第8話 水族館が好きな愛莉朱

 ちょっとだけ……いや、結構俺は親の馴れ初めを聞けると期待していたが、結局聞くことはなかった。

あれだけ母さんが嫌がるんだから、相当恥ずかしいんだろうな。

玄ちゃんが先走りすぎただけかもしれないな。


「――――」


「ん? どうした?」


「ううん、何もない。ただこうしてたいだけ」


「そうか」


 俺がそんなことを考えていると、愛莉朱は俺に体を預けた。

何かあったのかと思って聞いてみたが、特に何もないらしい。

ということは、彼女は今ただ単に俺に甘えたいだけということだ。


「――――」


 ちらちらと何度も俺を見てくる。

ずるいぞ愛莉朱、その仕草は俺にとってはマジでたまらないんだから。


「愛莉朱、今日も可愛いな。このお兄ちゃんが今日も構ってあげよう!」


「――――! やったぁ!」


 俺はこそっと愛莉朱の耳元でそう囁くと、静かに、でもすごい喜んだ。

そして、俺の手をそっと握った。

何度見ても愛莉朱の手って小さくて細くて綺麗だ。

それを俺が独占できちゃう、触れ放題握りたい放題と考えると……最高すぎる!


「お兄ちゃん……えへへ〜」


「どうしたんだよ? 俺の顔がそんなに面白いのか?」


「面白いっていうより、お兄ちゃん嬉しそうだったから、わたしまで嬉しくなっちゃった!」


「そ、そうなのか」


 愛莉朱にバレてしまっていたか。

俺って結構顔に出やすいタイプだからなぁ……。

まあ、愛莉朱にバレたとて別に良いんだけどな!


「ん〜、お兄ちゃん大好き〜」


「俺も大好きだぞ〜愛莉朱」


「はいはい、イチャイチャしているところ悪いがもう着いたぞ〜」


「「――――」」


 せっかく良い雰囲気だったのに……。

玄ちゃん空気読んでくれよぉ!

ってもう目的地に着いてるじゃねえか!

し、知らない間に着いてたのか……。

 俺たち4人が来た場所、それは水族館だ。

愛莉朱は実は水中で暮らす生き物が好きで、いつも話題になるのは魚とかイルカなどの水中動物だ。

おかげで、俺もそれなり詳しくなってしまった。


「ちょっと待て愛莉朱。防護は――――大丈夫そうだな。よし、じゃあ降りようか」


「うん!」


 もうすでに興奮気味の愛莉朱だが、防護はしっかり確認しなくてはいけない。

俺が彼女の全体を見渡して、ちゃんと体が防護されているか見る。

それでもしされていなかったら俺がしっかり直すし、今日みたいにちゃんとされていたら大丈夫だと言って愛莉朱を外に出す。


「忘れ物はない?」


「うん!」


「大丈夫」


「じゃあ行きましょう!」


 母さんが忘れ物がないかを確認すると、玄ちゃんは車の鍵をかけた。

そして、俺たちは水族館の中へ向かって歩いて行った。

 水族館の横には遊園地があって、ジェットコースターから女子たちの悲鳴が聞こえる。

ま、俺は絶叫系はだめだからぜっったいならないけどな!

ちなみに愛莉朱も絶叫系はだめだけど、嫌いというわけじゃない。

 流石に巨大なジェットコースタとかは規制が多いし、防護が外れてしまう可能性があるから行かせないが、小さい子供向けのジェットコースターなら規制も少ないから乗せたりはする。

そこまで怖くないし、スリルよりも乗ることが楽しい小さいジェットコースターは、愛莉朱にとっては結構楽しいみたいだ。

多分、本格的なジェットコースターでも彼女は平気なんだろう。

ほら、愛莉朱を見たらめっちゃ乗りたそうにしているし……。









◇◇◇










 入場券を買って、水族館に入館した。

中学生は1000円、小学生に関しては700円か……良いなぁ。

俺は高校生だから大人料金1400円だもんなぁ。

愛莉朱がちょっとうらやましくなった。


「お兄ちゃん早く行こうよ!」


「待てって愛莉朱、今日も人が多いからマジで迷子になるぞ」


「わたしもう中学生だよ? そんな簡単に迷子にならないよっ!」


「俺の手繋ぎたくないのか?」


「――――そういうところが本当にずるい……」


 頬を膨らませて納得いかない顔を見せる愛莉朱。

しかし、そんな顔をしながらも結局は俺の手を繋いでくるのが彼女の可愛いところ。

そしてそれにデレデレしてしまう俺。

絶対周りの人は俺の顔を見て引いてるだろうなぁ……。


「じゃあ、わたしたちは玄ちゃんと2人で見てくるわね!」


「くれぐれも迷子にならないようにな〜」


「ちょっと!? 自分の子供をほったらかしにして行くとはどういうことだ!?」


「お兄ちゃん、2人とももう行っちゃったよ?」


「えっ、はやっ! どんな脚力してるんだあの2人!? 全く……子供をほったらかしにする親なんてどうかしてるよな」


 俺が愚痴をぶつぶつ言っていると、愛莉朱が俺の手を少しだけ強く握った。

そして、俺の指を絡ませて恋人繋ぎになる。


「でも、これでお兄ちゃんとデート出来るね……」


「あ、愛莉朱……」


 あ、周りにいっぱい人がいるけど良い雰囲気になってきたなぁ……。

家の中だったら確実にキスしてる展開なんだけどなぁ。


「あ、でもあそこでお母さんと玄ちゃんいるみたいだから大丈夫そうだよ?」


「え――――あ……」


 愛莉朱が指を差す方向に顔を向けると、そこには人混みに紛れて俺たちを見ている玄ちゃんと母さんがいた。

 こえーよ!

マジでスパイみたいで怖いわ!

これじゃあ愛莉朱とデートしづらいじゃねえか……。


「お兄ちゃん早く見たい! 早く行こうよ〜」


「ああ、じゃあ早速行こうか!」


 愛莉朱は早く見たいと俺を急かす。

まあ、あの2人を気にする必要はないか。

愛莉朱と外でデートなんてなかなか出来ないし、これだけ楽しそうにしている愛莉朱を見ると、俺も楽しくなってくるしな。

愛莉朱の彼氏として、しっかりと見守ってあげないとな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る