第36話 学校帰りの萩 雪乃

 あっつい……あっつ”うううううううういいいいい”い”い”い”!!!!!!!!

――――あ、皆さんご機嫌よう、ナレーションですぅ。

いや、あっつい!

本格的に夏になりましたね。

皆さんは海へ行って遊びたい人がたくさんいるかと思います。

それか家に引きこもる人もいらっしゃるかも。

 でも、こういう時に現れる厄介者……それは台風です。

台風がUターンしてくるというニュースを見た時は驚きましたよ……。

これも今話題になっている異常気象なんでしょうか?

一部では冠水している地域もあるということで……危ないと思ったらすぐに避難を!

 それでは、早速OPソングへ参りましょう。

『大好きな人』ミュージックスタート!












◇◇◇










 雪乃は失恋してしまった……。

あの時、清太とさくらが付き合い始めたを知った時はショックを受けた。

しかし、何故か涙は出なかった。

 2人が付き合い始めたことを知ったのは学校帰り。

その日は個人面談があった。

雪乃は口で言葉を伝える事ができないため、会話はすべて文字でこなす。

つまり、先生とノートを使って会話をし、色々質問されては答えるというやり方だ。

 そして面談が終わって帰っている途中だった。

いつもの帰宅路を歩いていると、商店街の端にあるカラオケ屋から出てきた男女2人の高校生が出てきた。


(あれは、さくらさんと……加賀くん?)


 同じ学校の制服、そしてあの顔は間違いなく清太とさくらだった。

2人仲良く横並びで歩いていく様子が気になった雪乃は、バレないようにこっそりと2人の後をついて行った。


「――――ねえ清太くん。これはちゃんと正直に答えて。もう一度聞くけど、清太くんは……雪乃さんのこと、恋愛対象で好きなの?」


「えっ!?」


「嘘は絶対にダメだからね、清太くん。正直に答えてほしい」


 足を止めて、さくらは清太にそう聞いた。

雪乃は電柱の裏に隠れて2人の会話を聞くことにした。

彼女はかなり耳が良いため、多少離れていてもだいたいは聞き取れるという地獄耳の持ち主。

この特技を活かすためにこの行動を取ったわけだが……何も知らない人からすれば、ただの不審者のように見える。

そんな彼女の姿を不思議に思いながら通り過ぎていく、子どもたちや買い物帰りのママさんたち。

 特に子どもは正直なもので、指差しをするようになる時期の子どもは雪乃を指差しながら、


「ねえママ〜。あの人何してるの〜?」


「指差しちゃダメ!」


 なんてママに怒られる様子も。

しかし、そんなことには全く気にする様子もなく……雪乃は耳を澄ませながら2人の会話を聞く。

そう、ものすごい集中力で。


「じゃあ……わたしはどうなの……?」


「――――っ!?」


 雪乃の視線からは、さくらは後ろの姿しか見えない。

しかし、一歩前に進んで顔をさらに上を見上げている様子が分かる。

完全にさくらは清太に目の前まで近づいていたのだ。

 それに対して清太は、顔を真っ赤にしてさくらから視線を逸した。


「ねえ、わたしから目を離さないで。ねえ、清太くん……」


「――――」


 雪乃はもうここから立ち去りたかった。

分かっている、この2人は確実にカップルになることを。

そして、自分の想いはもう彼には届かないのだと……。


「なあさくら……。俺……俺! さくらのことが好きだ!」


「――――!?」


「やっぱりさくらを放っておけない! さくらはすぐ泣くし、すぐに引っ込み思案になりがちだ。そんなさくらを放っていた俺がバカだった! これからはさくらを守る! 傍にいる! 放っておけない、そんなさくらが俺は好きだ!」


「しょ、清太くん……!」


 遂にさくらに告白をした清太。

それを聞いたさくらは、すぐに清太に抱きついた。

しっかりと清太の体に腕を回した。


「――――」


 これを見た雪乃は俯き、そして2人に気づかれないようにその場を立ち去った。

もちろん、2人は自分たちの世界にいるため、雪乃の存在には全く気づいていない。

それも彼女は分かっていた。

 雪乃の後ろ姿は悲しい青であったが、何処か怒りの赤もあってスッキリした黄もあって……結果的に彼女の心は空っぽの白になっていた。










◇◇◇










「――――」


 雪乃はそんなことを思い出しながら、今日は1人で下校をする。

清太とさくらのことを応援すると行動で示した彼女だったが、やっぱり悲しい。


「ま、待って雪乃さん!」


「――――!」


 すると、突然後ろから聞き覚えのある声がした。

雪乃が気がついて後ろを振り返ると、さくらが自分に向かって駆け寄ってきた。

何故か清太と一緒ではなく、さくら1人だった。


『今日は加賀くんは居ないの?』


「あ、今日は清太くんはアルバイトなの。だから水曜日から金曜日は早く帰っちゃうの」


 雪乃はふーんというようにコクコクと頷いた。


「その……ごめんなさい。雪乃さんだって清太くんのこと好きで、一生懸命にアピールしてたのに……」


 少し落ち込み気味で泣きそうな顔をしているさくら。

しかし、雪乃は横に首を振った。


『加賀くんはわたしよりも、さくらさんの方が良かったんだよ。恋愛っていうのは思い通りにはいかないって分かった』


「雪乃さん……」


『だから、わたしは2人を応援する』


 微かに微笑む雪乃を見て、さくらは困った顔をしながら微笑んだ。

雪乃の表情を見て、少しだけ複雑な気持ちになったのだ。

 しかし、雪乃は自分たちのことを応援してくれている。

彼女の応援にしっかりと応えていかなければならないと、心に刻んで誓ったさくらだった。


「ありがとう雪乃さん。わたし、頑張るから!」


 小さく両手でガッツポーズを決めるさくらを見て、雪乃は頷いた。

そして、雪乃はまたメモ帳に何かを書き始める。

書き終わると、さくらにそれを見せた。


『一緒に帰ろう?』


「――――! うん!」


 そして、2人で笑い合って一緒に自宅へ向かって下校していくのであった。

段々と沈んでいく太陽の光は、2人の仲を見守るように照っていた。








◇◇◇








 はい、ということでちょっと暗い話になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?

雪乃の願いは残念ながら叶えることは出来ませんでしたが、これからも2人は上手くやっていけそうですね!

 そういえば、何故雪乃は話すことが出来ないのか分かりますか?

もちろん理由はあります。

そのネタバラシは……またいつか。

 今回は久しぶりの投稿でしたね。

作者さん最近かなり多忙なのですが、今が落ち着いていられる時間みたいなので、今のうちに更新頻度上げたいとおっしゃっておりました!

年度初めのように、ほぼ毎日更新目指して頑張って欲しいですね!

あ、それは無理?

 ということで、またお会いしましょう!

今日もありがとうございました!

さようなら!

EDソングは『ドキドキ!』です!

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