Anciend

花楠彾生

Anciend

「あーあ。ふざげんな」

 青く光る一件の通知。それに目を通して言った。それは有名人の一件のツイート。

『他人のこと信じれないとか。疑いの目ばっかり向けやがって。

自分は悪く無いだ?

お前は自分の事信じすぎなんだよね。他人の事信用して無いくせに自分が信用されてるって思ってんだろ、どうせ。馬鹿か。誰もお前の事なんて信用してねーよ』

 リプライを送った。朝に期待し、スマホを握り締め目を閉じた。


『そう言うお前が一番馬鹿』

『やばすぎw』

『後半ブーメランで草』

『Xの事を悪く言わないでください。そもそも、貴方の様な人が居るからXはこう言う発言をしたんですよ。立場を弁えてください。』

『こんな粘着するとかもう好きじゃんw』


 沸いた沸いた。偽善者という名の傍観者が。勝手にXの事を分かった気になってる自治厨が。おもしれぇ。

 RTもいいねも沢山だ。俺の存在が人々に知れ渡って行く。俺を見てる。夢見心地だ。でもこんなもんか。

「足りねぇなぁ」


『こんなん誰でも描けるだろ』

『現実にこんな女は居ない。夢見すぎだろ』

『気持ち悪い絵だな』

 イラストを複数のアカウントで引RTした。やはり複数のアカウントを使うと総合的な反応が多い。SNSってのは面白い。

 イラストの作者は数日後投稿を辞めた。

「やった」

 俺のツイートが効いたんだろう。俺があいつの人生を変えたんだ。……自慢話にでもしよう。そうすれば誰もが俺に着いてくる。


「父さんだよね。これ」

「何?」

「この絵師のアンチ」

 夕方。高校生の二男にバレた。でも別に良かった。こいつにも自慢した。

「は?こんなカスが俺の父親かよ。意味わかんねぇ。……とっとと消えろよ」

「あ?何だてめぇ」

 殴った。立っているうちに顔を二発。倒れてからもう四発。

 蹴った。鳩尾に膝を入れて一回。殴り終わってから三回。

 嫁と長男に止められた。一発殴られた。

 俺は走って家を出た。


 警察には行きたくない。旧友が居るから。

「LIVEでもするか」

 視聴人数十人。俺のフォロワーの一部。

『おいおいまじかよ』

『ネタにしては不謹慎だぞーw』

『何してんw』

『録画しちゃうもんねー』

 チャットには俺と同じ思想の奴しか居ない。こいつらも同じ運命を辿る。

 カメラを俺が全身写る様に設置した。

「It's show time!!」

 両手を広げて言う。視聴人数十七人。

『え、ガチなん?』

『思ったよりデブで草』

『もしかして既婚者ですか?w』

『俺は好きだぞ。お前のこと^^』

『唐突な顔出しw』

『かわいい顔してんなw』

 ちょっと盛り上がった。……足りねぇ。けどまぁ、これが終わったらきっと俺の事を見てくれる奴が沢山出てくるだろう。


 空は真っ赤に染まり、薄い雲がたなびいている。風は無い。一番星さえ見つけられない。月はまるで猫の目の様に細かった。

 カーンカーンカーンカーン。黄色と黒の縞模様のポールが降りてくる。俺はその向こう側へ足を踏み出した。

 二つの丸い目が近付いてくる。

 運転手が目を見開いたのが見えた。

 耳を劈くブレーキ音。

 気付いたらそれは目の前にあった。

 体中が痛かった。



『20XX年、〇月〇日。ある男が、自殺配信を行った。概要は以下の通り。……SNS上で誹謗中傷を行っていた配信主が踏切内に侵入し、その後電車に轢かれてしまう。映像には、男が「It's show time」と叫ぶ姿。そして、鼓膜をぶち破る様な電車のブレーキ音。バラバラになって行く肉片が生々しく記録されていた』


 ……この動画がバズった!? 本当だ。高評価も再生数も尋常じゃない。登録者数も増えた。まるでボクのチャンネルじゃ無いみたいじゃん! あー、夢のようだ。そうだ。


「これからこれで稼いでこっ!」


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