では無いんだよ。」
シイナ「それはどういう…」
傲慢な人「君がここに来る度 目にした
灰白色ノ木があるだろう?
本来あれが旅を終える度に一つ知識を授けてくれるんだけどね、
その作業を先に自分が済ませて
しまっているのが今のこの会話という訳だ。」
シイナ「じゃあ何であの木の代わりに
傲慢が?」
傲慢な人「退屈なのと、寂しいからかな、
私が代わりにやるのは好きでやってる
事なんだ。」
傲慢がここに居る理由は分かった、
元々 旅の終わりに 得られる知識が一つだけ
だということも、
けれどまた一つ疑問が湧いてくる。
シイナ「でも傲慢は一つだけじゃなくて、
全部 知ってるでしょ?代わりにやってる
事が全部を話さない理由には
ならない気がするけど……、」
傲慢な人「全くその通り、質問の答えに
なっていなかったな、」
スマンと一言謝ると傲慢は改めて質問に答える、
「自分が律儀に全てを話さないのは自分なりの君への配慮…かな、」
配慮?まだ答えになっていないけれど…
そう告げようとすると傲慢は丁寧に、
そして優しく、また悲しみの
顔を浮かべながら説明する。
「シイナ、君は今回の旅で気持ちの矛盾に気づ
き嫌悪という感情を知った、そして
この先も旅の中で色んなものを得て
沢山の気持ちを知っていくだろう。」
もうすぐ 三周目の旅も終わり残りは四回、
その四回の中でも、傲慢の言う通り
得るものはあるだろう。
「ただそれは良いことばかりじゃない、
知れば知るほど、辛いことや、苦しいと
感じる瞬間が必ず出てくる。」
傲慢は泣きそうな顔をしながら私を
見てこう言う、
「自分のしている事が、辛いことや苦しいことだと解かったとしても、それをやる他にない
としたら、辛いことを知りながらそれをするというのは酷く残酷で心に堪えるものだ。」
「一度始めてしまってたら君の旅は七度目を迎えるまで終わらない、
だから自分がここで全てを話してたら
君は全てを知りながら旅をしなければ
ならない、現に何度か知っている事で
混乱した事があるだろう?」
辛い旅になると、私に助言する傲慢、
けれどそれを言う傲慢の方が、明らかに辛そうに感じる。
シイナ「傲慢が辛そうにしてるのは
どうして?」
数秒の沈黙の後、傲慢が口にしたのは
「それが私の罪だから」
傲慢にとっての罪……、
シイナ「傲慢、改めて罪って何?」
傲慢な人「罪とは人がより正しくあるため
人の手によって作られた正しさの形、
求める事は正しいけれど、それと同時に
苦しくて辛いもの、
それが罪だと私は思っている。」
シイナ「罪が無いと人は正しくなれないの?」
首を横に振る傲慢、
傲慢な人「いいや、生物とは常に正しいものだ、間違いとして生まれた者が
いるのなら、正しく生まれた者が
正し、それをより正しさの証明として扱う、
人は罪がなければ生きるのは難しいが、
罪が無くとも正しくはあれる。」
シイナ「でも正しくあるには
罪が必要なんだよね?」
傲慢な人「そう、人は正しくあり続け、
進化のため成長し、生きるに強く縋った。」
「その道すがら世界は正しさで溢れかえり、
また人も正しさの数だけ増えて言った…。」
「やがて抱えきれない程の正しさが
人を苦しめ、人は正しい道を選択し手放す
ことを選んだ。」
シイナ「じゃあ選ばれなかった正しさが
人の罪ってこと……、」
傲慢な人「その通り、多くの人間が生きられるよう、人は効率良く道を剪定した。」
「その結果、選ばれた正しさは法や掟、
誰もが通る道として決められ、
選ばれない道を罪として、進めば苦しむ
茨の道と化した。」
例え苦しい思いをしてでも罪を求めるのは、
元々正しい道だったから…、
正しさを求めるのが生き物というものであり
イケナイと分かっていても
それが自然だと思ってしまう。
傲慢な人「罪はいけない物というより、
するのは賢くない、かな。」
さりげなく私の心を読む傲慢、
何となく分かっていた事だから構わないの
だけど、
シイナ「いけないでは無く、賢くない…、」
傲慢な人「進むこと自体を強制されてる訳
じゃないからね、中には間違いとしてその
存在を求められ、罪に走る事しか
できない者もいた。」
シイナ「間違いとしての存在……、」
傲慢な人「この世に生まれることを
肯定されたと言うことは、
間違いさえも全て許されている」
「受け売りだが、かつて罪として生きた男も
そう言い放っていた。」
シイナ「男?」
「しまった」と小さな声が傲慢の口から漏れる
傲慢な人「どうやら私は相当なうっかりさん
らしい、今のは聞かなかっ…いや、また今度
にして欲しい。」
傲慢はコホンと咳払いし、
「これでシイナも安全な道以外を選ぶ事が
できるようになった、何を持って罪とするのかこれからも君の旅を見届けていくとするよ。」
三周目で傲慢が伝えたい事はこれで
全部らしい、ただ気になったまま答えて
もらってない事が多い、
また今度、と言われてない事はここで全て
聴いてしまおう。
シイナ「傲慢の罪ってなに?七つの罪って?」
傲慢な人「今いい感じに話しを纏めたつもり
だったのに………、」
まだほんの少しだけ、私達の会話は続く。
四周目、またここに来た時
私は喜びの顔をしているだろうか、
それとも辛い表情をしているのだろうか。
罪の在り処は茨道、茨の先には私の死、
死地を識る者 進むもの、
死地をしり四地へ赴く。
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