第56話 お泊まり会の朝(昼)ごはん3
「おーいしょーたー! 生きてるかーい?」
「おー俺は生きてるぞ〜」
「うん、これは死んじゃってるね。お昼ごはん食べないの?」
「はっ、忘れてた! そうだよな、そのために俺たちは買い物行ってたんだもんな!」
「そうだよ……。じゃあ清太も手伝ってもらっても良いかな?」
「おう! 任せろ!」
「えっと……さくらちゃんも手伝ってもらっても大丈夫かな?」
「う、うん! もちろん!」
やっと意識を取り戻した清太と、なんとか泣き止んでいつも通りの様子になったさくら。
颯太は2人には食器の用意、茹で上がった素麺をちょうどいい量でまとめるという任務を与えた。
ということで皆さんこんにちは、ナレーションです。
わたくしは今、かまくらの中で寒い寒い冬ライフを送っております。
えっ、まだかまくらを作れるほどの雪は降ってない?
まあ、皆さんの世界ではそうかもしれません。
でも、わたくしがいる世界は小説の世界です。
作者さんが世界を冬にしてしまえば、こちらは冬になってしまうのです!
だから……作者さん早く暖かくして〜!
寒すぎるんですよ!
ブルブル……えっ、今OPソング入るの!?
え、えっとぉ……『大好きな人』ですどうぞぉおおお!
寒い寒い……!
◇◇◇
あ”ぁ”寒かった!
あ、こっちはすっごい暖かいです〜。
はぁ〜……おっと、わたくしが温もっていては物語が始まりませんでしたね。
では、ちょいと足をこたつの中に入れながら実況したいと思います。
だって寒いんだもん……。
「渚ちゃん、これをこうやって指先でくるくるにするってこと?」
「そうそんな感じ! そうやってこのトレーに並べてもらっても良い?」
「うん!」
「ありがと〜! 清太くんもお願いね!」
「おう、任せろ!」
渚の指示通り、清太とさくらは早速素麺をトレーに並べ始めた。
ちょうど良いくらいの量を手に取り、指先にぐるぐると巻き付けてトレーに乗せるという単純な作業だ。
こうすれば、麺つゆにつける時に楽になるのだ。
うわっ、もう見ただけで美味しそ〜……じゅるり。
「――――なあ、さくら……」
「どうしたの〜?」
「その……済まなかった」
「えっ?」
突然頭を下げ始めた清太に、さくらは驚いた。
「いやその……スーパーの件だ。目先ばかりに荻さんとさくらを置いていってしまった。俺はさくらの隣にいなきゃいけないのにな……。彼氏失格だ……」
「そ、それは……わたしが悪いの。清太くんとたちは良いものを必死に探してくれていたのに……。なのに、清太くんと雪乃さんが疲れ切ってしまうくらいに泣いちゃって迷惑をかけちゃった……。わたしこそごめんなさい!」
お互いに頭を下げて、そしてお互いに顔を上げると、思わず微笑んでしまった。
「ははっ、俺たちって長い付き合いだけど、まだまだ分からないことが多いな」
「あははっ、うんそうだね。わたし……もっと清太くんのことが知りたいなって思った」
「――――!?」
おっとさらっと凄いことを言ってきました!
さくらは無意識のようですが、聞いていた清太はたまったもんじゃありません。
(えっ、さくらがもっと俺のことを知りたい……? それって……アレとかコレとか、そんなことまで知りたいってことか……? いやでもさくらはそんなこと考えるような性格じゃないし……。えっ、えっ?)
頭の中で、ものすごい早口で独り言を心の中で話す清太。
しかし、周りからすればただの固まった人。
「清太くん? 大丈夫?」
さくらは固まってしまった清太を心配する。
とりあえず、彼の目の前で手を振ってみた。
「清太くーん? うーん、反応がないみたい……」
「――――」
「――――ひゃあ!? ゆ、雪乃さん!?」
さくらの隣からニュルッと出現してきた雪乃。
目を覚ましたと同時に、すぐに甘い雰囲気の予感をビビッと感じた。
そこで、ちょっとだけ助け舟を出すことにしたのだ。
『加賀くんの耳元で囁いてみたら?』
「えっと……清太くんの耳元で囁いてみ――――えぇ〜!?」
かなり攻め込んだことをさせようと企んだ雪乃は、さくらの前でガッツポーズをして勧める。
さすがのさくらも戸惑うが……。
『そうすればよく声が届くし すぐに戻ってくると思うよ』
確かに、近づけばその分聞こえやすくはなる。
ただ反対にリスクも十分にある。
自分の恋人にそこまで接近できるのかということだ。
昨日の夜中にベットの上で抱き締めあったのは、自然と出来たものだった。
しかし、今回はそんな自然と出来るものではない。
そりゃあそうです。
何故なら雰囲気に飲まれてもないのに、意識的に清太に急接近するのですからね。
しかも相手は自分の恋人――――顔が真っ赤になってしまうのも仕方がないことです。
(でも……清太くんがドキってしてるとこ、近くで見てみたいかも……)
と、結局は好奇心が決め手となり、ついに動き始めたさくら。
さて、固まってしまっている清太を目覚めさせることは出来るのでしょうか!?
見守る雪乃、そして颯太と渚も表情はニヤニヤしています!
もちろんわたくしもニヤニヤしております!
「――――」
さくらは四つん這いになりながら清太のもとに近づいた。
しかし、まだ微妙に遠い場所で一度立ち止まる。
(ひぇぇぇ……。わ、わたしちゃんと出来るかな……)
さくらはまた不安になってしまった。
しかし、周りを見ると――――『頑張れ!』と言ってくれるように、3人は笑顔で頷きながらガッツポーズをした。
(みんな……よし!)
みんなの応援を受け取ったさくらは、それに応えるように再び清太に近づいた。
「――――」
清太はまだ固まった状態。
寝室とリビングを仕切る大きな扉のほうをずっと見つめたままだ。
そのため、さくらが近づいている様子なんて視界に入っていない。
そして、遂にさくらは清太と体が触れてしまうほど、いや、もう触れてしまっているほど接近した。
「清太くん……」
さくらは早速清太の耳元で名前を呼ぶ。
しかし、これだけ近づいているのに反応はなし。
まだ戻ってきてないようだ。
「――――っ!」
さくらは少し考えると、顔を赤くしながら意を決して清太に手を伸ばす。
そして、彼の肩をポンポンと叩いた。
「はっ……! あれ俺ぼーっとして――――」
「えっ……」
やっと意識が戻った清太。
肩に何かが触れた感触があったのに気づいた清太は、すぐにそのほうを見ると……さくらの顔が眼の前に。
「「――――」」
驚きすぎて黙ったままお互いを見つめる2人。
周りにいる3人はというと……。
「あ、まさかの展開!?」
「そうたくん、これはハプニングですねぇ〜」
「ええ、さくらちゃんの言う通りですなぁ〜」
颯太と渚は、どうやらまさかのドキドキの展開を楽しんでいる様子。
そして一番近くで見ている雪乃はというと、
(ひゃー! まさかの展開!?)
と、表情は変えてはいないものの、心の中ではかなり狂喜乱舞を上げている様子。
普段そんな様子は心の中でもならないのですが、どうやらリミッターが外れてしまうくらいにすごい場面を見てしまったがためにこうなってしまったようです。
「――――あ、えっとぉ……清太くん大丈夫……?」
「え、あ……お、俺は大丈夫だけど……なんでこんな近くまで……?」
「その……清太くんずっとぼーっとしてたから……」
「あ、そういうことだったのか……。それで俺を気づかせてくれたってことだな?」
「う、うん……」
「そ、そうか……。あ、ありがとな……」
ああ、ほんのり甘い空気が漂ってますねぇ。
このちょうど良い感じの甘さ……最高です! 美味です!
でも、この調子だと清太とさくらはずっと見つめ合ってしまいそうです。
「ゔゔん! そこのお2人さん、良い雰囲気のところ本当に申し訳ないんだけど……作業の続きやってもらっても良いかな?」
「「はっ! ごめん!」なさい!」
慌てて作業に戻る2人。
再び作業を始めた清太とさくらを見て、雪乃も作業を再開した。
もう清太との恋は叶わなかったが、こういう日常を送ってみたいと思ったのだった。
「清太くん、その……隣でやっても良い……?」
「お、おう! 良いぜ!」
「ありがと〜」
さくらは清太にピトッとくっつきながら、素麺を指先でくるくると巻き始めた。
清太はドキドキしたが、もっとさくらの隣に居たいと思ったのだった。
というわけで、お時間が来てしまいました。
颯太と渚とはまた違う、ちょうど良い糖度でこっちまで和やかになりましたね。
ちなみに、完成した素麺は大変美味しく頂いたそうです。
では、また次回お会いしましょう!
「ずぞぞっ……! うわっ、なにこれめっちゃ美味いじゃん!」
『そうでしょ』
「うん、さすが常連の荻さんだね!」
『ドヤァ』
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