第10話 2人が結婚するまで8

「――――」


「――――」


 喫茶店に入り、しばらく2人は黙り込んだままお茶を飲んでいた。

この状況で話しかけるのはどうかと考えたこと、渚が泣き止んで落ち着かせようと颯太が考慮したからである。

 颯太に渡されたハンカチを目に当てながら涙を拭いていた渚だが、お茶を飲んでいるうちに、段々と心が落ち着いていき、止まらなかった涙も気づけば止まっていた。


「――――ありがとう颯太くん」


「ううん、大丈夫。渚さんこそ大丈夫? ちょっとだけでも落ち着いたかな?」


「うん、大分良くなった。本当にありがとう、颯太くん。それで、わたしの話なんだけど……」


「ちょっと待って! ここだとあれだから……ちょっと人気のないところに行こう。僕が知ってる良い場所があるから」


「うん、分かった」


 ちょうど2人はお茶を飲み終わり、喫茶店を後にした。

渚は颯太に案内されながら、チラチラと彼の横顔を見ていた。


「――――」


(颯太くんカッコいい……。でも、颯太くんは覚えてないんだろうなあ……)


 ん?

もしかして、幼い頃に2人は出会っていたっていう定番の流れですか? って思ったそこのあなた。

さあ、どうでしょうか。


(そういえば……小さい頃に一緒に遊んだ女の子がいたなあ……)


 ふと、颯太は頭に古い記憶が蘇った。

颯太が行こうとしている目的地で、ある1人の少女と遊んだことがあった。

偶然一度だけ、しかもそれが最初で最後の出会いだったが、とても印象に残っている人物だった。


『一緒に遊ぼう!』


『えっ?』


 純粋な心を持つ子供だ。

全く知らない同年代くらいの女の子に話しかけることなんて安易。

幼い颯太は、木の下で1人ぼっちで座っていた女の子に駆け寄って、突然話しかけた。

この頃から既に友達が少なかった颯太は、自分と同類だと感づいて、その女の子に話しかけたのだった。


『僕と一緒に遊ぼうよ。だるまさんがころんだしようよ!』


『――――う、うん!』


 女の子も、なかなか友達が出来なかったため、誰かに遊びを誘われたことが嬉しかったのだ。

2人はだるまさんがころんだをしたり、追いかけっこをしたりした。

この時、お互い笑顔と笑い声が絶えず溢れていた。


『僕の名前はかさま そうた。君の名前は何て言うの?』


『わ、わたしの名前は……みつい なぎさって言うの。そうたくんありがとう。すごく楽しかった!』


「――――っ!」


 颯太は消えかけていたあの時の記憶を全て思い出した。

あの時、偶然出会った女の子の名前は『みつい なぎさ』だった。

そして、今颯太の横にいる女子の名前は『三井 渚』。

完全に一致していた。

 しかし、幼い顔しか知らないため、渚が本当にあの『なぎさ』なのかは分からなかった。


(でも……もしかしたら……)


「――――ど、どうしたの? ずっとわたしの顔を見て……。ちょ、ちょっと恥ずかしい……」


「えっ、あっ、ごめんね!」


 お互いに顔を赤くして、また黙り込んでしまっている間に、目的地に到着した。

そこは、小高い丘から街全体を見渡せる展望台のようになった、小さな広場だ。


(うん、昔から変わってない。あの木もまだあるんだね)


 渚は懐かしいこの風景を見渡していると、ふと一本の大木が目に入った。

渚は幼い頃からこの大木に背中を寄せて、生い茂る葉っぱを見ていた。

独りぼっちの自分に寄り添ってくれるような、そんな優しい雰囲気を感じさせてくれる大木だった。


「渚さん」


「なに?」


「僕は小さい頃、とある女の子とここで遊んだことがあったんだ。たった一回しかなかったけど、すごく印象に残っていたんだ。長い時間が経っていたからなかなか思い出せなかったんだけど……その女の子の名前をさっき思い出したんだ」


「――――」


「その子の名前は……みつい なぎさ」


「――――!」


 この時、渚は既に涙が溢れそうだった。

眼は揺れ、潤んでいた。


「もし間違ったらごめんね。渚さんは……あの時、僕と一緒に遊んだ『なぎさちゃん』だよね?」


「――――! 颯太、くん……!」


「――――!」


 颯太の言葉を聞いた瞬間、渚は鼻と口を両手で覆うと、すぐに颯太に飛びついた。

ずっとこの言葉を待っていた。

颯太が、自分を思い出してくれること、そして覚えてくれていたこと。

それを長い間望んでいた渚は、思い出してくれたことがとても嬉しかったのだ。


「渚ちゃん……って呼んでも良いかな?」


「うん……! もちろん!」


「渚ちゃん。僕は渚ちゃんに伝えたいことがあるんだ」


「なに?」


 颯太は心の中で決めたことを言おうとした。

そう、『結婚を前提に付き合って欲しい』と。

しかし、人間というものは『緊張』というものに非常に弱い生き物。

緊張しすぎると、失敗してしまいがちである。

それは、もちろん颯太も例外ではなかった。


「渚ちゃん! 僕は渚ちゃんのことが好きです! あの……もし良かったら、僕と……僕と、結婚してくれませんか!」


「――――えっ、ええ!?」


 あまりの緊張のし過ぎで、颯太は『結婚』を抜かし、さらに『付き合って欲しい』という言葉も頭から抜けてしまったのである。

緊張しすぎたからって、まさかこんな間違いをするのはなかなか見ないですよね……。

わたくしも初めて見ましたよ……。

ということで、颯太は一歩目の段階をすっ飛ばして、いきなり渚にプロポーズしてしまったのである。

 さあ!

颯太の言い間違いで、いきなりプロポーズされてしまった渚。

ありえないと思うが、もしそんなことがあったら絶対に颯太はぶん殴られる。

颯太、絶体絶命のピーンチ!


「――――うん、良いよ。わたしも颯太くんのことがずっと好きだったの! 不束者ですがよろしくお願いします。颯太くん!」


 渚の念願の夢が叶った瞬間だった。

再び颯太を抱きしめて、また涙を流した。

先程の悲しいものとは違い、今回流した涙は嬉しくて流した涙だった。


「渚ちゃんごめんね。本当にさっきふと思い出したんだよ」


「ううん、覚えてくれていただけでも嬉しい。だいぶ昔の話だから覚えていないんだろうなって諦めそうになっていたけど、思い出してくれただけでも良いの。それに……これからは颯太のお嫁さんになれるから!」


「えっ? いやあれは……」


 言い間違いだったとは本人に言えなかった。

本当は付き合って欲しいと言いたかっただけだったが、颯太も渚と夫婦になれるならそれでも良いなと思った。

 さて、これでやっと2人が結婚に至るまでの経緯をお送りしました。

晴れて2人は夫婦となり、これから幸せイチャイチャ生活を送る2人が見れる!

バンザーイ! バンザーイ!

と言いたいところですが、2人はまだ高校2年生。

男女お互いに18歳以上でないと結婚できないという法律が日本にはあるわけで……。

 ちなみに、颯太の誕生日は5月21日、渚は6月11日。

で、この時の月日は9月30日。

まだまだ先ですね。

楽しみにしていたのに……。

 さて次回、時は現在に時を戻して2人の普段の日常を覗いてみます!

そして、ちょっと過去の話も入ることでしょう!

過去の話が入るかは作者さんの気分次第と言うことだそうです!

――――作者さんホンマ頼んまっせ……? 

 それではEDテーマ『新たな始まり』を流してっと……。

では、また次回も楽しみにしていてくださいね!

またお会いしましょう!

バイバイ!

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